No.10002606
特集/異業種参入で新機軸
障がい者福祉事業は民間で
社会インフラとして地域に貢献
障がい者・復職者 総合支援法人
ワンズ株式会社
(長野県上田市)
長野県の東信エリアで障がい者の就労支援事業を手掛けるワンズ株式会社。
創業から5年が経ち、地域の信頼を得ながらしっかりと収益化できる地方でのビジネスモデルを拡大している。急成長した要因はどこにあるのか。現地で話を聞いた。
自分はほかの人と違う
「20代のときに何度か普通の会社で働いたのですが、働いているうちに自分はほかの人と違うなと思うようになりました。そこで就労支援施設に飛び込んで訓練しながら、いまは障がい者の枠で働かせてもらっています」
長野県上田市にある物流倉庫の集積地。青果流通会社の倉庫でフォークリフトを器用に操るスギちゃん(仮名、30代男性)は、しっかりした声でそう話してくれた。その働きぶりに「障がい者」のイメージはない。同様にこの倉庫で働いている障がい者は約15人。テキパキと野菜を箱に詰め込んでいた。
ここで働いている人たちは「就労継続支援A型」の障がい者福祉サービスを受けている。一般企業で就労することが難しい障がいのある人が、雇用契約を結んだ上で、一定の支援と配慮がある職場で働くことができる福祉サービスだ。
ワンズの大山裕二代表はこう語る。
「みんな統合失調症や、うつ、知的障害、発達障害などの障がいを抱えています。単純なルーティン作業ならどんどん覚えていく人もいるし、複雑な作業が得意な人もいる。スギちゃんは自動車免許も持っているし、フォークリフトの免許も持っている。この人たちには企業さんから最低賃金を払っていただいています。ほとんどの人が障がい者年金ももらっているので、生活していけるだけの収入は確保できています」
スギちゃんは「会社に助けられてなんとか仕事ができています。大変ですけどやりがいがある。気楽に自分のペースで働けています」と話す。
本当に安心できる居場所を
同じ上田市エリアにワンズが運営する事業所のひとつ、「ワンズ ワークアンドライフ」があった。暖色系のインテリアで統一された室内では、約20人の通所者が近くの工場などに納品するパーツを手作業で組み立てていた。
ここは「就労継続支援B型」のサービスを提供する事業所。障がい者の働き方は2通りあり、A型は前出の雇用契約を結ぶ働き方。B型は雇用契約はせずに働いた分だけを「工賃」として受け取る働き方だ。「ワンズ ワークアンドライフ」では利用者の心身の特性に応じた支援を行っている。
通所者に寄り添いながら話をしてくれたのは、この事業所の責任者である高橋さん。もともと公務員で、役所で福祉の仕事をしていたが、退職してワンズに入社した福祉のプロだ。
「ここに来る人の多くが社会の中で理不尽な思いをたくさんしてきた人たち。いじめられたり、排除されたり、馬鹿にされたり。そういう苦しい思いをしてきた人たちが、本当に安心できる、幸せだと思える雰囲気づくりを心がけています」
地方都市の特性を活かして
厚生労働省の統計によれば、全国の身体障害者、知的障害者、精神障害者は合わせておよそ963万人にものぼる。人口千人当たりの人数でみると、身体障害者は34人、知的障害者は9人、精神障害者は33人となり、国民の約7.6%が何らかの障害を有していることになる。実際に事業所を見ると、これほど障がいのある人がいるのかと驚く。
ワンズの大山代表はもともとパチンコホールの幹部社員として働き、その後はコンサルタントとしてパチンコ業界に関わってきた。その大山代表が障がい者就労支援事業を立ち上げた背景には、自身の親族が長い間、心を病んでいた経験があったからだ。
2017年2月、上田市に「就労移行支援事業」を手掛けるワンズ株式会社を設立。就労移行支援事業とは、一般企業への就職を目指す人に必要な訓練を提供し、求職活動を支援し、職場の開拓などを行う事業を指す。
前述した就労継続支援や就労定着支援などと同様に、国の「障害者総合支援法」における就労系福祉サービスとして、国や自治体から報酬を受ける事業だ。特別なケースを除いて利用者の経済的負担はない。
ワンズは当初、就労移行支援だけを手掛けていたが、それだけでは多様な障がい者のニーズに応えられないことを実感した。そこで就労継続支援、就労定着支援へと事業の幅を広げていった。さらに障がい者が安心して暮らせるグループホームも2カ所開所。地域の住民の理解を得ながら運営している。
地方都市の特性を活かして、障がい者を雇用してくれる地元企業への働き掛けも粘り強く続けてきた。現在は常時30あまりの企業と雇用や作業の切り出しなどで協力関係を築いている。スポットで仕事を提供する企業を含めると地元企業の60社にも及ぶ。
