No.10004708
全面液晶のPB機がもたらす変革|業界の課題解決の一歩に
NTERVIEW
ダイナム
佐藤公治 常務取締役
Satoh Kimiharu
11月12日にプライベートブランド(以下、PB)のパチンコ新機種『eA夏色日記GO』を発表したダイナム。約5年をかけて開発した全面液晶の新筐体「ZGO」は、どんな背景から生まれたのか。PB機開発を主導する佐藤公治常務取締役に聞いた。(文中敬称略)
──ダイナムのPB機開発に対する考え方を改めて教えてください。
佐藤 当社は「パチンコを誰もが気軽に楽しめる日常の〝ごらく〟に改革する」という創業以来のビジョンを掲げて、2006年から19年間にわたり、多くのメーカー様のご協力をいただきながらPB機の開発に取り組み、その数は全95機種・約9万台になりました。開発における一貫したコンセプトは、「パチンコを気軽に楽しみたい」「わかりやすく安心して遊びたい」というお客様の声に真摯に向き合い、その声に応えること。そのために甘デジを中心とした商品開発に取り組んできました。2018年には「お客様の声をカタチに」という合言葉の下、パチンコをもっと気軽に安心して楽しめるものにしたいという想いを込めて「ごらく」ブランドを立ち上げ、取り組みを一層加速させてきました。
──「ごらく」ブランドを作った背景は?
佐藤 ダイナムは、お客様が予算に合わせて遊技機が選べるように幅広いスペックラインナップを取り揃えています。近年、メーカー様から比較的、当たりやすく気軽に遊べる甘デジタイプの遊技機の販売が減少傾向にある中、ダイナムでは「ごらく」ブランドを立ち上げ、甘デジタイプのPB機の開発に注力してきた経緯があります。
──全面液晶のZGO筐体で開発した『eA夏色日記GO』は、「ごらく」シリーズの新しい展開という位置づけですか?
佐藤 はい。「ZGO」筐体は、全面液晶筐体を採用したスマートパチンコ機で、業界課題の解決と新たなゲーム体験の提供を目的とした筐体です。この筐体は、業界最大級の25・2インチ液晶画面を備え、液晶画面がセル盤面や可動役物の役割を担うことで、これまでにない斬新なゲーム表現が可能となりました。群予告や疑似役物の動き、パトランプの光など、多彩でインパクトのある映像体験を提供します。スペックは6段階設定付きの甘デジタイプで、ダイナムグループの店舗に2000台導入される予定です。本機の開発は単なる製品開発にとどまらず、「遊技台価格の高騰抑制」「入替作業負荷の軽減」「環境への配慮」という業界が直面する課題の解決にも果敢に取り組みました。長年のPB機開発を通じて学んだ知見を活かし、遊技機価格の抑制を可能とするとともに、作業負担を軽減し、資源の無駄を削減する設計が実現しました。
──3つの業界の課題の解決を目指すということですが、詳しく教えてください。
佐藤 まず、「遊技台価格の高騰抑制」ついては、現在のパチンコ筐体は非常に精巧で、大型の可動ギミックを搭載した派手で目を引く機種が増えていますが、これらを全面液晶化することで、新たな形の表現を可能にしながら、従来の可動役物に必要だった金型製作費や半導体、モーターといった部材を削減することで、結果的に機械単価の抑制ができました。また、この取り組みは、部材のロス管理や増産時の部材調達の効率化にも寄与する仕組みとなると考えています。さらに、セル盤の要素もすべて映像で表現できる仕様にすることで、1つの筐体でゲームソフトを切り替えるだけでまったく新しいゲームとして提供できる、いわゆる「ソフト交換」に近い仕組みが実現可能です。このアプローチを進めることで、2機種目、3機種目と展開するたびに、現在の新台価格の約50%程度まで遊技機価格を抑制できる見込みです。
次に、「入替作業負荷軽減」についてですが、パチンコ機の製造において、重量を1割削減するだけでも現状では相当な努力が求められます。しかし、仮に現在の遊技機の重量が50キロだとして、それを2割削減して40キロになったとしても、ホールの従業員の皆さんが「作業が楽になった」と本当に喜ぶかといえば、そうではないと思います。そうした課題を考えたとき、「重たいものを持たずに入替ができる仕組みを作ればいいのではないか」という発想に至りました。本機に関しては、表の盤面と後ろの基板を交換するだけで、新機種へと生まれ変わる画期的な構造を採用し、入替作業時の重量は5キロ未満となり従業員の負荷軽減を実現しています。
最後に、「環境への配慮」については、筐体の枠側に液晶を設置し継続利用を可能にしたこと、業界最少を目指した遊技釘の削減、さらには使用済みパチンコ盤面や基板のリユースを取り入れた新筐体の導入などにより、3機種4機種と長期間使用可能なビジネスモデルを構築しています。
──ZGO筐体の発想はどのように生まれたのですか?
