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「ファンファースト」で業界の未来を拓く|藤商事
藤商事
創立60周年記念 特別インタビュー
松下智人
代表取締役社長
今年10月に会社創立60周年を迎える藤商事。「ヒト味違う〝オモシロ〟さ」で半世紀以上にわたり遊技機を創り続けてきたメーカーはいま、何を考え、どこに向かっているのか。今年4月に代表取締役社長に就任した、生え抜きの松下智人さんが描く未来を聞いた。
──創立60周年、おめでとうございます。はじめに松下社長と藤商事の出会いから教えてください。
松下 1989年に新卒で藤商事に入社しました。今年で38年目になります。学生時代に友だちとよくパチンコを打っていたんです。当時は羽根モノとフィーバー機が全盛の時代。当たったときの嬉しさや、ニヤニヤできる面白さは、ゲームセンターなど当時の娯楽では体験したことがありませんでした。そのなかでも藤商事の『シャトル21』というアレンジボールに強く惹かれました。あまりに好きで、逆の立場になってパチンコを作り、お客さんの笑顔を見てみたい。「この機械、面白いね」と言ってもらいたい。ただ、その思いだけで「どうしても藤商事で働きたい」と面接を受けたのです。
──面接では何をアピールしましたか。
松下 開発の面接で「うちは即戦力が欲しい。何か機械を作った実績はありますか」と聞かれました。そこで「日曜大工店で合板と真鍮釘を買ってきて、『スーパーコンビ』の入賞穴を真似して遊んだことがあります」と答えたら、「変わってるな」と言われました(笑)。当時の藤商事は社員数が70人ほど。開発部門を希望していましたが、開発部門の面接後に営業部門の面接も受け、最後に「本社で人手が必要だから、本社勤務で明日から来てほしい」と言われ、本社での管理業務からスタートしました。
──本社ではどんな仕事を?
松下 当時の本社には総務・経理・人事しか部署がなく、管理業務だけでなく、ホール様向けのアフター部品の発送など、本当にさまざまな仕事を経験しました。それでも開発への思いはずっと持ち続けていたので、昼休みや時間が空けば開発へ行って、試打をしたり、開発中の機械を見せてもらったりしていました。その後、『アレジン』(1992年)や『エキサイト』(同)が大ヒットし、70人規模では対応できないほど販売台数が伸びました。社員数が100人を超えたことで組織も整備され、総務・人事、経理、経営企画へと部門が分かれ、私は経理を中心に担当するようになりました。
──その後は経理畑を歩まれたのですね。
松下 そうです。その後、1993年に世間を騒がせた出来事があり、それを契機に社内の管理体制を強化し、中途採用も進めながら組織を立て直しました。その際に「社会的な問題を起こした会社だからこそ、これからは社会に貢献できる企業になろう」という創業者の思いから、上場を目指すことになります。
──上場準備は大変だったのでは。
松下 本当に大変でした(笑)。1997年から98年頃に上場準備が始まり、主幹事証券会社とのやり取りや申請書類の作成を3人だけで担当していました。当時は毎晩2時頃まで仕事をしてタクシーで帰宅する毎日。そして2007年、ジャスダック証券取引所への上場を果たしました。
──その後はどんな仕事を?
