No.10004394
経営者インタビュー
「100万人のゴルファーを創出したい」
ステップゴルフ株式会社
榎本考修 代表取締役CEO
インドアゴルフスクールを全国で115店舗展開するステップゴルフ。「世の中に無理なことはない」と信じる榎本考修代表取締役CEO(45)は元プロゴルファーの起業家だ。日本人の健康寿命を延伸させるために、そしてゴルフへの恩返しのために、100万人の新規ゴルファー創出を目指す。
今年4月、スポーツ専門動画サービス「DAZN」の番組「FRONTIER OF SPORTS」で、元サッカー日本代表の槙野智章さんと対談した榎本CEO。番組では「インドアゴルフ界の革命児」として紹介された。
榎本CEOは1979年、大阪市生まれ。小学校から野球を始めて中学校はPL学園に入学。「甲子園」を夢見ていたが、PL学園中学には軟式野球部しかなく、高校に進学しても硬式野球部には入れないことがわかり、夢が途絶えた。気持ちを切り替えて公立高校を受験しようと勉強に励んでいたそのとき、両親が言った言葉が運命を変えた。
「ゴルフがいいよ。将来必ず役に立つから。ゴルフ部の寮に挨拶に行こう」
しかし、PL学園高校のゴルフ部はセレクションで選別された5人ほどしか入れない超名門ゴルフ部。監督からは「無理」と言われて取り付く島もなかった。
「無理と言われて本当に悔しかった。悔しくて、ムカついて、無理なことは世の中にないと言い出して、決してゴルフがやりたかったわけではないのに反発して、教頭先生に直談判しました」
その日から中学卒業までの半年間、ゴルフ部が練習しているゴルフコースの練習場の掃除と、竹ぼうきでの素振りを続けた。
「プロゴルファー猿みたいな練習を教わって、柱を見ながら座ってブーンと振る。最後の1カ月ぐらいで実際に球を打ったら、スパーン!と打てるようになっていた。教頭先生は、最初から最後までようやった、と言って無理を通して入部させてくれました」
無理なことは世の中にない。これはいまビジネスの世界でも貫いている信念になっている。
賞金をもらう側から出せる側に
高校では1年生時の冬の新人戦で78のスコアをマークして大阪府大会で2位に入るなど頭角を現した。全国大会は行けると思っていたが、高校2年の夏の大会は予選で敗退。自分を奮い立たせるために「プロゴルファーになる!」と言い出した。
「普通は優勝して俺はプロになると言うんでしょうが、挫折してプロになるっておかしいですよね(笑)。無理だと言われれば奮起するし、挫折したらプロになると言う。でも父と母は25歳までという条件で、それまでは黙って応援してやると言ってくれました」
高校卒業後は大阪学院大に入学。キャディーのアルバイトをして家賃を自分で払いながらゴルフ部で試合に出る日々。卒業後はツアープロとしてミニツアーに出ながらビッグツアーに出るチャンスを伺う厳しい闘いの日々が続いた。
そんな生活に25歳で区切りをつけたのは父との約束があったから。
「約束を守らなかったら、多分ズルズルと辞められない人になっていたと思います。父親にはよくぞ線を引いてくれたという思いです。あのままゴルフをやり続けていたら、ツアーで1勝はできたかもしれませんが、毎年優勝して賞金王になるイメージはなかった。それは僕の人生にとっての勝ちではないと感じて、賞金をもらう側から出せる側になろうと(笑)。そう考えるとその時の自分が許せたのでしょう」
育ててくれたゴルフに恩返しを
起業したのは2006年。大阪・本町にある大阪国際ビルのシェアオフィス。机ひとつでのスタートだった。社名は両親が営んでいた刺繍屋の名前を借りてアイエム株式会社。ゴルフ用品の販売やレッスンプロの派遣などを手掛けた。
「100万個売れたゴルフボールもあって、ゴルフ雑誌で取り上げられたこともありました。ただ、所詮商社は川中。僕は川上になることしか考えていなくて、12年前に自らサービス業を立ち上げました」
これがステップゴルフの始まりだった。
「ゼロから生み出したサービス業をいかに価値あるものにするか。元々、19年前に起業した時から、ゴルフをやる人を増やすことが、自分が育ててもらったゴルフに対する恩返しになるし、健康に良いスポーツを世の中に増やしていければ 健康寿命延伸につながると思っていました。まあ、最近こうやって言えますが、当時は健康にいいということぐらいしかイメージがなくて、これなら社会貢献になってるよなと。ゴルファーを増やすためには、お金持ちや年配者だけがやるスポーツじゃダメ。若い人、女性でも楽しめるようにしなければならない。それは最初からやりたいと思っていました」