佐藤 2018年に初代の「ごらく」機を出しましたが、その後に制作したオリジナルPB機の「GOシリーズ」はどれも見栄えが変わらなかった。言い方を変えれば、変えられなかったのです。見栄えを変えようと思っても、液晶の位置を1センチずらすためだけに、裏面にびっしり入っている他のパーツの形もすべて変えなければならない。そのために部材を起こして、部材を入れるプラスチックのケースの金型も作り替えなければならない。同時に製造ラインも全部変えなければならない。そう考えると、遊技機の顔はなかなか変えられないのです。これがGOシリーズの稼働が想定していたよりも良くなかった理由と捉えました。どうにかコストを落としながら大幅に遊技台の顔が変わる方法はないかと考えて出した結論が、全面液晶という考え方でした。
固定概念に縛られずに実現できた
──『eA夏色日記GO』は盤面内の可動役物もなく、外付けの役物もなく、シンプルな外観です。
佐藤 ZGO筐体の全面液晶は、あくまでもセル盤領域を含めてすべての領域を液晶化して映像だけで演出を表現できます。したがって、ハードは基本的に変えないという考え方で制作しています。全面液晶ですが、いわゆるこれまでの「液晶」と言われる領域のサイズは従来のものとそれほど変わりません。プラスチック成型された可動役物の裏にモーターがついていて盤面内で動くというこれまでの演出が、液晶内だけでできるわけです。液晶からセル盤にキャラクターが飛び出したり、群予告もセル盤に関係なく液晶全体で表現できたりしています。
──その発想はダイナムがカジノ向けスロットマシンを開発してきたノウハウから生まれたのでしょうか。
佐藤 カジノマシンのプロジェクト責任者をやっていましたので、5年前に全面液晶を考えたのは、まさにカジノマシンの開発から生まれた発想でした。実際のカジノマシンはもっとシンプルです。本当にチップを1枚挿して電源を入れるだけで新台に生まれ変わりますから。
──パチンコでもソフト替えに近いような形で入替えができるということですか?
佐藤 はい。この発想の転換は、我々の本業がホール経営で、開発は素人だったからこそ、固定概念に縛られずに実現できたのかもしれません。
近い将来はソフト交換という発想も
──ZGO筐体は、パチンコの未来を示すカタチになるでしょうか。
佐藤 遊技人口と店舗数が減少して、以前と比べると遊技機の販売台数は少なくなっています。その結果メーカー様は、例えば新台の稼働が良くて追加受注があっても、すぐには対応できないといった機会損失が生じているケースも少なくありません。そういう現状で言えば、近い将来はソフト交換という発想が出てきてもおかしくはないと思っています。
──ナショナルブランド(NB)の遊技機とPB機とのすみ分けをどう考えていますか?
佐藤 PB機の開発では、これまで19年にわたって本当に多くのメーカー様にご協力いただいてきました。ここで強調したいのは、ダイナムがいわゆる「メーカー」になる意図は一切ないということです。我々は、多様化するお客様のニーズにお応えするため、高スペックの機種を好むお客様にはメーカー様のNB機を、気軽に遊びたいとお考えのお客様にはダイナムのPB機をご提供することが重要だと考えています。どちらも欠かせない存在です。
──遊技機の価格が高いという点は、どう理解していますか。
佐藤 例えば、遊技機のソフト開発には多額のコストがかかっています。ソフトの開発費は1台作るのも 1万台作るのも同じ。現状ではそのコストを生産台数で割ると、どうしても高額になってしまいます。一方、ダイナムのPB機では2000台で割ったときのソフト開発費をベースに、どうやったら作れるのかを考えます。大当り確率の低いLT機など確率が辛いものに関しては、演出を豊富に作らなくては通常時の演出が持ちません。だから必然的にソフト開発費も高くなる。これはもうやむを得ないことだと思います。その点、甘デジならそこまで演出数を作らなくても成立します。
──ダイナムのPB機を、他のホール企業に提供することは考えていますか?
