No.10004595
飲食店経営 立て直しの極意|事業多角化の成功条件
特別対談
コロンブスのたまご
宇井義行 CEO
スパークスネットワーク
中村恵美 代表
18歳から飲食店で実践的な飲食業を学び、26歳でフードコンサルタントとして起業してから指導実績日本一の全国3000店舗以上の飲食店を指導してきた株式会社コロンブスのたまごの宇井義行CEO。パチンコホール法人に特化した人材育成プログラムを手掛けてきたスパークスネットワークの中村恵美代表。コロナ禍を経て出会った2人が、飲食店経営の開業と立て直しについて語り合った。(文中敬称略)
──はじめに、お二人の出会いから教えてください。
中村 きっかけはコロナでした。2020年の春からコロナ禍がはじまって、パチンコホールが休業を余儀なくされましたよね。同時に「不要不急」の研修もストップして、2020年5月の売上げがゼロだったんです。その時、顧問税理士の先生に「パチンコだけのコンサルでは厳しいでしょうか」と相談したところ、もう1本柱を作った方がいいとアドバイスをいただいて、しばらくして宇井先生を紹介していただいたのがご縁です。宇井先生はフードコンサルタントの第一人者。いまは弟子として飲食業を学ばせていただいています。
宇井 私が飲食店に出会ったのは大学に行くためのアルバイトです。そのとき毎日働けるのは飲食店しかなかったからです。ところが、飲食店で働いてすごく感動したのは、まだ18、19の子供にすぎないのにお客様が本当に愛してくださったことです。ひとのために役立っていることがすごく嬉しくて、飲食業は素晴らしい仕事だなと思いました。だから私がいま経営者の方にお伝えしているのは、働いてくれる社員にまず教えるのは、技術ではなくて飲食業の素晴らしさだと。それがいい仕事をすることにつながるんです。
中村 最初に経営されたのは9坪のカレーショップだったんですよね。
宇井 大学を出た時にたまたまお話をいただいて、もちろん若いし、その頃は居抜き物件というのがなかったので、経営委託という形でスタートしました。それで26歳までに6店舗やりました。外から見ると若くて店舗増やしてかっこいいんだけど(笑)、銀行に返済しなきゃいけないし、利益が出ていたから税金も納めなくてはいけない。それで26歳のときに思ったことは、私は日本全国、海外にも出店して多くの人を喜ばせるのが夢だった。でもこのままでは無理だなと。それなら、全国の飲食業の社長を銀行・店長だと思ってコンサルタントになれば、全国にお店を出せるんじゃないかと。そんな生意気な考えで26歳の時にコンサルタントとして立ち上げて、最終的に1000人以上の社長にお仕えしました。
中村 飲食業のどこに魅力を感じたんですか?
宇井 飲食業の素晴らしさは小が大に勝つところ。飲食業はサービスを提供する付加価値提供業。ものだけを売るのであれば規模が大きくないと勝てない。でもサービスという付加価値を提供するのであれば、小さくても勝つことができる。坪あたりの利益では小が大に勝てるんです。飲食業というのは身近なレジャーなので、いまは多くの人たちの楽しみであるこのレジャーに恩返しをしたいと思って活動しています。
中村 身近なレジャーということではパチンコホールも同じですね。来店価値を高めて、来ていただいたお客様にいかに楽しんでいただくか。宇井先生に教えていただくようになって「あ、パチンコと一緒だ」と思いながら飲食業の勉強をさせてもらっています。これまではホールの人材育成のお手伝いをしてきましたが、いま先生から学んでいる、数字を見ながらしっかり業績を上げていく経営コンサルタントの仕事を飲食店でもやっていくことで、パチンコ業の皆さんにお返ししたいと思っています。
宇井 私がお仕えした社長にも、パチンコ店で飲食業もやられている社長はたくさんいたので、パチンコビジネスについては存じ上げています。パチンコホールの経営者は、経営者として非常に優秀です。いまパチンコ店のサービスは素晴らしい。だからサービスを追求するなら、飲食もやった方がいいんじゃないかと(笑)。飲食業は料理も、サービスも、店の雰囲気も付加価値を売っているんです。パチンコ業のベースをもとに、飲食業でビジネスに付加価値を付けていけば、より効果が出ると思います。