創業から12年で閉店はゼロ
ステップゴルフのビジネスモデルは「インドアゴルフスクール」。もともと屋内のゴルフは、ゴルフバーなど仲間同士で楽しむ業態か、ただ打つだけの練習場が主だったが、ステップゴルフはコーチが付いて指導してくれる点がこれまでにない業態と言える。
エリアによって「ステップゴルフ」「ステップゴルフ プラス」「STEPGOLF EXtra」「STEPGOLF PREMIUM」と4形態のバリエーションがあり、特筆すべきは圧倒的なコストパフォーマンス。サブスクモデルで1カ月4980円(平日のみ)からで、平均客単価は6000円から9000円。これでコーチが付いて打ち放題。通常、レッスンプロがつくと2万円~3万円は必要になることを考えると、破格のプライシングと言えるだろう。
そのために同社が重視するのがコーチの採用と育成だ。
「年間600人の応募があり、そのうち8%の50人を採用して、これまでの離職率は5%以下。好きなゴルフを仕事にしたいという人材の受け皿になれていると思っています」
店舗には店長とコーチがいて、どちらもレッスンができる。レッスンプロに依存しない雇用環境があるからこそ、インドアゴルフスクールとして高い価値が維持できている。
もうひとつ力を入れているのがイベント事業だ。実際のゴルフコースに行くコースレッスンは年間約6000人が参加。コースレッスンに温泉ツアーなどのアトラクションを組み込み、会員同士の交流が図れる企画をイベントチームが練り上げる。
「会員様どうしでご飯を食べに行くようになるなど、地域のコミュニティにもなっています。現在、全国で会員数は約7万人ですが、そのうち4割はコースに行ったことがない人たち。こういう人たちがゴルフコースに足を運んでいただくことで、ゴルファーが増えていくと思っています」
価格、人材、イベント。こうしたビジネスモデルを作り上げた結果、ステップゴルフは創業以来、出店した店舗の閉店はゼロだという。
パチンコホール跡地に出店
今年4月、広島市の繁華街、紙屋町にあるビルの230坪の地下フロアに『STEPGOLF 広島 紙屋町』をオープンした。もともとここは大手パチンコホールがあった場所。その広いスペースに9打席のゴルフレンジと広いパブリックスペースを設けた。
「家主さんから直接お電話をいただいて、ここに出店してもらえませんかと依頼がありました。フランチャイズでの出店の可能性もあったのですが、直営でオープンしました。ピクニック気分で家族といらしていただいたり、このスペースを異業種交流会やさまざまなイベントで使っていただいたりして、街に愛してもらうスペースにしていきたいと思っています」
榎本CEOが目指すのは、当面は直営・FC合わせて500店舗。
「本当は1000店舗と言いたいのですが、いまは控えめに言っています(笑)。1000店舗に増やして100万人のゴルファーを創出することが目標です」
いま進めているのが、直営とFCに加えて地域ごとのエリアフランチャイジーによる出店だ。これは、資金はオーナーが拠出して運営はステップゴルフが行うビジネスモデルで、すでに広島で20店舗、大阪、名古屋でも20店舗ほどの計画があるという。
こうした出店計画を支えているのが、レイズ東京だ。パチンコホールの設計を多数手がけてきた同社が、その経験をフィードバックしている。
「いまステップゴルフのリデザインを考えています。そのコンセプトに沿って500店舗、1000店舗までを見据えて、レイズ東京さんには今後もパートナーとして、どんどん関わっていただければと思っています」
パチンコホール経営者に向けてはこう呼びかける。
「パチンコホールも地域貢献に熱心な業態ですよね。ただ、時代と共に環境も変化していきます。私はインドアゴルフという施設を提供したいのではなく、インドアゴルフスクールというサービスを提供したいと考えていますので、パチンコホールとの親和性は高いと感じています。ぜひ興味のあるホール経営者の方がいらっしゃれば、お話を聞いていただければと思います」
1979年、大阪府大阪市生まれ。1997年にPL学園高等学校卒業。2001年からJGTOツアーメンバーとしてプロ活動。2006年アイエム株式会社を創業。2007年にクロマックスボール100万球を発売し大ヒット。2012年、日本初のインドアゴルフスクールをフランチャイズ展開するサービス「ステップゴルフ」をリリース、ステップゴルフ株式会社を設立。
文=アミューズメントジャパン編集部
※月刊アミューズメントジャパン2024年7月号に掲載した記事を転載しました。