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2024年01月03日
No.10004040

[コラム]『パチンコ・パチスロ プレイヤー調査 2023』(APJ、シーズ、EBIの共同調査)からわかること
プレイヤー像の捉え方 ~マクロ視点のススメ
店舗内で見えている景色は〈歪み〉があるかもしれない

プレイヤー像の捉え方 ~マクロ視点のススメ
出所:『パチンコ・パチスロ プレイヤー調査 2023』

思い込みを招く原因の一つは、目立ったこと、強く印象に残ったことを「頻繁に起こっている」と錯覚してしまうことにもある。そしてもうひとつ、この原稿で強調したいのが、「人は俯瞰して見ることが苦手」ということだ。
文=田中 剛(Amusement Japan)

 パチンコ・パチスロを遊んでいる人(=遊技者:過去1年の間に1回以上パチンコもしくはパチスロを遊んだ人)の男女比は、男性75.1%、女性24.9%で、約8割を男性が占めている。これは『パチンコ・パチスロ プレイヤー調査 2023』(APJ、シーズ、EBI共同企画)のために実施した、全国の18歳~79歳約4万人から回答を得たアンケート調査を分析したものだ。

 女性の比率の低さを「パチンコ・パチスロのイメージが悪いからではないか」と考える人もいるが、はたしてそうなのだろうか? 実は、比較的イメージが良いと言われている競馬においても、参加者の男女比は77対23だ。また、「株・FX・仮想通貨のギャンブル的なトレード」をしている人の男女比は74対26で、これもパチンコ・パチスロとほぼ同水準だ。
 これらのことから、「射幸性を楽しむ」という遊びの性質そのものが、日本の文化的背景の中では、女性よりも男性に選好されるものと考えるほうが自然だ。ゆえに、パチンコ・パチスロの遊びの本質を据え置いたまま周辺イメージの向上を図っても女性参加者は増えないだろう。すでに女性参加者はじゅうぶん獲得していると考えるべきだろう。

 パチンコ・パチスロを遊んでいる人の年代構成比を見ると、18~29歳、30歳代、40歳代の構成比はほぼ同じでそれぞれ約21%。これより上の年代は、上にいくほど構成比は小さくなる。つまり、遊技者の約4割は39歳以下で占められており、60歳以上の割合は約2割にすぎない。本誌は繰り返し指摘しているが、マクロ視点で見るかぎり「パチンコはシニアの遊び」という見方は的を射ていない。
 さらに細かく性年代で見ると、構成比のもっとも多くを占めるのは男性30代で16.7%。そして男性の18~39歳層が遊技者の約3分の1を占めている。

出所:『パチンコ・パチスロ プレイヤー調査 2023』(APJ、シーズ、EBI共同企画)


 2019年から2022年の3年間に、パチンコプレイヤーは60歳~79歳層が43万人減少したが、18歳~39歳層はその1.8倍の78万人も減少した。パチスロプレイヤーは60歳~79歳層が27万人減少したが、18歳~39歳層はその3.8倍の103万人も減少した。遊技人口減少の主要因は、明らかに18~39歳層から「選ばれなくなった」ためだ。

 なお、プレイヤーの定義を「過去1年間に1回以上遊んだ人」とすることについて異論もあるかもしれないが、総務省の『社会生活基本調査』の行動者率も、日本生産性本部の『レジャー白書』の参加者率も「年に1回以上」を基準にしており、参考値として比較しやすいという点で合理性がある。『パチンコ・パチスロプレイヤー調査』の設問の中では頻度を尋ねているので、必要に応じて、例えば「3カ月に1回程度以上の頻度」に絞り込んだ分析結果を使えばよいことだ。

 「マクロな視点を知ってどうなる?」という疑問もあるかもしれないが、現状を的確に捉えないと、「コロナ禍にシニア層が来店を敬遠して店に来なくなった。そのため参加人口が減少した」という、一見もっともらしいが実態とは異なる理由を考え付くことになる。これは参加人口減少の主要因でないので、この仮説に基づいた施策は的外れなものになる。 

