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2024年01月05日
No.10004032

ホール営業に本格的AIを導入|合田観光商事
適正粗利の予測と予算策定の自動化に挑む

ホール営業に本格的AIを導入|合田観光商事
左からベルテクスの塚田COO、合田観光の小濱部長、小野室長、ベルテクスの山口社長

「ひまわり」の屋号で北海道と東北にホール35店舗を展開する合田観光商事(本社 : 札幌市)が、ホール経営に本格的にAIを導入する。パートナーとなったのはエンターテインメント業界においてAI活用などの企業変革支援を行うベルテクス・エンターテインメント。属人化していた営業管理からデータドリブン経営への変革に挑んだ。


課題を抽出してAIの可能性を探る

1952年の創業から70年を超えた合田観光商事(以下、合田観光)は、創業者の「お客様第一主義」を連綿と受け継ぐホール経営企業だ。一方のベルテクス・エンターテインメント(以下、ベルテクス)は、DXや新規事業などのコンサルティングサービスを提供するベルテクス・パートナーズが2023年に設立した会社。ベルテクス・パートナーズは2015年の創業以来、クライアント企業の自走化を目指すコンサルティングサービスを提供。主要クライアントには大手上場企業の社名が並ぶ。

ベルテクスの山口正智社長は、大手コンサルティングファームに在籍していた際に、ホール経営企業の経営支援に携わった経験を持つ。ベルテクスを設立した理由をこう話す。

「ベルテクス・エンターテインメントは、エンターテインメントの中でもパチンコ業界の企業様に特化してご支援し、業界全体を盛り上げたいという思いで立ち上げました。業界全体が縮小し、先行きが見えづらいなかで、先端技術を活用して業界に変革が起こり、会社やそこで働いている人たちがより良い方向に向かってもらえればと考えています」

両社が出会ったのは2022年6月。AI導入のプロジェクトを先導してきた合田観光の小濱邦英管理部長は当時をこう振り返る。

「そもそも数値管理の高度化に興味があったので、たまたま知り合いが引き合わせてくれたのが始まりでした。他業種の企業を支援しているコンサルタントの方とは、これまでお話したことがなかったので、こういう会社もあるんだなと思いました。その中で、当社の営業の現状や制度的な課題を聞いていただきました」

山口社長の印象はこうだ。

「100年企業を目指して業務の進め方を改善していきたいというお話がスタートでした。詳しく話を聞いてみると、店舗ごとに業務の最適化が進んでしまっている一方で、全社的な連携や業務の効率化というところが課題として見えてきた。そういったところを、デジタル技術を使って解決できるのではないかというお話をさせていただきました」

その後は小濱部長が経営層との間をつなぎ、DXのゴールや実現性を評価するDX構想策定がスタート。その結果見えてきたのは、ホール営業におけるさまざまなデータを活用しきれていないという現状だった。例えば、活用すべきデータが膨大で、分析に膨大な時間を要している、店長により分析方法にバラつきがある、などだ。

もうひとつの課題が、従来のいわゆる「経験則に基づく営業」だった。これにより店舗毎に営業手法が異なるケースも見られた。店長個人の考え方が反映された独自の理論で営業しているケースだ。山口社長はこう振り返る。

「社内には非常に多くのデータがあるので、しっかり活用することで、より精度の高い経営ができるのではないかと思いました。そしてそこにAIを使いましょうと。AIのベースにあるのはデータです。データが多ければ多いほど、AIの精度は上がっていきます。業界でいち早くAI導入に取り組むことで活用できるデータが増え、競争優位性を獲得していくこともできます」


デジタル人材を育成するワークショップを開催

同時に取り組んだのが先端技術活用ワークショップの開催だった。DXを進めるにあたって、デジタル人材の確保は急務。そこで、15人の社員が22年11月から23年2月かけてベルテクスによる研修を受けた。山口社長は研修を受けた社員の意識の変化に驚いたという。

「研修の最後には先端技術を使った新規事業のプレゼンまでやっていただいたのですが、研修を重ねるごとに、みなさんの目の輝きが変わっていきました。当社のメンバーは他業界の大手企業向けに同じような研修サービスを実施していますが、こんなにみなさんにやる気があって、真っすぐで、会社を良くしたいという熱い思いを持っている会社はいままでに見たことがないと言うくらいでした」

小濱部長と一緒に今回のプロジェクトに関わってきた営業戦略対策室の小野真也室長もその変化に驚いたという。

「自分は研修には参加していなかったのですが、参加したメンバーからは、本当に勉強になったと聞きました。その後のAIの開発に関わりたいというメンバーも多かったですね」

ツール上で営業数値を一元管理

こうした経緯を経て、23年5月から新しいプロジェクトが始まった。名称は「Project:Himawari Brain Pro」(プロジェクトひまわりブレインプロ)。データ経営AIソリューション「Himawari Brain Pro」を導入・活用し、現状の課題である勘と経験に基づく経営スタイルから脱却し、AIを活用したデータドリブン経営への変革を目指すものだ。

