
No.10005410
特集 障がい者雇用の現状と課題【前編】
法定雇用率が2.7%に
問われる「雇用率達成」の中身
今年7月、民間企業に義務付けられている障がい者の法定雇用率が2.7%に引き上げられた。障がいのある人が社会の一員として働き、生活していくうえで、公的制度や企業が果たす役割は大きい。一方、法定雇用率の達成が優先され、雇用の質が置き去りになる問題も指摘されている。障がい者雇用をめぐる現状と課題を追った。
2026年7月1日から、民間企業の障がい者法定雇用率がそれまでの2.5%から2.7%へ引き上げられた。これに伴い、障がい者を1人以上雇用する義務が生じる企業の範囲も、常用労働者40人以上から37.5人以上へと拡大した。これまで障がい者雇用を「大企業の課題」と捉えていた中小企業においても、自社の経営課題として対応する必要性が一段と高まっている。
では、今回の法定雇用率アップでどの程度の企業規模で、何人の障がい者を雇用する必要があるのか。短時間労働者の換算や、障がいの区分・程度などを考慮しない単純計算では、おおまかな目安は次のようになる。
常用労働者37.5人以上の企業は少なくとも1人。常用労働者約75人規模の企業は概ね2人。常用労働者約112人規模の企業は概ね3人。常用労働者約150人規模の企業は概ね4人。
厚労省の「令和7年 障害者雇用状況」によると、2025年6月時点で民間企業に雇用されている障がい者は70万4610人で、前年から4.0%増加した。障がい種別では、身体障がい者が約37万4千人、知的障がい者が約16万2千人、精神障がい者が約16万9千人。このなかでも精神障がい者は前年比11.8%増と大きく伸びている。
一方、障がい者の雇用義務がある企業のうち、法定雇用率を達成した企業の割合は46.0%にとどまった。雇用者数そのものは増加しているものの、半数を超える対象企業が法定雇用率を達成できていないことになる。
では、法定雇用率を達成できなかった企業にはどのような経済的負担や行政上の措置があるのか。常用労働者が100人を超える企業については、法定雇用率を下回った場合、原則として不足する障がい者1人につき月額5万円の「障害者雇用納付金」を納めることになる。例えば、年間を通じて1人不足していれば年間60万円となる。
障害者雇用納付金は、障がい者を多く雇用する企業ほど、設備整備や人的支援などの経済的負担が大きくなることを踏まえ、企業間の負担を調整するために設けられた制度だ。納付金を支払ったからといって、障がい者を雇用する義務がなくなるわけではない。常用労働者37.5人以上100人以下の企業にも法定雇用義務はあるが、現在の制度では障害者雇用納付金の対象にはなっていない。
一方、法定雇用率未達成の程度が大きい企業などに対しては、ハローワークから障害者雇入れ計画の作成を命じられることがある。その後も計画の適正な実施に向けた勧告や指導が行われ、それでも雇用状況に改善が見られない場合には、厚労省が企業名を公表することがある。
つまり、一定規模を超える企業には、納付金制度があり、さらに雇用状況の改善が進まない企業には行政上の措置が取られるという仕組みになっている。
さらに今後、制度そのものが変わる可能性がある。厚労省が2026年2月に示した「今後の障害者雇用促進制度の在り方に関する研究会報告書」では障がい者雇用納付金制度について、常用労働者100人以下の事業主への適用拡大が検討課題として示された。現時点で対象拡大が決まったわけではないが、仮に実現すれば中小企業にもこれまで以上に障がい者雇用への対応が求められることになる。障がい者の採用だけでなく、職場への定着や能力開発を支える体制づくりの重要性も増していきそうだ。
このように法定雇用率の引き上げが進む一方、障がい者雇用をめぐっては「人数を確保すること」と「企業の一員として働いてもらうこと」の間に生じる問題も浮かび上がっている。
今年5月、沖縄県で就労支援の福祉事業所に在籍する障がい者を企業に仲介するビジネスを展開していた事業者をめぐり、事業所側が障がい者に対して、実際の雇用主である企業と直接連絡を取らないよう求めていたケースを読売新聞が報じた。障がい者と雇用企業との関係が希薄になり、企業が雇用主として果たすべき役割をどこまで担っているのかという問題を浮かび上がらせる事例だった。サービスを利用していた企業に複数の大手企業が含まれていたこともあり、大きな注目を集めた。
企業向け障害者雇用支援サービスを手がける一途株式会社(長野県東御市)代表取締役の大山裕二氏はこの報道について、「一つの企業や支援事業者だけの問題ではなく、障がい者雇用を取り巻く企業側の意識と、法定雇用率達成を代行するビジネスの構造が表面化したもの」と見ている。背景には、障がい者雇用に対する企業側のさまざまな不安や、受け入れ体制上の課題がある。
例えば、
■障がい者を雇用しても戦力にならないのではないか。
■教育や面談などに多くの手間がかかるのではないか。
■障がいのある人と一緒に働いた経験がなく、どう接すればいいのかわからない。
■自社の職場で受け入れるための環境や体制が整っていない。
■過去に障がい者雇用に取り組んだものの、定着などがうまくいかなかった。
といった懸念だ。
こうした課題に十分に向き合わないまま法定雇用率の達成だけが目的になれば、「自社の職場で一緒に働く体制を整えることは難しいが、雇用人数は確保したい」という需要が生まれる。法定雇用率の達成を支援する外部サービスの中には、こうした企業側の需要を背景に広がってきたケースもある。
ただし、障がい者雇用において外部の支援事業者を利用すること自体が問題なのではない。障がい特性への理解や職場環境の整備、本人とのコミュニケーション、業務の切り出しなどには専門的な知識が必要になる場合も多い。そうした領域で外部の専門家や支援機関の力を借りることは、企業と障がい者の双方にとって有効な選択肢になり得る。
企業が問われているのは、単に法定雇用率の数字を満たすことではなく、雇用した人にどのような仕事を担ってもらうのか、本人の能力をどう生かし、育てていくのかだ。法定雇用率が2・7%に引き上げられ、これまで以上に多くの企業が障がい者雇用と向き合うことになる今、その「雇用の中身」が問われている。
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文=アミューズメントジャパン編集部
※月刊アミューズメントジャパン2026年10月号に掲載した記事を転載しました。











