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2020年04月24日
No.10001674

WISESHINE 大津直高代表(社会保険労務士)
休業対応と助成金
[コラム]知らなきゃ損する労務知識

休業対応と助成金

新型コロナウイルスの影響で混乱が続く中、問い合わせが多い内容を取り上げました。イレギュラーな対応が多発します。正しい情報を収集しながら対処していくことが求められます。

顧問先の社長から電話が入った。
社長 「微熱があるということで休んでいた社員への対応ですが、困ったことになりましてぇ」
大津 「熱があるから会社を休む。これで困ったこととは何でしょうか」
社長 「熱があるときに休む、これは問題ありません。有給休暇の申請があればそれで対応しますよ。しかし、熱が下がった後の会社の対応ですよ」

なるほど新型コロナウイルスの感染の可能性を懸念しての悩みである。具体的には出勤させて良いのかどうかの迷いであろう。
社長 「もしものことを考えれば、1週間程度は体調の様子を確認した方がいいと思いまして、1週間の休職を命じました。私の判断は正しかったのでしょうか」
大津 「このようなときですから、大事を取ったということですね。1週間の経過観察の重要性を考慮した、これは正解です。しかし、休職命令を発令したことは間違いと考えてください」
社長 「では有給休暇を申請させるべきだったのでしょうか」
大津 「有給休暇は本人からの請求が基本です。本人から出勤すべきかどうか会社の指示を求められたときに、出勤を控えるように指示したとします」
社長 「そうですよね、出勤しないように指示しますよね」
大津 「そうなれば、休業を補償しなければなりませんから休業手当を支払う必要が生じます」

休業手当は労働基準法で明文化されており、使用者の責めに帰すべき事由により休業となった場合は休業手当を支払うように定めてある。なお、緊急事態宣言等により休業協力に応じた場合等は、一律に休業手当の支払義務が生じるものではないことを付け加えておく。
大津 「今回のように新型コロナウイルスにより休業とせざるを得ないケースは、会社の都合による休業ではありませんが休業手当の対象となってしまいます」
社長 「会社としては納得がいきにくい話ですよ。ただでさえ営業に影響がでているというのに…。先生、もし検査をして陽性だったときも休業手当を支払うのですか?」

今回のケースは検査自体を行っていないが、検査をしたとなれば陰性か陽性の結果で動きが変わってくる。
大津 「もし陰性であり、休業を指示すれば休業手当は必要です。しかし、陽性となれば労務不能と判断されるので傷病手当金の申請ができます。よって会社の負担はないと考えてください。このときの会社の措置としては休職命令を出して、休業ではなく休職として扱うことになります」

傷病手当金は医師の証明が必要になるが、新型コロナウイルスの感染に似た症状があれば、特例的に医師の診断の代わりに事業主の証明で認められるようになっている。
社長 「緊急事態宣言などで自粛要請に対応するために店舗を閉鎖したときは従業員を自宅待機させることになりますが、それは休職扱いでいいでしょうか。要請に協力するわけですから会社の都合ではありません。会社としては営業を続けたいですよ」

社長の主張はもっともである。店舗を閉めれば収入がなくなる。しかも休業手当も支払うとなれば、まさに泣きっ面に蜂だ。
大津 「お気持ちは分かりますが、この場合は休業手当の対象になります」
社長 「え~っ、やはりそうですか。これは厳しいですよ」

社長の顔色がみるみるうちにくもっていった。変わっていくことが見て取れた。キャッシュフローのことを考えると当然であろう。
大津 「しかし、政府の緊急対策として雇用調整助成金の拡充があります」


雇用調整助成金の注意点
雇用調整助成金とは、本来、事業の縮小などで経営が厳しくなり労働者を休業させることになる場合に受けることができる助成金である。今回、この助成金を新型コロナウイルス対策の助成金として活用することになった。迅速に対応できるように簡略化されて利用しやすくなっている。
社長 「ああ、その助成金。よく耳にするようになってきましたね。具体的にこれって我が社でも利用できるんでしょうか。いまひとつ把握できていなくて」

雇用調整助成金を利用せざるを得ないほど経営が悪化するケースは少なく、馴染みがない助成金であるため無理もない話であった。
大津 「簡単に流れを説明しますね。店舗を閉めたとします。そうすれば、自宅待機の従業員が出ます。その人たちに休業手当を支払います。休業手当の支給実績に基づいて雇用調整助成金の申請をします。解雇等をしなければ支払った休業手当に相当する金額の90%を助成金として会社が受け取ることができます」

雇用調整助成金は計画書を休業前に提出しておかなければならないが、今回は緊急措置として第1回の申請は休業後でもいいということになった。
社長 「なるほど、きちんと従業員に休業手当を支給すれば、後から助成金という形で国が補填してくれるイメージですね」

泣きっ面に蜂の表情から、ひとまずホッとした表情に変わった社長であった。
大津 「ただ、事務処理は煩雑になります。まず正しく休業手当の計算をしなければなりません。休業手当の額は平均賃金の6割以上となっています。対象従業員の平均賃金を正しく算出し、6割以上になるよう間違いなく支給してください。助成金を申請するのであれば支給割合を労使協定で定めなければなりません。申請時に6割を下回っていると助成金を受け取ることができなくなります」

雇用調整助成金は休業手当を支給した場合が対象であり、同じ未出勤でも有給休暇の場合は対象外になるので留意してほしい。
社長 「概略は把握できたので、詳細についてはご指導ください」
大津 「はい、分かりました」


詳しくは月刊アミューズメントジャパン2020年6月号をご覧ください。