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2021年11月26日
No.10002541

旧規則機撤去で運送会社が抱く危機感
旧規則機撤去期限まで残りわずか

旧規則機撤去で運送会社が抱く危機感
ユーコーリプロの金海基浩常務(左)、遊運協の森田修一副理事長(右)

株式会社ユーコーリプロ
金海基浩 常務取締役
Kaneumi Motohiro

遊技機運送協同組合
森田修一 副理事長
Morita Shuichi

旧規則機撤去期限まで残り2カ月余りとなったいまなお、全国のホールには約83万台(※)の旧規則機が設置されている。このまま撤去期限を迎えればかつてない大量の使用済み遊技機が一気に排出される可能性が極めて高い。この状況を業界は乗り切れるのか。廃棄台処理の最前線に立つ処理会社ユーコーリプロの金海基浩常務取締役と、遊技機運送協同組合の森田修一副理事長に話を聞いた。(文中敬称略)
※10月末時点・アミューズメントジャパン調べ

──はじめに遊技機運送協同組合(遊運協)について聞かせてください。
森田 パチンコ・パチスロ遊技機の運送を担う会社が加盟している団体です。前身の遊技機運送事業協同組合連合会を2021年に改称して、現在は東日本、首都圏、中部、西日本、九州・沖縄の5支部で活動しています。組合の目的は、全日遊連、日遊協、日工組、日電協、全商協、回胴遊商の6団体と協力し、リサイクルや環境問題、不正事犯の問題などを円滑に解決すること。私は副理事長で九州・沖縄支部長という立場です。

──遊運協の加盟会社は主にどんな業務を行っていますか?
森田 私が経営しているのは福岡にある清興運輸という会社で、遊技機を専門に運んでいます。通常はメーカーさんが販売される新台が九州の倉庫に一旦納められて、それを納品日に合わせてホールさんに配送させていただいています。ホールさんから使用済み遊技機を回収することなども重要な業務です。

──遊運協は昨年11月から九州の業界団体が進めている「九州回収システム」にも参加されていますね。
金海 「九州回収システム」は旧規則機を適正に処理して不法投棄をなくそうと、九州の業界5団体が考えた遊技機の回収システムです。日遊協九州支部、九遊連、九遊商、回胴遊商九州・沖縄支部とともに、森田副理事長のご尽力で遊運協の九州・沖縄支部にも加わっていただきました。

遊運協の森田副理事長

──改めて九州回収システムについて教えてください。
金海 いまも続けていることですが、目的は今回の規則改正に際して、検定・認定切れ旧規則機の早期排出を促すことです。処理会社であるユーコーリプロのホームページに特設サイトを設けて、旧規則機の撤去リスト、新台販売リスト、下取りリスト、不要台回収運送フロー、新旧規則機設置台数の5つの情報を開示・発信しています。このうち不要台回収フローは、遊運協さんに協力してもらっています。ホールさんからの不要台の回収依頼を受けて、ユーコーリプロが運送会社に対して不要台の回収を要請し、新台納品時にトラックの荷台の空きスペースを活用して不要台の回収を同時に行うスキームです。

ユーコーリプロの金海常務

撤去期の保管場所が足りなくなる

──アミューズメントジャパンの調べでは10月末時点での旧規則機の設置台数は約83万台。残り3カ月を切ってこの数字です。どう受け止めていますか。
金海 危機感が募る数字ですね。撤去期限を目前にして私たちが危惧しているのは、撤去期限の1月末から2月初頭に何が起こるかです。当社を含めて、リサイクル会社の処理能力には限りがあります。処理会社では近年、遊技機の部品のリユースはもちろんのこと、年々高まる環境保全に対する社会的要請に応え、手作業を中心とする処理工程を踏む形で、部品の取り外しなどの細かい作業を行っています。単に破砕して捨てるというような処理方法ではありません。したがって大量の使用済み遊技機が一気に持ち込まれればどんどん未作業の遊技機が積まれていくことになり、その結果、保管場所が足りなくなってしまいます。このため、いままでとは異なり使用済み遊技機をホールさんや運送会社さんに一時的に保管していただく必要が生じることになります。

──九州回収システムもあり、九州は業界が一丸となって今回の旧規則機撤去で遊技機の野積みなどが発生しないように取り組んでいます。成果は出ていますか?
金海 九州では日遊協の樋口益次郎副会長が先頭に立って、不要台の早期排出の目標を掲げてくださっているので、大手さんを中心に倉庫を空けようという動きをしてくれています。それでもなお、九州全体で見れば危機感が浸透しきれていない状況だと感じています。
森田 運送会社でも「検定、認定が切れた機械は使えないので、撤去期限の前に少しでもホールの店舗や倉庫にある不要台を排出してください」とお話ししているのですが、なかなかご理解いただけないケースも正直あります。

