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2017年12月06日
No.10000413

ギャンブル等依存問題
本当に必要な支援のあり方とは(2)

本当に必要な支援のあり方とは(2)

「依存症の疑い70万人」
その実感はない


──10月に厚生労働省の研究班が、ギャンブル等依存症の全国調査の結果を発表しました。この数字をどう見ますか?
中村 直近1年で70万人、生涯で320万人という数だけを見ても、かなり自己解決している人が多いということがわかります。感覚として、パチスロの4号機が流行っていた頃はもっとパチンコ・パチスロで問題を起こす人が多かった。その後、消費者金融の総量規制もあり、いまはそんなに増えているという感覚はありません。今回の調査ではSOGSで5点以上だと「依存症の疑い」に入ってしまいますが、パチンコが好きな人なら大部分が当てはまってしまいます。本当に支援が必要な人が70万人もいるとは思えません。

高澤 少なくとも320万人をベースに対策を考えるべきではありません。使うべき数字は直近1年で70万人の方。マスコミはセンセーショナルになりすぎないよう、使う数字には注意してもらいたいですね。さらに、自己改善8割というのも見逃せなくて、厚労省調査の少し前に出た社安研調査を重ねて推計すると、本当に手厚い支援が必要な人は2~4万人。だから、対策は濃淡が必要で、70万人が回復施設で支援を受ける必要があるとか、貴重な保険財源を使って病院に行かせようといった方向に煽ってはいけません。

──ギャンブル依存対策として、多くの場合GAなどの自助グループや精神科へ行くことを「支援」としている傾向があります。
高橋 行った方がいい人、そうではない人、さまざまだと思います。もし、ギャンブルに問題を抱える人が刑事事件を起こした場合、まずは、その人が自分の生活を良くしていこうとする力を上手に引き出すことが必要で、その上で、オプションとして施設に行く必要があれば施設に行けばいい。でも、当然、施設に行く必要がない方もいるわけで、何らの振り分けもなく最初から施設に行き、回復プログラムを受けなければいけないとしてしまうのはおかしいと思います。

高澤 ギャンブル依存をめぐる対策の現状は、もともとアルコールや薬物依存を診ていた医療機関がギャンブルの問題に範囲を広げているのがひとつ。それから各地の精神保健福祉センターを中心に、ワークブックを使った認知行動療法が始まっています。

朝倉 認知行動療法は認知の歪みを是正するマニュアルがあり、ある一定の研修を受けて使えるようになるかなり特殊な精神療法です。集団でやることもあるし、1対1でやることもある。マニュアルでは10回1クールで宿題を出してやってくる。再発防止が目的です。

──それで回復する人もいますか?
高澤 いるとは思いますが、精神保健福祉センターの認知行動療法でもスッポリ抜けているのが、生活がどうなっているかというところです。家族、本人、支援者が、ギャンブルをやめさえすれば自然に生活はできるようになるという感覚だと非常にまずい。ギャンブルをやってる、やってないに関係なく、うまく暮らせないことが見えていない。こうした本当に支援が必要な人たちに必要なケースワークや生活支援が届かないことが起こり得ます。

高橋 薬物の問題でもいま盛んに認知行動療法が取り入れられていますが、その人自身がどういう人なのかというところを見ていないと思います。結局、その人のことがわからないから適切な支援ができていないのです。確かに、刑事弁護の場面では裁判所へのアピールのためにも、認知行動療法なりの治療法に真剣に取り組んでいることを有利な情状資料として使いますが、それだけのことであり、その先、その人が本当によくなるかどうかは何とも言えない状態です。
中村 最初に認知行動療法などに乗せてしまうと、その時点で「依存症」になるわけです。そして発達障害の人は一回こうだと思ってしまうと修正がきかないので、安易に「依存症」と診断されるのは本人のためにならないのです。

朝倉 病名が拠り所みたいになってしまうんですね。発達障害には同一性の保持という特性があって、毎回同じじゃないと気が済まない。簡単に言えばこだわりです。病名にこだわってしまって、自分は依存症だからほかの病気ではないという話になる。どう説得しても受け入れられない。

──最初に依存症ですと言ってしまう人は誰ですか?
中村 家族や社会ですね。

高澤 病気だと言ってあげることで本人や家族がホッとすると思い込んでいる支援者もたくさんいます。

中村 だから、社会の中でこれだけ依存症という言葉が氾濫すること自体、非常にまずいことなんですね。

高澤 リカバリーサポート・ネットワークの電話相談では、最初にきちんと生活の視点で聞いて、あなたの場合はこういうところで苦労しているんですねというところから入っていますよね。はじめに「依存症」とか「病気」と括らない。その人に寄り添って相談に乗っている。そういう相談が入口にないと非常に厳しい状況になりますね。
朝倉 病気と言って、それを利用して良いときもありますが、そこで終わってしまうと、その人の背景がないがしろになってしまいます。その結果、支援の内容がまったく違う方向に行ってしまう危険性があります。そこは慎重に伝えてほしいですね。

中村 GAに行くことが良いことのように言われていますが、GAで良くなる人は少数で、落ちこぼれる人が多数です。ギャンブルが止まっても、一部はGAに行くことじたいが人生の目的みたいになる人もいます。これはこれで悲劇です。そうすると、人間らしい生き方、それこそマラソンをするとか、遊ぶとかということがなくなってしまう。私たちも以前はGAに行くことを勧めていたわけですが、それはマズイだろう、もっと人間的な人生があるんじゃないかなと気づいた。その時に、最初の段階で依存症と名前を付けないほうがいいと思ったんです。


<つづく>
本当に必要な支援のあり方とは(3)
本当に必要な支援のあり方とは(1)