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2017年05月02日
No.10000135

HR講座 キャリアディベロップメント 第1回
キャリアとは何か? その1
個人の成長を組織の成長に

キャリアとは何か? その1

改正職業能力開発促進法が2016年4月1日に施行されました。法の根幹といえる基本理念に「労働者は、職業生活設計を行い、その職業生活設計に即して自発的な職業能力の開発及び向上に努めるものとする」という一文が追加されたのです。

一方、事業者に対しては、次のような責任があることが明記されました。

事業主が必要に応じ講ずる措置として、労働者が自ら職業能力の開発及び向上に関する目標を定めることを容易にするために、業務の遂行に必要な技能等の事項に関し、キャリアコンサルティングの機会の確保その他の援助を行うこと」(第10条の3第1号)

さて、「キャリア」という言葉から何を想像するでしょう? IT系の方だったら、通信事業者、運搬人、運送業を意味する「carrier」を思い浮かべるかもしれませんが、多くの方は職歴などを意味する「career」を思い浮かべると思います。いずれも語源を遡れば、中世ラテン語の馬車「carriage」の轍(わだち)だと言われています。「運ぶもの(馬車)」がcarrierになり、「道筋(経歴)」がcareerになったようです。

ところが現代の日本では、多くの方にとって後者の「キャリア」はちょっと違う意味で使われているように思います。キャリア女性、キャリア組、キャリア官僚など、「エリートコース」という意味合いが強く含まれている場合が多く見受けられます。しかし、人事分野の方であれば、キャリアという言葉を「出世コース」とか「他者に誇れる輝かしい経歴」と捉える方は少ないはずです。

文部科学省は「キャリア」を次のように説明しています。

「人が、生涯の中で様々な役割を果たす過程で、自らの役割の価値や自分と役割との関係を見いだしていく連なりや積み重ね」

これは「道のり」の意味に近いものです。

アメリカ・カウンセリング学会(ACA)会長、全米キャリア・ディベロプメント協会(NCDA)会長などを務めたLee J. Richmond氏は次のように説明しています。

「careerは、『生涯にわたる職業選択に関わる活動・態度のこと』を意味する。もちろん、ここで言う職業選択は、『ライフスタイルの計画、自由時間(余暇)、学習、家族の活動』も含めて考える」

このように、仕事以外のことも含んでいるのです。

日本のキャリアカウンセリング協会(CCA)もほぼこの通りの捉え方をしています。仕事以外のことも含んでいる点はとても重要で、こういった言葉の定義が、キャリア開発や人事に関わる人にとっての共通認識です。教育現場で使われている「キャリア教育」という言葉は、当初は「進路指導」という意味が多分に含まれていたでしょうが、現在では上記のような意味で用いられています。

しかし、キャリア教育という言葉が初めて公文書に登場してからまだ20年も経っていません。高校や大学でキャリア教育を受けていない世代の経営幹部、人事部門の幹部の方の中には、「キャリア」という言葉を異なる意味で捉えている方がいるかもしれません。

人事分野(人材開発、キャリア開発)とは異なる意味で、「我が社の社員のキャリア開発は~」という話をしていては、若手社員とのコミュニケーションは平行線のままです。まずキャリアという言葉の意味を揃えることが必要です。