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2022年02月01日
No.10002645

【特集】異業種参入で新機軸/ホール参入事例②
BFHD╱ドローン配送事業に参入
トラック運送会社を買収し業界研究を本格化

BFHD╱ドローン配送事業に参入
李 忠烈 代表取締役社長

茨城県でホール4店舗を経営するBFHD(ボーダレスフィールドホールディングス)は2021年9月に県内の運送会社を買収した。見据えるのは「ラストワンマイル」と呼ばれるドローンを活用した配送事業だ。

BFHD(茨城県)は現在、グループの2法人(ファーストハート、東王観光)が4店舗のホールを経営している。2020年5月、新型コロナウイルス感染症拡大防止のために協力した休業が明けた後、客足の戻りが特に悪かった2店舗を閉店する決断をした。李忠烈社長は「コロナ前から苦戦していた店舗ですが、グループ他店と比べて高齢客の割合が高かったことが、休業明けに稼働が戻らなかった大きな要因だと思います」と振り返る。

李社長の決断は早かった。2020年6月にはキッチンカー&移動販売車によるケータリング事業を開始。閉店した店舗の2階にあった社員食堂用キッチンを拡充し、セントラルキッチンに転換したのだ。コロナ禍で事業はすぐに軌道に乗り、キッチンカー3台と乗用車4台による月商は400万円から500万円で安定するようになった。パチンコホール事業の収益とは比較にならないが、借りていた敷地の大部分を解約すると同時に減額交渉をしたことで、賃料がパチンコホール営業時の4分の1に圧縮できたことも功を奏した。

「閉店した店舗のスタッフがそのままケータリング事業にシフトしてくれたので、雇用を継続できましたし、スムーズに事業をスタートできました」

そして2021年9月、BFHDは茨城県石岡市に拠点を置くトラック運送会社「パゴタ急便」を買収した。同社はトラック7台を保有し関東圏内で衣料品や靴、自転車、浴槽ユニットなどのルート運送を手掛けている。

「運送業界は後継者不足とドライバーの高齢化という大きな問題を抱えています。通販物流が増加しているにもかかわらず、『ラストワンマイル』と呼ばれる配送拠点からお客様に物が到達する最後の区間の配送を行う人手が圧倒的に不足しているのです。この問題を解決すると期待されているのがドローン配送で、私はこの実用化の研究をするために運送業界の知人と共に勉強をしていました。その縁で2021年の春頃に、後継者がいないパゴタ急便さんが事業譲渡を考えていると知りました。知人から『運送業のノウハウならいくらでも支援する』と背中を押され、事業譲受を決めました」(李社長)

BFHDは2019年10月に千葉県松戸市にドローンスクール「DSCドローンスクール千葉」を開校し、以降、茨城県、神奈川県にも開校していた。2021年12月には群馬県前橋市に「DSGドローンスクール群馬」を開校したばかり。

現状のドローンの操縦ライセンスは民間の認定資格。BFHDのスクールの「基礎コース」は座学3時間と実技10時間で実技試験を受けられる

「ドローンを活用した事業への参入を考え始めたのは2018年頃から。ドローンスクールは、講習の時だけ河川敷のような場所を借りるところと、弊社のように常設のコート(練習施設)を持っているところに大別されます。2022年にドローン操縦が国家資格化(免許制)されるのに伴い、スクールの淘汰が起こるでしょうから、それまでにスクールとしての実績を重ねようと考えてきました。これと並行して商業施設内でのドローン配送の実証実験にも参加してきたのです」

ドローンの活用が見込まれる事業領域は約60あると言われるが、李社長はスクールの次の事業として運送領域でのドローン事業の研究を本格化することにしたのだ。

2022年 航空法改正
ビジネスが加速する


インプレスのシンクタンク部門であるインプレス総合研究所のレポート『ドローンビジネス調査報告書2021』によると、ドローンを活用したサービスの市場規模は2020年度には推計828億円だが、2025年度には5・3倍の4361億円に拡大すると見込まれている。

同レポートはドローンを活用したサービス市場について、「特に、農業、土木・建築、点検、公共といった分野では、ドローン活用の効果が明確化してきており、現場実装の段階に進みつつある」「2020年度は特に物流分野の動きが際立っており、2022年度の『有人地帯の目視外飛行』実現(※1)に向けた新しい取り組みが多数見られた」としている。

ドローンは災害時にも活躍する。昨年7月3日に静岡県熱海市で発生した土砂災害では、真っ先に現場の状況把握に駆け付けたのが航空自衛隊のドローンだった。BFHDはこの2日前の7月1日に松戸市と災害協定を締結しており、災害時には現場の映像・画像等の情報収集を行う。

物流分野に関しては、公園や広い敷地を持つ商業施設での実証実験に参加してきた。例えば、キャンプ場の山頂部への食事の配送。ふもとからドローンでケータリングすることで、レストランや売店がない山頂部でもグランピング施設の利便性を高められる。しかもドローン配送は、トラックなど既存の運送手段と比較すると、配送時間もエネルギーコストも大幅に削減できる。

BFHDが2021年9月に買収したパゴタ急便はトラック7台を保有するトラック運送会社。ドローン配送の事業化を見据えた運送業への参入だ

こういった配送用途に対応するために同社は約25キロまでの荷物を運ぶことができる機体「Express Bee」を独自開発した。また、目視外飛行が認められていない場所で視界外に配送できるよう、中継地にいるパイロットに操縦権限を引き渡す独自の通信技術も開発した(※2)。

「近日、商業施設内のドローン配送を正式に受託できる見込みです。道路などのインフラが整っていない場所での、食事や医薬品の迅速な配送ニーズは非常に多い。この取引先を広げつつ、その次に目指すのが、配送拠点からお客様の最寄りのコンビニエンスストアなどへ荷物を運ぶ、ドローンによるラストワンマイル配送の事業化なのです。トラック運送会社を買収したことで、業界の非効率さなど、さまざまな課題がかつて以上に見えてきました。ドローン配送だけでなく、運送会社のオペレーションを効率化する手法を確立したら、それを業界内に提案していく事業もアイデアとして持っています。2022年から2023年に大きな動きが起こるはずです」

※1 政府は2022年度をめどに、「有人地帯上空での補助者なし目視外飛行」(いわゆるレベル4飛行)を実現するために、2021年3月に航空法の一部を改正する法律案を閣議決定した。レベル4飛行により、街中を飛行するドローン物流の活用の可能性がさらに広がると期待されている。

※2 航空法によってドローンは、飛行させる無人航空機の位置や姿勢を把握するとともにその周辺に人や障害物等がないかどうか等の確認が確実に行えることを確保するため、目視により常時監視を行いながらの飛行に限定されている。


※『月刊アミューズメントジャパン』(2022年2月号)から転載