松下 上場準備が一段落すると、今度は「人事制度を見直せ」というミッションを受け、管理本部総務部長として総務・人事部門の業務を2年間務めました。開発部門に携われるようになったのは入社から約20年後。諸先輩方はみなさん、もともと私が開発希望で入社したことを知ってくれていましたから、当時専務だった井上孝司さん(前々社長)から「開発をやるか?」と言われて、私は思わず「今さらですか(笑)」と返しました。
──念願だった開発ですね。
松下 まず名古屋開発、その後東京開発を担当しました。実務として設計開発をするには年齢的に遅かったので、執行役員開発本部副本部長という立場で「自分はスーパーユーザーだから、ユーザー目線で話を聞く」と言い続けました。それまでもパチンコはよく打ちに行っていましたが、開発に入ってからは年間250日くらいホールへ通いました。平日は開発メンバーと、休日は朝から並んで打つ(笑)。企画会議では「業界初です」「新機能です」と提案されても、「それ、本当にユーザーは面白いと思う?」「視点が違うんじゃない?」と、いつもユーザー目線で意見を伝えていました。『CRリング 呪いの7日間』のときも、夜中まで試打をしていました。当社は開発型企業です。経理の仕事だけをしていたら自分が社長になることはなかったと思います。
社長として迎える60周年
松下 40周年、50周年のときにも記念式典を行いましたが、この20年間で最も大きく変わったのは、藤商事というより業界全体です。40周年の頃は、まだ業界全体に勢いがありました。しかし、この15年ほどで遊技機の稼働は落ち、ホール店舗数も大きく減りました。会社としても本当に厳しい時期でした。それでも創業者の経営理念は変わりません。私たちはこれからも遊技機事業を軸として成長していきます。まだトップメーカーではありませんから、シェアを伸ばせる余地は十分あると考えています。
──社長就任時にビジョンを掲げました。その真意を聞かせてください。
松下 当社の企業理念は、「お客様の繁栄を売ろう ~より良い稼働 より高い信頼~」です。お客様の繁栄なくして当社の繁栄はありません。当社では、今山武成さん(前社長)の時代から「遊技者目線での開発」という考え方を徹底してきました。社内でも徐々に浸透してきましたが、今一度原点に立ち返り、今年の4月から改めて全社員が共有すべき価値観として「ファンファースト」を定めました。当社における「ファン」の定義とは、パチンコ・パチスロプレイヤーやホール様はもちろんのこと、製造部門で言えば協力会社の皆様、管理部門で言えば株主様、地域社会、そして一緒に働く社員など、当社に関わるすべての人を指しています。社内ではそれぞれの部署でさまざまな事情やジレンマがあります。しかし、どんな場面でも「ファンファースト」「お客様が一番」という軸を持って判断することが大切だと考えています。各部門がそれぞれのファンに対して何ができるかを考え、藤商事のファンを一人でも多く増やしていきます。そして、10年後には「ファンの皆様から最も支持されるメーカー」になることを目指し、当社をさらに成長させていきたいと考えています。
──ファンファーストの中でプレイヤーから支持を得るために、どのような機種開発を行っていますか。
松下 ファンファーストの思想を具体化したもののひとつが、「スタートが回らない」というプレイヤーの一番大きな不満を軽減する「BIGスタート」です。『P貞子』で初搭載し、多くの支持をいただきました。『e地獄少女7500Ver.』では、少しでも勝ち体験の機会が増えるよう、BIGスタートに加え、スタートに直行する特別ルート「SS(Safety Start)ルート」を搭載しました。また、『eひきこまり吸血姫の悶々』では、通常時をさらに楽しんでいただく施策として「チャンスゾーン」を搭載し、新たなゲーム性を提供することができました。今後も、プレイヤーの意見を吸い上げ、より遊技機を楽しんでいただけるような、ファン目線での機種開発を進めていきたいと考えています。
──ファンを増やす取り組みとして、具体的にどのような施策を展開していきますか。
松下 『レジャー白書2025』では、パチンコ参加人口が前年より50万人増えたと発表されました。その背景には、若年層プレイヤーの増加もあると思っています。中長期的に見れば、若い世代に支持されるIPを活用したパチンコ・パチスロを各メーカーが継続的に展開し、新しいユーザーを増やしていくことが業界全体にとって重要です。そのためにまずは、アニメコンテンツとパチンコの親和性の高さを生かし、アニメファンにパチンコファンになっていただく取り組みに力を入れていきます。今までも東京で一般試打会を開催しておりましたが、パチンコを遊んだことのないアニメファンの方々に少しでも遊技機に触れていただけるよう、『スマスロとある魔術の禁書目録2』の一般試打会からは全国で開催していきます。今後は、一般試打会だけでなく、様々な施策を実施することでファンとの接点を積極的に増やしていきます。
IPを育てる新たな取り組み
──今後のIP戦略についてはどのような体制ですか。
松下 当社ではライセンス部が版権取得を担当しています。2024年には、開発本部内にあったライセンス部を独立部署にして「anime blast(アニメブラスト)」プロジェクトをスタートさせました。アニメの放映から遊技機が導入されるまでには、開発期間の都合上、どうしてもタイムラグが生じます。そこで、版元様からお預かりしたIPを、遊技機化するまでの期間も継続的に露出・展開し、作品の認知度を高めながら、機種導入時にはホール様にも安心して導入いただける環境をつくることを目的とした取り組みです。版元様と共同で進めているプロジェクトであり、IPそのものを育てながら遊技機事業にもつなげていく、新しいビジネスモデルだと考えています。
──今年4月には、新規事業としてアニメ制作会社「Gene Entertainment(ジーン エンターテイメント)」を設立されました。どんな狙いがありますか。
松下 新規事業として本業とかけ離れた業種へ進出する考えはいまのところありません。一方で遊技機業界との親和性が高いアニメ分野で新しい事業をスタートしました。既に業界に深い知見を持つ人材を採用し、まずはアニメ制作の中でも音響制作から実務を進めます。あわせて製作委員会への出資も積極的に行っていきます。藤商事はパチンコのファンを増やし、Gene Entertainmentはアニメのファンが増えるよう意識的に切り分けて施策を行っていきます。まずは3年以内の黒字化を目指し、本業とアニメ事業との相乗効果によって、本業の利益にもつなげていきたいと考えています。
もう一度4円パチンコを復活させたい
──パチンコ市場の今後についてはどう見ていますか?
