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2019年01月09日
No.10000975

若い力で落語ブーム再来
一過性ではない落語の魅力

若い力で落語ブーム再来
聖徳記念絵画館(東京・新宿)で行われた林家木りんさんの独演会。会場はファンで埋め尽くされた

落語はいま、さまざまなメディアで取り上げられる旬のエンターテインメントだ。その多くは岡田将生さん主演のテレビドラマ「昭和元禄落語心中」に関連するものだが、落語界そのものにも非常に興味深い変化が起きている。若手落語家の台頭だ。


『月刊アミューズメントジャパン』(19年1月号)の特集でインタビューに応じてくれた林家木りんさんは、人気若手落語家の代表格だ。20歳で林家木久扇師匠に入門し、4年8カ月の見習い期間と前座修行を経て、2013年11月に二ツ目として独り立ちした。

二ツ目というのは東京を中心とした「江戸落語」で採用されている階級制度の身分の一つ。師匠の付き人や寄席での雑用仕事から解放されて、自分で仕事を創造する。前座を3年から4年務めると昇進し、二ツ目は約10年で師匠と呼ばれる真打に昇進する。

江戸落語では真打、二ツ目、前座が合計900人程度いると言われている。概ね650人、150人、80人のボリュームで、真打が圧倒的に多い。落語家は生涯現役の職業であるため、よほどのことがない限り、この逆三角形の構図が崩れることはない。ではなぜいま、第2勢力である二ツ目が注目を集めるようになっているのだろうか。


若手が主役を張れる
最大の理由は二ツ目が高座に上がる機会が増えたことにある。代表例が東京・渋谷で開催されている「渋谷らくご」だ。

全178席のミニシアター「ユーロスペース」で行われる渋谷らくごは、14年11月にスタート。「初心者でも楽しめる」をキャッチコピーに、ひと月に5日間10公演が行われている。若手の二ツ目からベテラン真打までが、一人30分で演目を披露。平日は1時間枠・1200円から楽しめる。

立地、手軽さ、料金設定などの理由から若年層も来場するため、主催者側も彼らを意識した演者をラインナップする。この取り組みが功を奏し、観覧した若年層の間では落語=堅苦しい古典芸能ではなく、粋なライブというイメージが浸透。若手落語家の人気を後押ししている。

上方落語の桂優々(かつら・ゆうゆう)さん。木りんさんと同期で09年4月入門

一方、落語の聖地である定席寄席でも初心者をターゲットとした「深夜寄席」が開かれている。定席寄席とは1年365日、ほぼ年中無休で興行している寄席のこと。新宿末廣亭(313席)、浅草演芸ホール(340席)、池袋演芸場(93席)、鈴本演芸場(285席)の都内4軒を指す。

特に盛んに深夜寄席を行っているのが新宿末廣亭だ。毎週土曜の午後9時半から11時に開催しており、1000円で若手二ツ目4人の演目を楽しめる。通常ならば前座仕事である入場列の整理や場内アナウンス、高座返しなどの寄席仕事を、演者が行うことで運営費用を抑えている。

落語芸術協会に所属する二ツ目の中には、「成金」というユニットを組む若手も存在する。13年に落語家10人、講釈師1人で結成。毎週金曜に東京・西新宿のレコードショップで開催する落語会は、各回満席になるほどの人気ぶりだ。

女性ファンも夢中に

落語には自ら演じる楽しみ方もある。アマチュアながら個人やサークルで落語会を開くほか、プロの落語家が指導する落語教室に通う人もいる。話し方や身体の使い方が学べる落語教室は、人前でも緊張しない度胸やプレゼン能力が身に着くためビジネスマンにも人気だという。

ライブエンターテインメントと言える落語には、その場に居合わせた人だけが味わえる生の価値がある。演者の表情や息遣い、間の取り方。二つとして同じではない体験価値を、今後も若手の落語家が中心となって創っていくのだろう。

出囃子は金属打楽器のすりがね、拍子木、太鼓、三味線などで奏でる