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2019年09月19日
No.10001382

木曽 崇(国際カジノ研究所 所長)
IR基本方針案 一部早期開業を容認
[コラム]カジノ研究者の視点

[プロフィール]日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

政府は9月4日、日本の将来における統合型リゾート(IR)の導入方針を示す「基本的な考え方(案)」を発表した。今回発表された「考え方(案)」に関して、その基本的枠組みはこれまでの論議から大きな相違はないが、唯一、大きな変更点が示されたのがカジノ施設の一部早期開業を認めることを前提とした制度設計が示されたことだ。

そもそもIR整備法は、第十七条において「特定複合観光施設のうちカジノ施設の営業を先行して開始してはならない」と定めている。これは、認定されたIRが複合的な観光機能を未だ十分に提供していない段階において「単純な賭博施設」として営業開始することを禁止する規定である。諸外国におけるIR開発では、全体施設の完成前にカジノ施設を先行開業させるケースがある。これは、カジノ施設からのキャッシュフローによって、その後の開発の資金調達を優位にする手法として採用されるものだが、日本のIR整備法ではこれを禁ずる条項があるためにその実現が難しいと考えられてきた。しかし一部の事業者やそれを支援する自治体からは、日本でも段階開業を容認すべきだとする主張が相次いでいた。

一方、そのような主張に対し、政府はこれまで非常に慎重なスタンスをとってきた。そもそも我が国のカジノ合法化は観光振興を主たる目的としたものであり、単純な賭博行為を国民に推奨するものではない。IRにおける複合的な観光機能が未だ十分に提供されていない段階で、事業者にカジノのみの営業を認めることは、我が国のカジノ合法化の趣旨そのものを違えるものになりかねない。それが一部早期開業に対して政府が後ろ向きだった理由だ。

そういったせめぎ合いの中で、今回「考え方(案)」の中で新たに示されたのが、政府による一部早期開業に対する折衷案である。政府はIRが運営を開始するためには「区域整備計画に定めたIR施設を構成する全ての施設が完成していることが必要」という原則論を示しながらも、IR整備法の示す制度趣旨が没却しない範囲内で一部施設の早期開業を可能とする方針を発表し、具体的に「宿泊施設を2棟建設する予定であるところ、うち1棟のみの工事が完成している場合」などの運用例を示した。このことによって、若干ではあるが事業者にとって優位な開発環境が実現したといえる。関係各所による積極的な政府への意見表明が、予定された規制の緩和を生んだ好例だろう。

現在、政府はこの「基本的な考え方(案)」へのパブリックコメントを募集しており、10月3日まで電子政府の総合窓口「e-Gov」から誰でも意見送付が可能となっている。読者の皆様の積極的な参加を期待したい。


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