佐藤 例えば、ZGO筐体は5年前から企画して、先行投資もしてきました。しかも保通協に適合するまで店舗に設置できるかどうかわからないものに投資をするわけです。そのリスクを考えると、スタート段階は当社単独でやるしかなかったわけですが、今後はご賛同いただいているホール企業様と、共同開発することもあると思います。また、メーカー様がZGOのコンセプトと似たようなコンセプトや、さらに発展した機械開発をしていただければ、業界全体で課題解決の輪が広がっていきます。そうなると良いなと感じています。
──『eA夏色日記GO』はダイナムグループで2000台導入とのことです。次機種、次々機種では入替コストが下がっていく想定だと思いますが、最長6年間使うなかで新台が出た場合、店内にあるZGO筐体は増えていくと考えていますか?
佐藤 どちらに転がってもいいと思っています。この一作目の稼働が良ければ、二作目はすでに計画がありますので、そのまま撤退せずに純増でZGO筐体が増える。そこでは単価が下がりませんが、結果的には一作目が稼働しているので、それはそれで嬉しい誤算になります。1台も外れないぐらい人気があれば、単価は下がりませんが面積としてはこの筐体が増えますね。逆に稼働が思わしくない時には、ZGO筐体は増やさずにソフト替えをして入替えというパターンもあるでしょう。それはお客様の支持を見ながら判断をしていけばいいかなと考えています。4機種作って、4機種とも6年間ホールに設置されてZGO筐体が2ボックスになるのがもっとも嬉しい誤算ですが(笑)。
パチンコ参加率を増やす
──『eA夏色日記GO』では広告表示機能も搭載しています。
佐藤 待機画面中や、遊技中液晶の上部に広告が表示できます。トライアルとしてパチンコユーザーと親和性の高い3社に広告を出稿していただきました。遊技台の盤面は店内で一番ユーザーに情報が届く場所です。全面液晶にしたことで、ここで情報発信的なことをやってみようという試みです。パチンコユーザーにマッチした商品やサービスを提供されている企業様であれば、広告効果は高いと思います。当社としては広告収入を開発コストに充てることもできます。今回はそこにトライしてみました。
──時代が変化していくなかで、こうしたイノベーションは大事だと思います。
佐藤 ダイナムとしては、メーカー様と一緒にファンを増やしていきたいと思っています。お互いにそれぞれの役割を果たすことで、どうすればパチンコファンが増えるか。ホールだけでファンを増やすことはできませんし、 メーカーだけでファンを増やすこともできない。そこは本当にいろんな枠組みを共同でやっていく時代だという認識です。
──こうした遊技機の進化がファン増加につながるでしょうか。
佐藤 遊技参加率が成人人口のおよそ7%まで減っていることに関して、自分たちの世代で何とか変えていかないとこの先はないという話を、メーカー様ともしています。19年間でいろいろ教えていただいたことや、メーカーの構造を理解させていただいたこと。それらを礎にして、ホール側の視点からこんなことをやれば課題解決につながるのではというアイデアをカタチにしたのがZGO筐体です。全面液晶機は今までの全メーカー様のご協力により完成できた機械。もし課題解決につながると思っていただけるのなら、どんどん作っていただき、業界が元気になっていけば良いと思っています。
──具体的な目標はありますか?
佐藤 参加率が7%ということは、10人いたら1人以下しかパチンコをしていないということ。でも、参加していない93%のうちの1%を取ることはそれほど難しい話ではないとも思っています。1%回復するだけで、前年対比で100万人以上回復するんですね。20数年前の30%までとはおこがましくて言えませんが、1~2%取り返すことは難しいことではないと思っています。そのためには、1割残っている既存ユーザーの取り合いではなく、パチンコをしない9割の人たちにパチンコを楽しんでもらうためにもっとパチンコを魅力的にしなくてはなりません。ホールの従業員、 幹部、メーカーの皆さんが力を合わせれば、1~2%はすぐ取り返せる。そのために、今この転換期に、しっかりと力を合わせていければと思っています。
聞き手=野崎太祐
文=アミューズメントジャパン編集部
※月刊アミューズメントジャパン2025年1月号に掲載した記事を転載しました。