中村 私には、パチンコはパチンコでぜひ頑張っていただきたいという思いがあります。一方で、働く人たちの教育の仕事をしてるので、やっぱり彼ら彼女らの未来のことを考えてしまいます。私がパチンコ業界に入った頃は、どんどんお店が増えていた時期で、社員のみなさんには店長になるという目標があった。それがいまは目標が見定まらない。社員が活き活き働くことで業績も上がると思うので、その好循環のためにも、社員が活躍するステージを会社として用意していく必要があるのかなと。その時に、パチンコと比べれば出店コスト抑えられる飲食業はすごくいい業種だと思います。パチンコとは違う、飲食業で働く人たちと仕事をすることで、パチンコノンユーザーの若者たちが考えていること、大切に思ってること、何に夢中になってるのかなどを知ることは、ホール経営にも活かせると思うからです。
宇井 中村さんはやっぱりパチンコのコンサルタントですね(笑)。飲食店でも直営で何十店舗も出すことが難しくなっています。そうなるとフランチャイズ化や暖簾分けが大きな支えになるわけです。それによってスーパーバイザーなどで活躍する場も作れるし、暖簾分け式のフランチャイズというスタイルもできるので、キャリアアップはしていけます。
中村 私が関わらせていただいているクライアントさんで、飲食店も経営されてる会社は何社もあるんです。飲食業を経験することですごくいいなと思うのは、パチンコ業しか知らなかった時にはできなかった経験ができること。一例ですが、パチンコホールではお客様からクレームばかり言われていたスタッフが、飲食店に行ったら、ありがとうって言ってもらえると。こんなに毎日ありがとうって言ってもらえる仕事って素敵だなと言ったりするわけです。お互いが補完しあえる仕事になっていますよね。
フードビジネスコンサルタント。株式会社コロンブスのたまご代表取締役
一般社団法人日本フードアドザイザー協会創始者。
1950年、東京都生まれ。26歳の時フードコンサルタントとして起業し、指導実績日本一の全国の飲食店3000店舗以上を指導。不振店を繁盛店へ生まれ変わらせる手腕は業界屈指。2011年に飲食業界への恩返しをしたい、という思いから飲食店コンサルティング、株式会社コロンブスのたまごとは別に一般社団法人 日本フードアドバイザー協会を設立。著書は35冊を数え海外翻訳本も多数。
開業も立て直しも
最終目的は繁盛を継続すること
──パチンコ業界の市場規模が縮小していく中で、多くのホール企業が多角経営をしています。
宇井 ホール経営者は、以前は節税対策を兼ねて飲食店を経営する企業もありましたが、今は柱となるパチンコ事業以外に他の柱を作っていかなくてはならないと、本当に考えています。一方で以前から飲食店を経営しているホール企業さんで、飲食業が伸び悩んでいる会社も増えています。パチンコが厳しくなるなかで、本気で飲食をやるにはいいタイミングを迎えたんじゃないかと思います。
中村 パチンコ業がすごく良かった時代を知っている経営者にとって、 薄い利益をしっかり積み重ねていく、原価何銭の世界はある意味で大変ですよね。
宇井 吉野家の牛丼のような業態は薄利多売ですよね。でも飲食店は本来、付加価値の部分の粗利が高いから成り立つわけです。 だから粗利の低いビジネスはやってはいけない。吉野家のように安い単価で成り立つ飲食店は、昼も夜も人がいない場所でないと成り立たないのですが、そういう立地は多くないんです。
中村 既存の飲食店を立て直すにはどうしたらいいですか?
宇井 立て直しは簡単なんです。例えば焼肉屋さん。最近は業績不振で減っているけど、普通の焼肉をやっているから儲からないんです。それは当たり前で、牛肉だけ売っているから。そこに違うものをちょっと加えていく。例えばいま、東京では羊肉のジンギスカンが増えています。羊肉の焼肉屋さんが少ない時に羊肉をやった若い社長たちは、4~5店舗までは作れました。なぜかというと羊肉を出す焼肉屋がないから。だから羊肉だけで客が来る。それも立地次第で、若い女の子が多い繁華街なら、いかにその羊肉を映えるように見せるか。食器の階段を使って肉を盛りつけるだけで見栄え、立体感が生まれます。ちょっと工夫をするだけで売上げが上がるんです。やり方はいくらでもあります。
中村 先生から開業の心構え5か条を教わりました。それは立て直しでも同じですか?