松下 現在のパチンコ市場は、射幸性を高め続けてきた結果、ある意味では負のスパイラルに陥っている面があります。そこからV字回復を目指すために現在、日工組加盟メーカー全社で取り組んでいるのが、射幸性に応じた遊技機のカテゴリー分けです。パチンコ機を低射幸から高射幸まで4つのカテゴリーに分類し、それぞれの設置比率のバランスを取ることで、高射幸性機だけに偏らない市場を目指します。当社も含めてメーカー各社が、カテゴリーごとにゲーム性を高め、違った魅力を持たせることで、多様な遊び方を提供できる環境を整備することが、これからの市場には必要だと考えています。まだ詳しくお話しできる段階ではありませんが、パチンコ市場のV字回復に向け、藤商事としてもバランスの取れた遊技機ラインナップを実現できるよう取り組んでいきます。ぜひ今後に期待していただきたいですね。
──お話を聞いていると、ユーザーにとって新しい遊び方が生まれそうな印象を受けます。
松下 メーカーとしては、ホール様の経営に資する改善も必要だと考えています。賛否があることは承知していますが、1円パチンコが登場して以降、4円パチンコにお客様が集まりにくくなったことから、ホール様では1円貸しの設置比率を高めてきました。現在では店舗によっては半数近くを占めるまでになっています。一方で、1円営業は利益が4円営業の4分の1になります。ホール経営が厳しくなる中で、その構造が経営をさらに苦しくしている側面もあります。だからこそ、メーカーとしては「4円でも十分に勝負でき、お客様にも満足していただける機械」を作ることで、再び4円パチンコの比率を高められないかと考えています。もちろん簡単なテーマではありません。業界内でも議論を重ねていますが、まだ決定的な答えは見つかっていません。それでも、「もう一度4円パチンコを復活させたい」という思いは強く持っています。その実現につながる遊技機づくりを、藤商事として進めていきたいと考えています。
「人」を大切にする企業であり続ける
──今後どんな会社にしていきたいか。今の思いを聞かせてください。
松下 藤商事は、創業以来一貫して「人を大切にする会社」であることだと思っています。ここでいう「人」は社員だけではありません。協力会社の皆様、ホール様、業界関係者、そしてお客様を含め、藤商事に関わるすべての人です。実際、他メーカーの方からも「藤商事は少し雰囲気が違うよね」と言われることがあります。「藤商事が間に入れば話がまとまるのではないか」と期待される場面も少なくありません。私自身、入社以来ずっと感じてきた当社の最大の強みは、まさにそこです。だからこそ、メーカー、ホール様をつなぐ役割も担い、全てのファンの皆様と積極的に対話し、人と人との信頼関係を大切にしながら会社を成長させていきたいと思っています。
──最後に、創立60周年にあたってホール関係者へのメッセージをお願いします。
松下 当社は「100年企業」を掲げています。今年入社した若い社員が40年後、50年後も「藤商事で働いて良かった」と思える会社であり続けなければなりません。そのためには、一人ひとりをしっかり育成し、成長できる環境を整えていくことが何より重要です。人を育て、人を大切にする企業文化を受け継ぎながら、ファンファーストの考え方を軸に、遊技機を通じて多くの人に幸せを届けられる会社を目指していきます。そして10年後、「藤商事と関わる全てのファンの皆様から、最も支持されるメーカー」になれるよう、社員一丸となって挑戦を続けていきたいと思います。これからの藤商事にどうぞご期待ください。

1971年2月生まれ。兵庫県出身。1989年に藤商事入社。2007年に管理本部総務部長、2016年に執行役員開発本部長、2018年取締役開発本部長などを経て、2019年㈱オレンジ代表取締役社長、2021年㈱JFJ代表取締役社長へ就任するなど要職を歴任。2022年取締役専務執行役員として開発本部、経営管理本部を担当し、2025年代表取締役専務執行役員を務め、2026年4月に代表取締役社長に就任。
文=アミューズメントジャパン編集部
※月刊アミューズメントジャパン2026年10月号に掲載した記事を転載しました。














