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2017年03月24日
No.10000022

生産性を向上させるためには!?
コスト削減だけが手段ではない

生産性を向上させるためには!?

「生産性向上」の必要性を様々な識者が指摘している。アベノミクス以降、円安に振れていることもあり、輸出企業の収益が高まっている。だが、それは為替差益の分利益が上がっただけで、企業の生産性が向上したわけではない。生産性を高めるためのアプローチについて考えてみたい。

文=小川竜司(本誌)


 日本の名目GDPはアメリカ、中国に次ぐ世界第三位だが、生産性という指標でみると先進国の中で下位になる。昨年12月、日本生産性本部がまとめた労働生産性の国際比較によると、日本の時間当たりの労働生産性は42・1ドル。1人あたりの労働生産性は7万4315ドル(783万円)で、OECD加盟35カ国のうち20位。一位のルクセンブルクは日本の2・3倍に相当する。主要先進国の中では最下位だ。

 日本の生産性が低い理由のひとつとして多くのエコノミストは、日本企業の多くが売上や市場シェアの拡大を主眼に置いてきたことを挙げる。特にバブル期までは「売上高」「店舗数」「従業員数」「採用人数」といった、経営上の様々な指標で規模や量、サイズを追求してきた。最近こそ、投下資本利益率(ROI)など投資に対する利益率を重視する企業が増えたものの、いまだに「生産性」に対する意識が低い企業が多いのが実態だ。

 これは、ホール企業でも同じようだ。いくつかのホール企業の店長や営業部長に話を振ってみたが、特に「労働生産性」に対する意識が薄いという点で共通していた。
 「本社勤務なので基本的に土日休みだが、ホールの現場は営業しているので、休日も出勤することが多い」(営業部長)
 「店長は現場にいることが仕事。その場の士気を高めたり、何か問題があったら対応するように、なるべく店舗にいるようにしている」(店長)
 こうした社員は責任感があり当事者意識が高いと評価されてきた。そして、部下にも同じような意識を持つことを求め、結果的に会社全体の生産性低下につながってしまう。

 本来、その時間で、どれだけのアウトプット・価値を生み出したかが重要で、現場にいる時間が価値を生み出すわけではない。店舗型ビジネスでは、どんな業務がどれだけの付加価値を生み出しているのかを定量的に測ることが難しいため、時間当たりの生産性という意識が育まれにくいのだろう。
 そもそも、どんな業種でも「長時間労働」と「生産性」は反比例にある。法律で、法定労働時間を超えた「法定時間外労働」には割増賃金を支払わなければならない。それだけではなく、長時間労働による疲労でパフォーマンスは落ち、さらに翌日以降の生産性低下につながるという悪循環に陥ってしまうのだ。

生産性の定義


生産性の定義とは!?


 では、生産性を高めるためにはどうすればいいのか。それを考える前にまず、「労働生産性」について定義付けをしてみたい。
 一般的に労働生産性は以下のように計算される。



 OUTPUT(付加価値額または生産量など)/INPUT(労働投入量「労働者数×労働時間」)


 つまり、生まれた成果を、費やした労働資源で割った数値が「労働生産性」だ。
 これまで100人で100億円の利益を生み出してきたものを、50人で1 0 0億円の利益を維持すれば、1人あたり労働生産性は2倍になる。逆に、労働量はそのままで利益を200億円に伸ばせば、同じく生産性は2倍になる。
 生産性を高めるアプローチとして、どういったことが考えられるだろうか。元マッキンゼーの伊賀泰代氏は著書「生産性」の中で、生産性を上げるためには「成果(付加価値)を上げる」と「投入資源を減らす(コスト削減)」という2つの方法があり、それを達成するための手段として、それぞれ「改善」と「革新」の2つがあると説明している。右頁のBのようなイメージだ。

 矢印の①は「改善」による投入資源の削減を表している。効率化を図り、無駄な作業や重複した作業を減らす方法だ。これは、ホールの現場でも、経理や人事といった間接部門でも実践されていることで分かりやすいだろう。
 ②は同じように投入資源削減の手段だが、これは身近な改善ではなく仕組みや制度そのものを変える「革新的」な方法によるもの。パチンコ業界で言えば、オペレーションを劇的に変えた「各台計数機」などがそれにあたる。プロダクトに限らず、マーケティングや採用などの「仕組み」面での革新も考えられる。
 ③と④は「成果(付加価値)を上げる」ための「改善」と「革新」のアプローチだ。③の「改善」による付加価値向上は、パチンコホールでは、快適性を高めるような設備を導入して店舗価値を高めるといったこと。④の「革新」による付加価値の向上は、プロダクト面で言えば、古くはフィーバー機や電動式遊技の開発、パチスロのSTやATといったゲーム性の創出も「革新」に該当すると言っていいだろう。ホールでできることは、新たな顧客創造のための(パチンコ・パチスロ遊技以外の)提供価値の創出などが考えられる。

 「生産性を上げる」というと、何かを減らす、削減するといった発想をする人が多いようで、実際ホール関係者に「生産性を上げるために、何かしていることはあるか?」と聞くと「アルバイトシフトの効率化による人件費削減」「電気代削減のためにデマンド監視の徹底」といった回答が目立った。

 伊賀氏は「日本では製造現場における改善運動から『生産性』という概念が普及したため『生産性を上げる手段=改善的な手法によるコスト削減』という感覚が定着してしまっている」とし、コスト削減だけではなく成果の価値を上げること、そして改善的な手法だけでなくイノベーティブな手法や技術を駆使して大幅に生産性向上を達成することも同様に重要だと指摘している。

OECD加盟諸国


継続的な「改善」が生産性を高める


 日本経営合理化協会の常務理事を務める、経営コンサルタントの作間信司氏も、生産性を高めるためには「改善」と「改革」の両輪が必要だと説く。
 「飛躍的に収益性を高めるためには、イノベ―ティブな手法による付加価値向上が欠かせない」としながら、「ただし、実際には大きな革新はそれほど頻繁に行われるわけではない。特に、部署単位、店舗単位で着手できる”改善“をいかに持続してできるかが、長期的に見れば大きな差を生み出す」と言う。
 作間氏がこれまで関わってきた中で、効果的に生産性を高めていた企業が実践していたことのひとつが、必要な業務と不要な業務の棚卸しだ。

 「過去には価値があったかもしれないが、時代の変化によって不要になっている業務が必ずある。その仕事自体の価値がゼロではなくても、投じている時間や手間に見合っていない業務を続けることは明らかに生産性が悪い。また、従業員が自らの仕事が何を生み出しているのか、といったことを振り返るきっかけにもなり、1~2年に一度、従業員たちが定期的に不要な作業を洗い出す会議は非常に効果が高い」
 そして、作間氏は組織の硬直化が生産性低下を招くとし「変える」ことの重要性を説く。
 「営業担当者を変えることで、新たなが提案できるようになる。経理や人事でも担当者を変えれば、無駄な作業が発見できる。さらに言えば、座る位置を変えてみるだけでも効果がある。生産性低下を防ぐためにも、何かを変えることが重要だ」。

 どんな企業でも、過去の慣習だけで続けている無駄な仕事があるはずだ。その仕事がどのような価値を生み出しているか、投じている時間や労力に比して、その仕事は意義があるのかどうかということを、一度考えてみてもいいのかもしれない。