「Himawari Brain Pro」では、次の3つの課題を解決していく。
1 適正粗利の予測(売上・稼働の予測に基づく予算組み)
2 数字の根拠(KPIに基づく計画立案・評価)
3 予算策定業務の効率化(業務工数を減らし空き時間をつくる)

開発に当たっては、過去5年間の営業実績だけでなく、天候、地域のイベント、競合情報などを加味。日ごと・月ごとで最適な予算を自動計算。BI(ビジネス・インテリジェンス)ツール上で営業数値の一元管理ができるようになり、経営層や役職者の意思決定をサポートしていく。

開発は23年5月からスタート。23年12月から6店舗でのテスト運用が始まり、テスト運用で出た課題を解決して、24年春の全店舗導入を目指す。

DXを阻む5つの壁とは

一方で、親会社であるベルテクス・パートナーズがこれまで他業種でDX支援を手掛けてきた中で、成果を創出できていない企業には共通点があるという。その際に大きく立ちはだかる壁は5つ。認識の壁、判断の壁、納得の壁、行動の壁、継続の壁だ。ベルテクスの塚田慶一郎執行役員COOはこう説明する。

「そもそもDXによる変革は必要なのかというところが認識の壁、何から着手していいのかがわからないというところが判断の壁で、この初期段階でつまずくケースもあります。AI等のツールを導入したが、そこから具体的にどうしていけばいいのか、という課題を持ってしまう企業も非常に多いのです。したがって私たちは、こうしたいくつかの壁がある中で、課題を定量的に見える化し、目の前のやるべきことをしっかりとやっていく。まずはスモールスタートで始めて成功体験を積んでいくことが重要だと考えています」


パチンコホールがDXで目指すべきゴールについては、こう認識している。

「最終的には顧客価値の創造。お客様に楽しんでいただくためにしっかりと還元していく一方で、ホール様も適正な予算組みで運用していく。そのサイクルを回していくところが、ホール様にとってのゴールだと思っています」

現状では多くのホールで予算や目標の根拠が不明確になっているケースが多い。その点について塚田COOは「過大な目標設定や、稼働低下を恐れて守り過ぎた目標になっている等の課題があると捉えています。だからこそAIを活用してデータドリブン経営に変革することが最適解になるのです」。

AIと店長が仕事を分担

「Himawari Brain Pro」の導入にあたって、これからの課題は現場での運用になっていく。では開発にあたった社員のモチベーションはどうなのか。

「いま開発に携わっている店長は5人。もちろん楽しみでしょうがないという感じです(笑)。毎日、毎週、BI画面のことなどを話しながら早く本格的に使いたいと言っています」(小野室長)

「自分たちが使うものだから、こんな業務シーンであればどのように使うのかなど、とても建設的な議論をされています。そこにやらされている感はまったくありません」(塚田COO)

一方で売上予測の指標などをAIに委ねることへの反発はないのかという疑問もわく。その点について小濱部長はこう話す。

「そういう意見も正直まだあります。ただ、最終的には人の判断になる。AIから出てきた数字を見て、店長が判断するというところは変わりません。多分、AIが軌道に乗れば店長の仕事が変わってくるはずです。例えば、パチスロの設定プロセス。いままで毎日台数分のデータを見ていましたが、そうした作業が効率化される。相当な時間を割いていた毎月の営業計画策定などの作業も省かれる。その結果、労働時間の短縮につながると思います」

山口社長の見方はこうだ。

「AIが強い領域はAIがやって、店長様が強い領域は店長様がやるという分担ができるようになるのが今回のシステム。AIに支配されるというイメージではないという情報を、私たちが提供していく必要があると思っています」

AI活用で業界の未来を拓く

小濱部長は、今回のAI導入でさまざまなメリットを感じている。そのひとつが今後の人材採用と人材の育成だ。

「先端技術を使っていることで、人材の採用がしやすくなるかもしれません。社内ではAIの導入で、今後はスタッフのサービスの質が問われてくる。店長や店長代理の仕事が人材育成に置き替わっていくのかなとも感じています。それが人の成長につながればいいですね」

小濱部長はさらに、AI開発の過程でやりたいことがどんどん増えてきたという。

「例えば依存問題対策で、問題を抱えそうなお客様をAIが検知して、スタッフがお声掛けをするとか、会員データを分析してサービスに活用できないかとか。インバウンド対策として、多言語対応のサービスなども考えられますよね。業界でAIを活用できるシーンはたくさんあると思います」

そして、業界の未来に向けてこんな思いを抱く。

「1社だけではデータ数にも限りがあります。AIに関心がある同業の企業さんがいらっしゃれば、ある程度ノウハウをご提供して一緒に進めていきたい。ベルテクスさんを通してAIを使う輪を作っていければと思っています」

文=アミュースメントジャパン編集部
※月刊アミューズメントジャパン2023年12月号で掲載した記事を転載しました。


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