2021年には障がいを持つ子どものための放課後デイサービス「ワンズ アフタースクール」も開設。子どもの頃からしっかりと療育していくことで、社会に出てから障がいによる「働きづらさ」を感じずに済むケースもあるという。働く親の助けにもなっている「ワンズ アフタースクール」は、202 2年にもうひとつ施設を増やす予定だ。
地域から愛される存在に
こうして急速に事業規模を広げたワンズは、年間2億4千万円の売上を計上。自治体からの信頼も厚くなり、「ワンズさんに連れていけばなんとかしてくれる。ワンズさんだったらこの人を受け入れてくれる」と言われるまでになった。いまでは上田市、東御市で9事業所を展開。障がい者雇用をしている人たちを合わせて総従業員数は62人を数える。
大山代表は言う。
「福祉への志だけでは、この事業は絶対にうまくいきません。逆にビジネスだけでやるとおかしなことになる。両方同時にバランスを取りながらしっかり回せていければ、地域から愛され、自治体から頼ってもらえるような存在になれます」
ワンズでは①移行支援事業(福祉から一般社会へ)、②継続支援type‐A(最低賃金以上で雇用)、③継続支援hyper‐B(ステップアップ)、④継続支援type‐B(しっかり守りながら)の4つのカテゴリで事業を展開し、シナジーを活かしたワンストップオペレーションを目指している。これが大きな強みだ。大山代表の「全員の就職を目指す。納税者を増やす」という考えが、自治体や支援者を巻き込んだ信頼構築につながっている。
大山代表はいま、自らが経験してきたこの事業のノウハウを、同じ志を持つ人たちと共有したいと考えている。すでに全国で9社の立ち上げ支援を行い、立ち上げたばかりの4社以外はすべて黒字化を遂げている。そのなかにはパチンコホール経営企業も数社含まれている。事業を立ち上げる際には前出の①から④までどの事業カテゴリからでも参入が可能だという。
「ぼくらには社会資源としての仕事がありません。だから企業様から下請けの仕事をいただいて障がい者に提供していますが、自社で飲食店などのビジネスをやっていれば、裏方の皿洗いや清掃など、いろんな仕事の切り出し方ができます。そうしたノウハウを提供することで、少しでも社会の役に立つ存在になってほしいと思っています」
そしてこうも話す。
「もしよかったら、パチンコホールの経営者の方にも、地域の障がい者に働く場を提供してほしいのです」
フランチャイズでビジネスを展開するということではない。あくまでも事業の立ち上げを支援して仲間を増やしていきたいという想いだ。例えば、ホール経営法人が就労支援会社を立ち上げれば、障がい者にホールや他の飲食・サービス事業などで仕事を切り出すことができ、そこで公的な報酬を受け取ることが可能になる。
「就労系障害者福祉サービスは、大都市圏では非営利法人と営利法人が拮抗してきていますが、地方ではまだ非営利が9割で営利が1割。地方都市ではまだまだ民間の就労支援が行き届いていないのです」
「就労支援事業はまさに持続可能な世界を目指すSDGsの考えそのものです。社会的弱者がきちんと働ける世の中をつくる。結局、福祉もパチンコもサービス業。ビジネスモデルは一緒です。もちろん、パチンコも十分地域社会のためになっている。その資源を障がい者雇用でも役立ててほしいのです。ぼくらの仕事は障がい者に就労してもらい納税者を創ること。そして利益が出たらしっかりと納税して社会に還元すること。そんな事業に共感していただける方からのご相談なら、精一杯お応えするつもりです」
大山代表は「地域社会に貢献しながら、収益の柱になる事業を作りたい」という法人にこの想いが届いてほしいと考えている。
取材の最後に、就労支援事業の立ち上げを支援して、収益化を果たしたホール経営者から届いた一通のメールを披露してくれた。
「遊技業界でのご縁でしたが、世の中のつながりは大切なものですね。心より感謝申し上げます。ここに甘んじることなく、大山様がおっしゃるように、地域社会に貢献しながら繫栄することが大切と思います。遊技産業が厳しいなかですから、一段と身に染みて感じる機会を得たことを非常に嬉しく思っております。末永いお付き合い、連携をよろしくお願いします」
ワンズ株式会社
〒386-0018 長野県上田市常田2-35-6ワンズビル
TEL.0268-71-6505
https://wands-co.jp/
※この記事は月刊アミューズメントジャパン2022年2月号に掲載した記事を転載したものです。