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2020年05月07日
No.10001708

【コラム】 夢と志 第3回
人の資質や能力に依存しすぎるのは危険
ブロードキャピタル・パートナーズ CEO 起業家インキュベーター 折口雅博

人の資質や能力に依存しすぎるのは危険
おりぐち・まさひろ 1961年6月11日生まれ。防衛大学卒業後に日商岩井に入社。ジュリアナ東京や六本木のヴェルファーレなど伝説的なディスコをプロデュース。95年に設立したグッドウィルグループをわずか12年で年商7700億円に成長させる。2004年に経団連の理事に就任。紺綬褒章、厚労大臣賞、日本赤十字社社長賞など受賞。その後も「プロの経営者」として、数多くの事業を成功に導く。座右の銘は「夢と志」

前回、私が自衛隊少年工科学校、そして防衛大学と7年間寮生活を送った過去を話したところ、読者の方から「意外な経歴ですね」と言われました。「折口さんは合理的な経営をする人で、不合理なことが多い自衛隊とは正反対のイメージです」とのことです。 

確かに、自衛隊は上官の命令は絶対で理不尽に思える規定などもありました。ですが、そうした環境だからこそ逆に合理性が身に付いた部分もありました。

自衛隊の訓練では、極限まで疲労した状態でも、食事を作ったり片づけをしたりしなくてはなりません。ただし、そこで休息できなければ、その後の訓練で倒れてしまうかもしれません。そんな状況では率先して食事づくりをできないのが人間です。

普段は他人への思いやりが強く、何ごとも引き受けるタイプの人間ですら難しい。人間は弱い存在であり、強い意志を持ち続けるのは難しいことを理解しました。

つまり、人の能力や資質に依存するのは危険だということです。企業経営でもその認識の上で考えます。いくら真面目な人でも魔が差すことはあります。たとえば、現金を扱う部署ではあえて、現金との直接的な接点をなくすシステムを考えます。1人の人間に権限が集まると、取引先との癒着も起こり得ますから、複数人が関わるような体制にします。

人を信用しない、ということではありません。個人の能力に依存せず、人を支える仕組みやシステムを作ることが重要なのです。 

日本人の長所と言われる「おもてなし」も、根幹にあるのはシステムです。外国人が空港を降りて目的地に行こうと思ったとき、必要なのは分かりやすい標識や地図、外国語に対応した案内システムです。いくらソフト面でカバーしようと思っても限界があります。 
 
ある老舗旅館では、エントランスをくぐると名前を呼んで出迎えてくれます。車両ナンバーの識別装置を駐車場に設置しているので、車を停めた時点で誰が来たかを把握できるのです。
 それだけでなく、全従業員がタブレットで客の食事の好みや来店頻度、さらには趣味などの情報を共有し要望に対応してくれます。和服を身にまとった仲居さんのホスピタリティと言うと、いかにも人の経験や資質に頼っているイメージがありますが、実はシステムが支えているのです。

私が創業したグッドウィルは「人材アウトソーシング」を行う企業ですが、その成功を支えたのは情報システムでした。

何百万人の登録スタッフと数万社の登録企業をマッチングさせる。あるいは、全国に何百ある拠点をネットワーク化し、拠点間でお互いのスタッフの登録データベースを参照できるようにしたことで、他の拠点からでもスタッフが手配できる体制を作ったわけです。登録スタッフのもつスキルや経験まで共有しているので、細かいオーダーにも対応できました。グッドウィルが同業他社との圧倒的な違いを生み出していたのは、こうした情報システムだったのです。

皆さんのようなサービス業であれば、お客様のニーズや不満を吸い上げ、改善していくことが重要です。これも、スタッフのマンパワーだけでなく仕組みづくりが必要です。

アメリカで10年以上ビジネスをしてきましたが、随所で日本との違いに気付きます。アメリカでは些細なことでもお客様が意見を言ってきます。つまり、改善のきっかけが多いんです。クレームであってもその声にしっかりと対応してあげると、お客様はリピーターになってくれる。

日本は逆で、お客様は嫌な思いをしても声に出してくれません。その代わり二度と来てくれなくなってしまうのです。ですから、日本はアメリカ以上に顧客の声を拾うシステムが重要なのです。

システムは外注すれば簡単です。ただし、どんな声を拾い、それをどう活かすか。基本的なシステムのデザインは自社で考えてみてください。


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