──不要台の排出が進まないと運送会社にとってどんな問題がありますか?
森田 例えば、ホールさんが1月31日に旧規則機を一斉に外されたとします。ですが、その日にすべての撤去機を引き取ってほしいと言われても、私たちには新台の納品という仕事があるため、帰りに撤去台をトラックに積んで帰っている時間はありません。したがって撤去機の回収はいつになるかわからないのです。そうなるとホールさんで保管しなければならない状況になります。撤去期限前後に回収依頼が集中することは当然予想できるので、ホールさんにはそうした状況を説明するように組合では話をしています。

九州では絶対に問題を起こさない

──それでも不要台の排出への意識が高まらないのはなぜでしょう?
金海 法人によって遊技台を適正に廃棄してリサイクルすることに対する意識にかなり温度差があるようです。業界の中で、1990年代から2000年代に廃棄台の野積みが社会問題化したことをご存じない、または忘れてしまっている人たちも多くなっているなと感じています。パチスロの新規則機の状況やメーカーの部材不足の影響で新台の供給が思うようにいかないこともあるでしょうが、遊技機の廃棄問題へのリテラシーがもう少し高まってくれればなと思います。そのなかで九州は業界が一丸となって取り組んでいますが、全国の他のエリアの状況はどうなんですか?

森田 率直に申し上げて、玄界灘を隔てて本州以東については、九州ほど意識は高くないと思います。九州ではユーコーさんが旗を振っていただいているので、遊技機の適正処理という意識は高いのですが、他のエリアでは使用済み遊技機を廃棄業者に丸投げというケースもあるようです。

──九州でそうした動きが進んでいる理由はどこにあるのでしょうか。
森田 過去に社会問題化した廃棄台の野積みや不法投棄を九州から一切出さない。闇スロなどの不正機も九州から絶対に出さない。これを遊運協の九州・沖縄支部の会合では常に話しています。九州・沖縄支部は結成してまだ2年ですが、もともと九州遊技機商業協同組合さんからの要請で作った九州遊技機運送組合という団体があったのです。この団体は1998年2月に結成され、遊技機の運送組合の中では、最も古くからある団体です。メーカーさんから信頼を得て遊技機を運ぶためには、業界が定めたルールをしっかりと守ることが重要だということで結成されたものです。その精神をいまの九州・沖縄支部が引き継いで加盟各社が取り組んでいます。

金海 九州では各県遊協と日遊協という大きな団体が手を取り合っている部分が大きいと思います。だからこそ九遊商や回胴遊商の九州・沖縄支部などいろんな団体がまとまった。日遊協の樋口副会長が「今回は絶対に九州はひとつでやるんだ」と強い意志を持って動いてくださった。私も樋口副会長と一緒に全日遊連、日遊協、日工組、回胴遊商に挨拶に回らせていただいて、そこで認知していただいた。誰かが旗を振ればそこに向かって一丸となれる。そこが九州の強いところだと思います。

森田 遊運協の九州・沖縄支部は組合員数が11社で全国の支部の中ではもっとも少なく、ほとんどの会社がパチンコを専門で運んでいます。ユーコーさんのおかげで九州全体が遊技機の適正処理に高い意識があるので私たちも仕事がやりやすい。過去に社会問題化した埼玉や栃木での野積み問題も共有して、九州では絶対に問題を起こさないと話をしています。

部材不足で買取価格も上昇

──撤去期限間近のいま、運送会社の立場でホールにお願いしたいことはありますか?
森田 これまで九州回収システムのスキームをホールさんにご説明してきましたが、まだ「どうにかなるよ」と思われている感じがしています。それは過去に私たちが「どうにかしてきた」からなのでしょう。実際に、2016年の「検定機と性能が異なる可能性のある遊技機」の撤去の際にも、ユーコーさんの力を借りて大きな混乱なく撤去回収ができましたから。でも今回はそのときとは時間と台数が桁違いです。一時期に数十万台の遊技機が排出されることが現実的になってきましたから。

──一時期に集中することが問題なんですね。
森田 普段の入れ替えでは、新台を納品したら撤去台を持って帰ります。不要台が少し増えても対応して持って帰ってきていますが、撤去期限前後に集中した場合には「もう無理だ」と全運送会社が言っています。そのときはホールさんに、「何日か置いておいてください。トラックが空き次第取りに来ますから」と言って、次の新台納品に行かなくてはなりません。ホールさんにとって最優先は入替です。それはわかりますが、廃棄台の問題で再び業界バッシングが起こってしまえば、ホールさんがまた大変な思いをすることになります。いまからでも遅くはないので、早期排出で倉庫を空けることをお願いしたいです。

