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2017年12月08日
No.10000420

インタビュー
篠原菊紀教授に聞く依存問題の真実 
パチンコの「依存の疑い」は自然回復率が高い

日工組社安研が8月に発表した「パチンコ・パチスロ遊技障害全国調査」、厚生労働省から委託を受けた研究班が9月に発表した「国内のギャンブル等依存に関連する疫学調査」など、パチンコ・パチスロを含む「ギャンブル等依存問題」の実態が明らかになってきた。この調査をどのように捉えればいいのか、今後、パチンコ業界はどのような対応を取るべきなのか。社安研の調査にもかかわった諏訪東京理科大学の篠原菊紀教授に聞いた。 


聞き手=小川竜司(本誌) 写真=友田享助(本誌)

──10月に厚生労働省研究班の最新の調査報告が発表されました。過去一年以内で軽度以上のパチンコ・パチスロ遊技障害(いわゆるギャンブル依存)を有するおそれのある人の推計が約70万人。一方、日工組社安研内の「パチンコ依存問題研究会」が8月に発表した「パチンコ・パチスロ遊技障害全国調査」では約40万人です。この結果について、どう捉えるべきなのでしょうか。
篠原 この2つの調査の示す実態はほぼ同じです。研究班の結果は70万人でしたが、このうち、主に「パチンコ・パチスロ」を遊技している人は約8割、約56万人です。これでも社安研の結果より16万人多いのですが、この差はカットオフ値の扱いの違いです。

研究班の調査は「SOGS」というスクリーニングテストを使い、5点以上を依存の疑いとしています。社安研の調査はパチンコ・パチスロの実態に沿った「PPDS」というテストを用いています。パチンコ・パチスロユーザーを対象に事前調査を行いDSM‐5(精神疾患の診断と統計のマニュアル第5版)のギャンブル障害の基準(4点以上が障害の疑い)との関連からカットオフ値を算出し61点以上を「疑い」としています。これが「SOGS」では7、8点以上に相当するのです。

SOGSもDSM‐5の4点以上を基準にしていますが、パチンコ・パチスロの場合はカットオフ値を上げないとDSM‐5に合わなくなってしまうわけです。この「疑いすぎ」の部分が16万人程度ということです。カジノユーザーとパチンコ・パチスロユーザーが「SOGS」で同じ点数なら、パチンコ・パチスロユーザーの方が「軽い」わけです。

──2つの調査結果から分かったことは?
篠原 大きな特徴は、日本では自然回復する人がかなり多いということ。研究班の調査では「生涯のいずれかの時点でギャンブル依存が疑われる状態にあったことがある人」の推計値が320万人、直近1年の推計値が70万人。つまり、250万人は過去に問題があったが、現在はその問題を抱えていないわけです。

社安研の調査でも過去に問題を抱えていて現在問題を抱えていない人の割合は約8割でした。元々、諸外国の研究でも、ギャンブル依存は自然回復率が高く、3割から6割程度が自然回復すると報告されていました。それが日本では8割に及ぶ。しかも、この8割のうち、回復のために専門機関を利用した人は数%程度です。パチンコ・パチスロの依存問題は諸外国とは様相が違う。流動性が高く、軽いとみていいんじゃないかと思います。

──パチンコやギャンブル依存の実態が、これで徐々に明らかになってきました。今後、国が定めるギャンブル等依存対策基本法にも、こうした実態が影響するでしょうか?
篠原 衆議院の解散で廃案となりましたが、素案から大きく変わることはないでしょうね。おかしな話ですが。「案」を作るにあたっての前提となる「ギャンブル等依存症の実態」が大きく変わったわけですから、練り直しが必要だと思います。536万人ではなく70万人、8割は自然回復していく、そういう実態に即した「案」であるべきです。パチンコ業界の出玉規制を含めた対策案も見直すべきなのではないかと思います。

──そもそも出玉率(射幸性)と遊技障害者の人数に因果関係はあるんでしょうか?
篠原 エビデンスベースで話すなら、「現時点では分からない」というのが正確な答えになります。今回初めて、日本の「直近一年」の推計値が分かったわけです。依存対策としての効果を測るなら、規制後にこの数がどう変わるか、規制と依存の人数の変化に因果関係があるのかを調べなくてはなりません。

