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2022年02月08日
No.10002655

【特集】ターゲットは20代①
20代の消費行動特性 “接続”がレジャーの大前提【前編】

20代の消費行動特性 “接続”がレジャーの大前提【前編】

パチンコ・パチスロ産業の縮小を止めるには新たな参加者、すなわち若年層を獲得しなければならない。彼らにパチンコ・パチスロを遊んでもらうにせよ、彼ら向けの新規事業を立ち上げるにせよ、この世代の特徴を理解しなければならない。キーワードは“接続”だ。

若年層である20代、30代は、いわゆる「Z世代」「Y世代」という呼ばれ方もするデジタルネイティブだ。この世代の境界線はおおむね25歳。ターゲットとするこの世代と、ホール企業の幹部との間には、年齢(ライフステージ)や経済力といった点だけでなく、パーソナリティを形成し消費者としての活動を活発化させはじめた10代後半の時期をどういう時代の中で過ごしたかによる価値観の違いがある。それゆえ、若年層を取り込む施策を考えるには、まずその世代の価値観や消費行動を理解しなくてはならいない。本記事を読んでいるホール店長や営業部長、経営層が「20代の頃の自分たち」を思い描きながら現代の若年層向けの施策を考えるのは大きな間違いの元だ。当時と現代では、まったく時代が違う。

いま35歳(=Y世代の中の年長者)の人が20歳のとき、まだiPhoneは誕生していなかった。インスタグラムの日本語版がリリースされたとき、彼らはすでに27~28歳だった。だが、Z世代は物心ついたときからiPhoneやiPadをおもちゃにしていた。筆者の娘は中学3年生だが、iPadのアプリで平仮名の練習を始めた。小学生になり流行りのおもちゃを欲しがるようになったが、それは学校の友だちが持っているのを見たわけではなく、おもちゃ紹介をしている小学生YouTuberの影響だった。中学生になり「秋葉原のラジオ会館に連れて行ってほしい」と言い出したのは、「インスタでフォローしてる子がいるんだけど、その子がよく秋葉原という街に行っている」という理由だった。

14歳になると彼女は癖毛を気にするようになった。そしてある日、Googleに「癖毛 直したい」と入力したことで、縮毛矯正というサービスの存在を知った。クチコミサイトで家の近くの美容院を探し、レビューをむさぼるように読み、店と担当スタッフを決めた。オンラインで予約するためにポータルサイト「ホットペッパービューティー」にユーザー登録しなければならず、そこで初めて親に協力を求めてきた。彼女はあらかじめ買い物をする計画がない場合、外出する際に財布を持たない。スマホがあればキャッシュレスで買えるからだ。

いま、高校受験を目前に控えているが、彼女にとっての進路選びの情報収集源は、各校が公開している学校紹介動画とクチコミサイトのレビューだ。クラブ活動の紹介動画に登場する生徒たちが楽しそうに見えるかどうかは、非常に大きな要素だと言う。ただし、企業が発信する情報やクチコミを妄信しているわけではなさそうだ。教師や親から、偽情報やなりすましの危険性、プライバシー保護の重要性などを嫌というほど説明されているからだ。

これがZ世代で、その先頭集団はすでに25歳前後になっている。読者の皆様は、自身が生徒や学生だった当時の生活様式を思い出して、Z世代がまったく違った世界を生きていることを再認識していただきたい。上の世代とは消費行動も価値観も異なって当然なのだ。

人口は少ないものの消費者としても労働力としても存在感を増していくこの世代に振り向いてもらえないと、産業の衰退は加速度的に進むことになる。

Z世代こそ
真のデジタルネイティブ


このX、Y、Zという呼び方は、世界的ベストセラー小説『ジェネレーションX~加速された文化のための物語たち』(1991年)の中で著者ダグラス・クープランドが、ケネディ政権(1961‐63年)後の時代からベトナム戦争終結(1975年)後までの時代に生まれた世代を「ジェネレーションX」と呼んだことに由来する。

以降、マーケターたちがY世代、Z世代という“くくり”を考え出した。生まれた年の区切りには諸説があるが、Z世代を1990年代半ば生まれ以降とするのが主流のようだ。各世代の特徴を簡単に説明すると表の通りだ。