宇井 開業でも立て直しでも、最終目的は繁盛。第一は繁盛を継続することが最終目的だということを認識することです。今の経営者のいけないところは、価格ありきで何でも安ければよいと思うことです。それから専門家に頼らないところ。他人からのアドバイスを受け付けないんです。今はインターネットで情報を探るとなんとなくわかったと思ってしまう。これらが失敗を招いてる大きな理由です。判断材料がたくさんあることで良い判断ができる。そういう経営者にならなければならないと思います。
中村 2つ目は「客観的思考」ですね。
宇井 そうです。人間はどうしてもみんな主観的になる。特に最近の経営者のいけないところは、自分の好きなことをやりたがること。店舗も自分の好みでつくる。やりたいことはわかりますが、重要なことは、お客様がそれを求めているかどうかという客観的な思考なんです。自分の家であれば自分の好みで作ればいい。でもビジネスは常に客観的な思考に基づくことがすごく重要なんです。
中村 3つ目は「売上げを最終目的にしない」こと。
宇井 ビジネスでは売上高が最終目的ではありません。簡単に言うと、飲食店ではサービスが良ければ売上げは上げられる。私がよく行くパパママ経営の飲食店は、パパとママがすごくいい人で、お客さんもたくさん入ってる。でも儲かってるどうかはわかりません。それはビジネスだから。材料費をすごくかけていたら、お客さんが来ていても儲からない。だから売上げが最終目的ではなくて、最終目的は利益なんだということなんです。これは4つ目の経営とはコントロールすることにもつながります。
中村 「売上げマイナス経費イコール利益は経営ではない」ですね。
宇井 そうです。たまたまの売上げで、たまたまの経費を引いて、たまたま残った利益は経営ではないんです。経営とは、「利益イコール売上マイナス経費」。例えば月40万円の給料もらっていた人が脱サラしてお店をやった時に、月40万円を手元に残さなくてはいけない。では40万円の利益を残すためにどれだけの売上げを作る必要があるのか。経費をコントロールして40万円残す。これが経営です。
中村 最後の5番目が「経営は勘や適当にすることではない」です。
宇井 正しいノウハウと正しい情報を基に、人と物とお金を活用して売上げ・利益を上げることです。飲食業はすごく単純なビジネスなんです。とにかくお客さんが喜んでくれればいいだけだから。そういう風に考えると全然怖くない。そのためにぼくは、経営者や社員にまずビジネスにおける心構えを伝えて、ご理解をいただいて、その後に実際に繁盛させるためのツボを伝えて、理論に基づいて経営をしてもらう。
SPARKS NETWORK株式会社 代表取締役
パチンコホール向の人材コンサルティング企業を経て、2011年にスパースネットワーク株式会社を設立。組織開発コンサルタントとしてパチンコホールに特化した人材育成プログラムを手掛ける。
中村 宇井先生のコンサルティングは、最初に経営者にも、店長たちにも研修を受けていただいていますよね。その最初の2日間がとても大事だなと思っていて、そこでビジネスで大事にしなくてはいけないことや、ビジネスで欠かせない数字の根拠を学べるし、心構えも学べる。この2日間に真剣に向き合った後で一緒にビジネスの話をすると全然違うだろうなと思わされます。それなしに、うちはこういう考えなんでといってお店をやると、うまくいかないですよね。
宇井 そこで考え方が変わると自信が持ててくるんですよね。初めは半信半疑だけど、すべて根拠に基づいたことをお伝えするわけだから。経営者もこれだったらいけるなとどんどん自信が持ててくる。立て直ししなければならない店舗では、みんなもうダメだなと弱気になっている。それを大丈夫だと思っていただかなければなりません。
中村 研修を受けた後はどうすれば利益が上がりますか?
宇井 例えば日本蕎麦屋さんをやろうとした場合、蕎麦屋は業種なんです。蕎麦屋で何を売り物にするかが業態。大事なのはこの業態なんです。どんなビジネスでも、自分たちの売りはなんなのか、魅力はなんなのか、他の業態と違う個性はなんなのか、差別化はできているのか。そして、たくさんある蕎麦屋の中から選ばれる理由は何なのか。通ってもらう理由は何なのか。これを最初に作り上げる。それをせずに、あの店のそば粉はどこどこのそば粉を使っているとか、そういう考えが先に来るとお客様は呼べない。だからこそ業態というものに真剣に取り組まなくてはいけないんです。
中村 それはパチンコホール経営にも通じる考え方ですね。
宇井 次に大事なのは損益モデル。目標損益モデルの作り方によって業績は大きく変わってきます。立て直しをする時には、すでに評判が悪いので売上げはすぐに上げられない。だから簡単なのはビジネスモデルを変えること。それで今の売上げでも利益が残るようにすることなんです。僕が立て直しをする時にはいつも、ビジネスモデルを変えて利益率を良くする。目標損益モデルをいかに儲かるように作れるかを考えます。多くのお店でここができてないんですよ。
中村 どういうビジネスモデルですか?
宇井 例えば観光地のお店だったら、お店の前で写真を撮れるように「北海道最北端のお店」などと書いておけば、みんなそこで記念写真を撮るわけです。観光客がみんな写真を撮ればお店の名前は自然と広まっていく。こうした販売促進も重要です。多くの人に知ってもらう仕掛けが大事になってくる。まず1回目来てもらったら再来店してもらえる仕組みを作る。リピート率を高めて、固定客、常連客にして、来店頻度を高める。飲食業は固定客、常連客を作って来店頻度を高めればいいだけだから、本当に難しいことではないんです。
中村 今日もいろんなお話が聞けて、本当にためになりました。これからも組織開発コンサルタントとして、先生に学びながら飲食業を勉強していきますので、よろしくお願いします。
【編集部より】
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文=アミューズメントジャパン編集部
※月刊アミューズメントジャパン2024年10月号に掲載した記事を転載しました。