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2017年03月24日
No.10000042

特集 ホテルビジネス最前線
日本のホテル業界 未曾有の開発ラッシュに沸く!

日本のホテル業界 未曾有の開発ラッシュに沸く!
㈱オータパブリケイションズ 専務取締役 経営調査室室長 村上 実

 2016年度のインバウンド(訪日外国人客)は2403万人(対前年比22%増)となる見込み。この3カ年で急伸している。政府の目標である2020年に4000万人、2030年には6000万人というインバウンドゲストの実現も、あながち夢ではない現実的な状況まできている。ホテル業界の専門誌『週刊ホテルレストラン』を発行するオータパブリケイションズの村上実専務にホテル業界の状況を聞いた。


客室稼働率90%超えも


 2016年のインバウンドは2400万人に達しました。インバウンドが追い風となって、一部地域を除いて、いまホテル業界は押しなべて絶好調だと言っていい。


 ホテルの優劣、営業状況を示す指標に客室稼働率(OCC:Occupancy Ratio)と平均客室単価(ADR:Average Daily Rate)がある。客室稼働率はビジネスホテルのカテゴリーでは80%、シティホテルのカテゴリーでは70%を超えたら優秀と評価される数字であるが、いまや両カテゴリーで90%越えということが珍しくなくなってきている。全国20の政令指定都市の状況を分析しても、ほぼ例外なく、この高水準を保っているというのが現状である。「空室を探すのが大変」という状況を裏付けている。


 一方、平均客室単価の方もうなぎ登りの状況だ。平均客室単価と客室稼働率は、ホテルの営業状況を示すGOP(Gross Operating Profit)の前提となる指標なので、現在のホテル業界が押しなべて右肩上がりの状況にあることが裏付けられる。「出張のためにホテルを探そうとしたら、びっくりするような値段だった」「以前泊まったときの倍の値段になっている」という経験を持つ人は多いだろう。


 オータパブリケイションズが刊行する『週刊ホテルレストラン』の調査によると、昨年12月の全国の平均客室稼働率は77・1%。各地のホテルの声を聞くとインバウンド需要の減少もうかがえるが、平均客室稼働率は前年同月より0・3ポイント上昇した。平均客室単価も上昇したことで、重要な業績指標であるRevPAR(1日の客室売り上げを、1日あたり販売可能客室数で除した数値)も前年同月を上回った。


 では、今後日本国内にはどのくらいのホテルが新設されるのか。『週刊ホテルレストラン』では独自調査をもとに、毎年6月と12月に「全国ホテルオープン情報」という特集を組んでいる。16年12月2日号での調査結果からは、今後2年以内に新規開業ホテルは462軒、7万562室という計画が確認されている。これは過去10年で最高値となった前回(2016年6月3日号)より、131軒、1万8799室増えている結果だ。計画内容を見ると、都市ホテルだけでなくリゾート地での開発も増えていることもまた、これまでの価値観では片づけられない多様化するホテル業界を象徴している現象とも見てとれる。



ホテル業界の構造


 諸手を挙げてホテル業界が好調業種かというと、必ずしもそうとは言えない事情もある。むしろ、問題山積と言ってもよい状況にあると指摘しておきたい。まず、ホテル業界の基本的な構造についてみると、不動産事業という側面と、ホスピタリティ産業という2つの側面を持つ産業であるという特殊性がある。従来、日本でのホテル産業構造は、所有・経営・運営は一つの会社が担っていた傾向がある。今でも、ホテルニューオータニや帝国ホテルに代表されるグランドホテルや地方の代表的なホテルは、ほぼ、この事業形態をとっている。


 ところが、1990年代以降の日本経済の“失われた20年”以降、この事業構造に変化が生まれた。この当時、世界的なホテルチェーンが相次いで日本国内のホテル市場に参入、その多くがマネジメントコントラクト(運営受託)という形式で、日本企業が所有し、ホテルの経営会社を運営、この経営会社が海外有名ブランドのホテルオペレーションカンパニーにホテルの運営を委託するという方式を採るようになった。この結果、日本のホテル業界は、ポートフォリオ分析でいう業態の多様化という現象を生み出していくことになる。



 一般的にホテルの分類は、従来はビジネスホテル、シティホテル、そしてリゾートホテルというように大別されていたわけだが、この時期からホテル業態は一気に多様化し、バジェットホテル、エコノミーホテル、デラックスホテル、ラグジュアリーホテルというような世界で標準的なホテルの業態分類に収れんされてきた。いま流行りの宿泊特化型ホテルは、通常20%台で推移していたGOPを、40%台に引き上げたホテル新業態として注目されている。


 今後、さらにグローバルな視点でポイントになるのが「ホテル格付」の問題だ。観光先進国と言われる国々では、例外なく国レベルでのホテル格付が存在する。だが日本では諸事情により、国レベルでのホテルの格付については一切その必要性が議論されることなく今日に至っている。しかし、ここにきてインバウンドゲストの急伸などの理由から、「海外から来るゲストにとっては、日本国内のホテルのランクが不明確」という不満解消の解決が急務となってきている。この状況を受け、2012年に民間レベルで発足した「ホテル格付研究所」が17年3月に社団法人になり、具体的なホテル・旅館の格付に着手することになった。現段階では、このホテル格付に関して、賛成・反対双方の意見があるが、基本的には20年の東京オリンピック開催時までには、一定程度の理解が得られると推測される。


 他にも解決すべきテーマとなっているのが生産性、収益性の伸び悩みである。これは旅館業法の問題が大きいと私は考えている。日本では同じ宿泊業界でありながら、ホテルが国土交通省、旅館が厚生労働省と所轄の官庁が異なる。旅館業法が制定されたのが昭和23年。そもそも旅館業法が法規制したい対象はソフト(運営)面なのだが、実際はソフトの監視が行き届かないため、予防策としてハード面、いわゆる構造設備、施設設備のあり方の監視になっている。これが、収益性向上を妨げているように思える。


 フロント業務における対面式の接客が、生産性向上を妨げ、なおかつ顧客満足向上に貢献してこなかったのではないかということに関しても触れておきたい。IoT(Internet of Things)化が進む現在、最新の情報システム、顔認証システムやパスポートリーダー等を使用した方が、セキュリティー面の実効性が高いことは間違いない。実際、海外の一流ホテルと呼ばれるホテルのフロントでは、この手の最新システムによるフロントチェックイン・チェックアウトが可能となっている。今後、フロント業務の機械化は間違いなく進むだろう。