2021年に出版された『Z世代マーケティング(原題:ZCONOMY)』(著=ジェイソン・ドーシー、デニス・ヴィラ)は、世代についての調査研究会社、センター・フォー・ジェネレーショナル・キネティクス(CGK)が世界各国で実施してきた65を超える量的・質的調査を基にZ世代の特徴を浮き彫りにしている。その結論として、著者は前書きで、「従来の一般的なマーケティングや人材採用、マネジメントの手法は、Z世代相手には通用しない」と注意を促している。


ジェイソン&デニスは、Z世代の消費行動の特徴を説明する中で、ゲームとテクノロジーについて触れ、「テレビゲームは長いこと非社交的だと思われてきたが、Z世代のゲーム体験はじつに社交的で、プレイヤー同士のつながりが強い」と指摘している。Z世代のゲームはオンラインコミュニティに接続されており、遠い町や外国に住む友人と一緒に遊ぶこともできる。“接続優先世代”であるZ世代の74%は、「ゲームは友達とのつながりを維持する手段」と考えているという調査結果もある。

パチンコ・パチスロという遊びが、その中で友人とつながれない以上、遊技をしながらスマホで別のこと(YouTubeを見たりオンラインゲームをしたりチャットをしたり)をするのは、この世代にとっては当然のことだ。

Z世代の金銭感覚は
安定を求め貯蓄志向


もうひとつ、レジャーや消費行動の理解の上で見逃せないのが、Z世代の金銭感覚だ。CGKが実施してきた調査の中で、Z世代は「安定した仕事、経済的自立、借金の回避を望んでいる」傾向が繰り返し表れているという。親の世代であるX世代、Y世代が経済的に苦しむ姿を見てきたからだ。2019年に実施されたCGKの年次調査によると、アメリカのZ世代の69%が「リタイア後に備えて貯蓄することは重要」と考えている。アメリカのZ世代は、社会保障が受けられず、希望通りの老後を過ごす資金を自前で確保しなければならないことに気付いている。

この傾向は日本のZ世代にも当てはまりそうだ。SHIBUYA109エンタテイメントが運営する若者マーケティング研究機関のSHIBUYA109 lab.が2021年2月に実施した調査は、1都3県の18歳~24歳の学生は、「近い未来のポジティブな“もしも”に備えて無理せず貯金」という行動特性と「むやみな浪費は悪」という価値観を持っており、「お金のやりくりスキル」が高い傾向にあるとしている。新型コロナ禍という状況だったこともあるが、同調査によると、お金の使い道として「貯金」は、「交際費」の次に多く挙げられた。支出金額ベースで見ると、1カ月あたりの貯金額は交際費額を上回った(正確に言えば貯金は支出ではないが)。

そしてジェイソン&デニスは、Z世代は現金を持ち歩くことに不便さを感じていると言う。先述のCGKによる2019年の調査によると、Z世代の中の18~23歳層では69%が週に1回以上決済アプリを使っており、現金への依存度が急速に下がっていることがわかった。

日本では国によるキャッシュレス決済推進事業として、2019年10月から2020年6月までポイント還元事業が行われた。マネーフォワードが2020年5月に実施した「コロナ禍の個人の家計実態調査」によると、回答者の4割が「キャッシュレス決済の利用が増えた」と回答した。ニッセイ基礎研究所の試算では、2020年の日本のキャッシュレス決済比率は前の年より約2ポイント増加して29%になった。

日本の20代の若年層は必ずしも「キャッシュレス至上主義」ではなさそうで、例えば消費者庁が2020年に実施した調査(※)によるとキャッシュレス決済の利用者率が最も高いのは30代で80.6%。20代は73.0%だった。
※「消費者意識基本調査 2020年度版」

だが別の民間調査では、20代は使う金額が5000円を超えるとキャッシュレス決済の利用意向率が現金決済を上回った。

こういったZ世代のお金についての意識を踏まえると、現金でしかパチンコ・パチスロを遊べない状態がこの先も続けば、Z世代に娯楽として選ばれることはますます難しくなるだろう。
取材・文=田中 剛(本誌)

【”接続“がレジャーの大前提【後編】に続く】

※『月刊アミューズメントジャパン』(2022年1月号)から転載


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