金海 極論になるかもしれませんが、1月31日に最大でどのぐらいの旧規則機が外れるのかがわかりませんよね。パチスロは最後まで使用するホールさんも多いでしょうから。運送会社さんは、メーカーさんの工場に新台を取りに行きホールさんに納品しなくてはならない、同時に再設置される中古機も持って行かなければならない、更に撤去された遊技台も引き取らなければならならない。それが同じタイミングで集中してしまう。本当に大変な状況になりますね。

森田 私の会社では、新台と中古台で倉庫を分けています。中古台の倉庫がいっぱいになると、ホールさんに処分を願いして排出している状況です。

金海 ホールさんも倉庫を借りていればコストがかかることをわかっているはずです。運送会社さんはホールさんに預けてもらっておいたほうが保管料が入るのにもかかわらず、早く排出してくださいとお願いしているわけですよね。それはよほどのことだと思うんです。先ほどお話が出た2016年の撤去のときには、夜中にトラックを走らせて遊技機を積んで回って、朝方まで当社の工場の前で待っていて、工場が開くと同時に運び込んでいました。前回も苦労されていたわけですが、今回はそれの比ではないですよね。

森田 ユーコーさんでも受け入れられる台数は決まっているわけですよね。

金海 もちろんです。そのためにも倉庫を空けなければならないので、新規則機と旧規則機の保管状況を出して、数字でみなさんに実感してもらいたいと努力しているのですが、遊技台はホール様のものなので、この先はどうにもなりません。

森田 勝手に処分するわけにもいきません。預けておくと言われたらそうするしかないのです。

金海 いまは半導体などの部材が不足しているので、リサイクルによるリユースの需要も高まっています。当社でも工場に持ち込まれた遊技機からメーカーさんが必要とされる部品を取り外してお戻しするなどの対応に全力で取り組んでいます。部材不足の解消に少しでもお役に立てればと思っています。

森田 廃棄業者に渡してゴミとして捨てるより、今きちんと出した方が業界のためになるということですね。

金海 そうすることによって、ホールさんが欲しい台を買えない状況が改善されることにもつながります。ユーコーリプロのホームページでもメーカーさんの買取情報等を掲載していますので、ぜひ関心を持っていただきたいと思います。

ユーコーリプロの西日本リサイクル工場(北九州市)

従業員が手作業で遊技機を素材別に解体していく

遊技機本体から取り出されてリユースされる基板


業界全体で真摯な取り組みを

──撤去期限までにいまからでもできることはありますか?
金海 処理会社はこれまでに日工組さんにもお願いして、できることはやってきましたが、現状では万策尽き果てて、とにかく倉庫から不要台を出してくださいとお願いしています。「何かあったら困るから持っておく」と言われるホールさんがあるのは、撤去期限の延長があるかもしれないと思われているからかもしれません。ですが、11月9日の余暇進の秋季セミナーでの警察庁の池田課長補佐の講話でも、「期日後に設置していれば取り締まりの対象となる」と明言されていました。これはもはや経過措置の再々延長はないと明言されたと私は受け止めました。この先はぜひ県遊協単位で動いていただきたいです。何月何日までに旧規則機を何台排出しましょうなどと具体的な期限や数字を出して話し合っていただければ、組合員ホールさんの意識も変わってくるのではないかと思います。

森田 当社ではホールさんときちんと交渉するようにと社員に発破をかけています。あと2カ月半。少しでも協力してもらえれば1000台、2000台、3000台分のスペースが空きますから。

金海 とくにパチスロは保管のスペースが必要になりますよね。パチンコとパチスロでは体積が全然違いますから。1パレットに載せられる台数も違うし、トラックに載せられる台数も違う。本当に運送会社さんも大変ですよね。

メーカー別に整然と並べられた回収されたパチンコ

パチスロは体積が大きいのでより多くのスペースを必要とする

──SDGsの広がりなどで今後、廃棄台の適正処理という問題は社会からの注目も高まると思われます。今回の取り組みから見えた今後の課題について聞かせてください。
金海 今回の旧規則機の撤去については、警察庁もさまざまな形で適正処理を求めていました。九州回収システムも評価していただいています。それは世論に対してパチンコ業界のクリーンなイメージを作りなさいということも含まれていると思います。行政からの信頼を得られなければ、業界の要望を聞いていただけなくなる可能性もあるわけですから、業界全体で真摯に取り組む姿勢が重要だと思います。



▼ユーコーリプロのホームページ
旧規則機の買取情報などが掲載されている
http://www.yuko-repro.co.jp/


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