社安研調査の、一般ユーザーとリスクユーザー(ギャンブル依存が疑われる状態にある人)の平均使用金額を比較すると、リスクユーザーの方が消費金額が高い傾向がありますから、射幸性や出玉を抑えることが一定の効果が出るかもしれません。ただし、この結果はあくまで相関が見られたというだけです。因果関係を調べるには、消費額が高い一群の依存のリスクがどう変化していったかを見ていくといった追跡調査が必要です。

──追跡調査は時間がかかるのでしょうか?
篠原 生活習慣や食事習慣と健康との関連を見るような疫学調査では、通常15年、20年と長期にわたって調査を行いますが、リスクユーザーと射幸性との因果関係を調べるために10年以上必要かというと、そんなことはありません。

現在、社安研では、遊技障害の要因となりうるであろう項目、あるいは先行研究でこれが要因になりうるのではないかという項目について追跡調査を行っており、この結果は2、3年で出てきます。このほか、遊技時間や消費金額、遊技頻度などがどの程度依存リスクと関わっているのかについては、例えば現在ホールで使用されている会員管理システム程度でも、検討は行えます。



アドバイザーの役割は自然回復のサポート

──「遊技障害が疑われる人」40万人の中でも、軽度、重度と分布があるのでしょうか?
篠原 40万人の中で、マスコミが取り上げるような「繰り返し借金をして尻拭いを家族に頼む」とか「職業的な危機に瀕する」といった「重度」に分類される人は5万人から10万人程度と推計されます。そのうち、8割は自然回復することを考えると、重度が続く人は1万人から3万人程度と考えられます。かなりざっくりですが、1ホールあたり1人から2人程度ということになります。

──重度が続く人は、何か他の障害を抱えている人が多いという意見もあるようですが、この点についてどう思われますか?
篠原 ギャンブリング障害は併存障害が多いというのは事実です。アルコール依存15・2%、薬物依存4・2%、うつ29・9%、そううつ8・8%、統合失調症4・7%、パニック障害13・7%、社会不安14・9%、PTSD12・3%、ADHD9・3%。合併障害全体では74・8%におよぶというアメリカでの調査結果があります。

日本でも、遊技障害の多くが自然回復するはずなのに、なぜ一部の人は自然回復しないのかと考えると、統合失調症、うつ、発達障害などが背景にあるという見方をするのが妥当かもしれません。多くの人は、ある時期にハマっても、どこかではたと気が付き、生活とのバランスを取り戻していく。一方で衝動性が強い、こだわりが強い、先を見通すのが苦手、コミュニケーションが苦手、生きる上でトラブルを起こしやすい、などの背景要因がある人は回復どころか重症化していく。インターネット障害やゲーム障害でも同様で、ゲームにハマる人は多いのですが、それが原因で仕事や生活に問題が生じる人は、発達障害などの問題を抱えているケースが多いのです。ですから、重症化する人は、ギャンブリングの問題だけで考えても解決にはつながりません。福祉的対応が必要になります。

──他国の同様の調査と比べても、日本が突出して高いわけではありません。
篠原 各国の「ギャンブル等依存症が疑われる人の割合」を見ると、日本は「生涯」の割合は高いが、「直近1年」の割合は諸外国と同じか、むしろ低い。どの国も0・4%から0・8%程度の範囲に収まります。

ひとつの仮説として言えるのは、ギャンブリングの種類、規制の仕方、射幸性などは関係なく、どんなギャンブルでもあっても、ギャンブル依存は一定数生じるのではないか、ということ。統合失調症の発生割合がどの国でも同程度であるのと同様に、ギャンブル依存の要因として、文化的・社会的要因より、生物学的要因を見た方がいいのかもしれません。実際、ギャンブル依存の遺伝率は50%程度と報告されていますから。

──パチンコホールは日本全国にあり、誰でも参加しやすい環境にあります。一方、海外のカジノなどは距離的なハードルが高い。それでも、日本が諸外国と比べて同程度の数値というのは、非常に少ないように思いますが?
篠原 機械の数に比べると少ない、ということは確かに言えますね。従来のギャンブリングの研究では近接性仮説といって、カジノなどギャンブリング施設との距離が近い人ほど、依存のリスクは上がる傾向があります。

