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2022年10月24日
No.10003070

人に投資しない企業は脱落する
「社員教育は全く不十分」という危機的現実

人材育成に投資しない企業が生き残れるはずがない──。頭ではわかっているのに、日本の生産性が向上しないのは、「社員の教育訓練にはすでに十分な投資をしている」という企業の思い込みもあるかもしれない。

 日本経済が長期低迷を続けている背景には、主たる消費者である生産年齢人口が減っていることに加えて、イノベーションを起こせていない、生産性が高まっていないことも要因だ。なぜ生産性が高まらないのか。大きな理由は、「人への投資」の少なさだ。
 日本はいまも世界3位の経済大国だが、GDPの大きさは人口の多さに支えられたもの。経済的な豊かさを比較する際に用いられる、「国民1人当たりGDP」で見るとOECD(※)加盟38カ国中21位。米国、ドイツ、オーストラリア、カナダ、フランス、英国、イタリア、ニュージーランドを下回り、韓国を僅差で上回る水準だ。この大きな要因が、日本の生産性の低さだ。※OECD(経済協力開発機構)はヨーロッパ諸国を中心に日・米を含め38カ国の先進国が加盟する国際機関。

 労働生産性を測る「就業者1人当たり国内総生産」と「就業1時間当たり国内総生産」という2つの指標のいずれも、国際比較すると日本の水準は低い。新型コロナ禍前の2019年の日本の1人当たりの労働生産性は東欧やバルト諸国と同水準にあり、OECD加盟国中28位。2015年から2019年の間にOECD加盟国のほとんどで、1人当たりの労働生産性が上昇(物価変動による影響を除いた実質ベース)したのに、日本はマイナス0・3%と後退している。もう一方の、1時間当たり労働生産性もOECD加盟国中23位と低水準にあるのだ。

人への投資が少ない
それが日本の現実


 岸田政権の看板政策「新しい資本主義」では、「人への投資」の抜本強化を重点の1つとして掲げており、3年間で4000億円規模の施策パッケージを新たに創設するとしている。実は日本は、労働市場政策への公的支出のGDP比が、OECD諸国の中で非常に低い水準にある(下図)。日本社会はこれまで長期雇用が前提で、能力開発を企業内教育や企業内訓練に頼ってきたため、職業訓練やリカレント教育(社会に出た後も、それぞれの人の必要なタイミングで再び教育を受け、仕事と教育を繰り返すこと)に対し公的な支援の必要性があまり求められてこなかった。だが日本的雇用慣行が崩れていく中で就職後の能力開発を企業任せにするのには限界があるため、「労働政策として国が予算をかけて取り組むべき」というのが岸田政権の考えだ。



 しかし、これまで日本の企業が従業員の教育・訓練に十分な予算を割いてきたかというと、そうとも言えない。国際比較から見えてくるのは、「従業員の能力不足に直面している企業が多いにもかかわらず、OJT(日常の仕事を通じて教育を行う教育・学習)の実施率が低い」という日本企業の姿だ。
 厚労省が、Manpower Group「Talent Shortage Survey(2014)」を用いて、「ある業務を遂行するに当たって、従業員の能力不足に直面している企業」の割合について国際的な状況を整理した。その結果、日本は従業員の能力不足に直面している企業の割合が81%で、2位のインド(64・0%)、3位のブラジル(63・0%)を大きく上回り、OECD諸国の中で最も高い水準だった。それにもかかわらず、企業のOJTの実施率は男女ともにOECD平均を下回っている(図2)。



 教育訓練にはOJTのほかに、職場や通常の業務から離れ特別に時間や場所を取って行うOFF‐JTがあるが、このOFF‐JTの実施率は低下傾向にある。厚生労働省の「能力開発基本調査」の2020年度調査によると、2019年度に正社員に対してOFF‐JTを実施した事業所の割合は68・8%。これは2006年度(77・2%)、2007年度(76・6%)より約8ポイントも低く、金融危機の影響があった2008年度(68・5%)、2009年度(67・1%)と同程度の低水準だ。なお、2019年度に正社員に対してOFF‐JTを実施した事業所割合を産業別に見ると、「生活関連サービス業、娯楽業」は15産業の中で最も低い53・7%にとどまる。企業がOFF‐JTを実施したとしても、何人の従業員がそれを受講したかも問題だ。「生活関連サービス業、娯楽業」はOFF‐JTを受講した正社員の割合がわずか23・6%で、産業全体の37・6%を大きく下回っている。つまり「人に投資しない産業」の筆頭なのだ。これでは産業として生産性が向上するわけがない。

 能力開発の実施と労働生産性の向上の関係はすでに明白だ。OECDの「国際成人力調査」では、2012年の各国のOJT参加者率やOFF‐JT参加者率と、その翌年以降3年間の各国の労働生産性の変動を比較した。結果は、いずれの能力開発においても実施率が高い上位の区分にある国の方が、労働生産性の上昇率が高い傾向にあった(図3)。



社員の能力開発は
企業がリードすべき


 以上のように、日本は国も企業も人材の成長に投資していないことが明らかだが、これに加えて、労働者自身が成長のための学びに消極的だ。2019年度に自己啓発(自分の成長を目的として行っている勤務先以外での学習)を行った正社員は全産業で41・4%。見方を変えれば正社員の6割が自己啓発を行っていないということで、この割合は国際比較すると突出して高い。経済産業省はリカレント教育の必要性について整理した資料の中で、「アジア諸外国と比較して、日本では、社会に出て以降、継続的な学習や自己研鑽に対して消極的」と指摘している。

 激しい生存競争の渦中にあるホール業界は生産性の向上は喫緊の課題で、国の「人への投資」政策を待つ余裕も、従業員が自発的に学び始めるのを待つ余裕もない。

 限られた資源で最大限の成果をあげることが求められるマネージャー・リーダーに対しては、重要な業務を見極める方法、数値化や工程分析によって業務を「見える化」する管理方法、コミュニケーションなど多岐にわたる能力を伸ばす教育訓練の機会を提供することが必要だろう。
 また、「能力を持っているのに発揮できていない」という現実があることも見落としてはならない。各人が能力を発揮できる環境でなければ生産性が高まるはずがない。企業理念や目的、戦略が社員全員に浸透し同じ方向を向いて一丸となって業務を推進する、そういった組織をつくるための取り組みも求められている。
 企業がリードして人材育成の取り組みを拡充し、「学ぶ風土」を作っていく。それ以外に生産性を向上する道はないはずだ。

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