一方、社安研調査では、パチンコは遊技場の距離との相関はほぼ見られませんでした。カジノのような距離との関連があったとしたら、日本では爆発的に依存リスクを抱えた人が発生してなくてはおかしい。それがないのは、日常的に通える場所にあるからこそ、適度に付き合えるように落ち着いていく、ということかもしれません。

自然回復が多いという結果が示すように、パチンコ・パチスロユーザーは集団で見れば依存のリスクを回避するように行動している。使いすぎたなと思ったら一時的に止めたり、1円パチンコに移動したりする。そういったプレイヤーのリスク回避的な行動が、業界から見れば顧客のニーズの動向となっているわけです。ホールがプレイヤーのニーズに対応することが結果的に依存対策にもつながっていた。私はそう思っています。そのつもりはなく、いやいやだったかもしれませんが、依存のリスクを回避できる仕組みを作ってきたとも言えます。 

──パチンコ・パチスロプレイヤーは考えて行動する人が非常に多いのですね。
篠原 自然回復率の高さを見て、もっとプレイヤーを信頼していい、やたら保護しなくてもいいんじゃないかと思いました。国が考える「ギャンブル等依存対策」は、ギャンブルや遊技に参加する人を「脆弱な存在」として扱っているように見受けられます。

生活破綻する人がたくさんいる、もっと保護しなくてはいけない、周りが守らなくてはいけないというのが、国が考えるギャンブル依存対策の下地にあるとすれば、それは誤りです。パチンコ・パチスロプレイヤーはそんな脆弱ではない。リスク回避を考えて行動するし、生活の範囲でうまく付き合えるように落ち着いていくのです。

──業界が行っている、安心パチンコ・パチスロアドバイザーや自己申告プログラムなどの取り組みはいかがでしょうか?
篠原 非常に大切なことですが、実際に利用する人はかなり少ないはずです。重症化する人は「1ホールあたり1人から2人程度」という実態からすれば、それが普通なのです。

仮に「自己申告プログラムの利用者が少ないから、実効性が薄い」といった指摘があったとしたら、それはこうした実態を理解していないから。アドバイザーにしても、本当に問題が重症化する人、もしくは、してしまった人から相談を受けることはほぼないでしょう。自然回復がこれだけ多いのですから、自然回復のサポートになるようなアドバイスが効果的になってくると思います。「お仕事頑張ってください」「ご家族と仲良くお願いします」「ほかの余暇も大切にしてください」といった、パチンコ・パチスロ云々ではなく、当たり前なメッセージが大事だと思います。

──最近では少なくなってきましたが、いまだに「ギャンブル依存症536万人」などを引用するメディアや機関もあります。正確な実態を広めていくためにパチンコ業界ができることは?
篠原 「ギャンブル障害は進行性の病である」とか「専門治療を受けなければ症状の改善は期待できない」「ギャンブル障害は疾病(ギャンブルが原因で生じた後天的な障害)モデルで全体を説明することができる」など、ほとんど迷信に近いようなことを、「専門家」と称する人が言っていることもあります。

重要なのはエビデンスベースで議論をすること。業界ができることの一つとして、ウェブなどを含めて正確な情報を発信していくことです。新しく正しい情報空間を作り上げていくことが、本当は遊技障害でない人が過剰に心配してしまう愚を減らし、楽しい遊技をサポートすることにもなりますから。(了)




しのはら・きくのり
東京大学教育学部卒業。諏訪東京理科大学共通教育センター教授。茅野市縄文ふるさと大使。遊技障害予防研究、健康ぱちんこの展開。プローバAC事業部と脳のリハビリ。豊丸産業と遊びを介護予防に生かす研究など、パチンコ業界との関わりも深い。日本遊技関連事業協会の理事。著書、監修:「いきいき脳トレ体操」「中高年のための脳トレーニング」 (NHK出版)、「60才からのボケないための脳力テスト」(永岡書店)、 「子どもが勉強好きになる子育て」(フォレスト出版)、他多数。