目の前に集中すると俯瞰して見にくい

 いま店内にいるお客さんの中に、「よく見かけるお客さん」が3割~4割くらいいたとする。翌日も、「よく見かけるお客さん」が同程度いたとする。〈今〉という瞬間を切り取った、〈目の前〉に見えている景色から、多くの店舗スタッフは、「ウチのお客さんのうち3割~4割は常連客だ」と認識するのではないか。

 目の前にいる店内の遊技客が、「自店のお客様」であることには違いないが、それは一部にすぎないはず。会員データを見れば明らかなように、今日も昨日も来店していない「自店のお客様」が大勢いる。活用の目的しだいだが、実用上は、「過去1カ月間に1回以上来店した人」や「過去3カ月間に1回以上来店した人」のユニークな人数を、「自店のお客様」の人数と捉えるはずだ。

 ある期間内に1回以上来店した人を、自店のお客様の母集団と考える俯瞰したマクロな視点を持つと、お客様がどのような人々によって構成されているかという全体像は、先の、「〈今〉という瞬間を切り取った、〈目の前〉に見えている景色」(=ある時点の来店客)に基づく自店のお客様像とは相当異なるはずだ。端的に言えば、「〈今〉という瞬間を切り取った、〈目の前〉に見えている景色」は、来店頻度が高い客に大きく偏ったものだ。

 例えば、ある日に来店した客の中からランダムに100人を抽出して、あるアンケートに回答してもらったとする。来店頻度が高い客ほど、その日に来店している確率が高く、このアンケートの回答者に選ばれる確率が高い。そのため集計結果は、来店頻度が高い客の回答に偏る。どのように偏るか、下の図で例を示した。

 あるお店の会員を、前月までの過去半年間の来店頻度によって5つに区分すると図のような分布になり、会員のもっとも多くを占めるのは「月8回程度来店」(Cグループ)で30%、「ほぼ毎日来店」する(Aグループ)は10%だったとする。ある日に来店した会員を調べると、来店頻度の構成比はどうなるか?

来店頻度が高い会員ほど、ある1日に来店している確率が高い。単純化すれば、「月15回程度来店」するBグループの会員がこの日に来店している確率は、「月4回程度来店」するDグループの会員の4倍だし、「月1回程度来店」するEグループの会員の15倍だ。すると、このお店のBグループとDグループ、Eグループの会員数が仮に同じだったとしても、ある日に来店している人数は、B>D>Eとなる可能性が高い。同様に、「ほぼ毎日来店」するグループAの会員は10%に過ぎないが、ある日に来店している確率が高いことから、この日の来店客の3割近くを占めることになる。その分布が下段の図だ。


 上段の図のように高頻度来店客はある期間の来店者の中のごく少数であっても、ある時点(ある時間帯、ある1日など)に着目すると多くを占める(下段の図)。そして、この日に来店客を対象にアンケートを実施すれば、実際には少数派であるはずの高頻度来店客の意見が大きく取り上げられる結果になる。

 もちろん、「来店頻度が高いお客様ほど重要なので、その方々の回答に偏っていても何ら問題はない」という考えもあるだろう。しかし、そこから得られた情報は、自店に比較的満足しているヘビーユーザーの声に偏っているため、これを鵜呑みにすると、来店頻度が低い客に来店回数を増やしてもらうヒントにはならないし、来店頻度が低い客の不満や離脱の予兆に気づくことは難しい。つまり、課題発見という目的に向かない。

 「来店頻度が低いお客様も、自店の大事なお客様」「来店頻度が低いお客様の理解を深め、来店頻度を高める施策のヒントにしたい」と考えるのであれば、俯瞰したマクロな視点から遊技客を捉え、その遊技動向や意識の理解に労力を払うべきだろう。

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調査レポート書籍『パチンコ・パチスロ プレイヤー調査 2023』では、本記事では触れられなかったパチンコ・パチスロプレイヤーの遊技実態を、性年代別などの基本クロス属性のほか遊技頻度などのさまざまな切り口でグラフ化し多数掲載している。購入については弊社へお問い合わせください。


書籍 『パチンコ・パチスロ プレイヤー調査 2023』概要
▶調査期間 2023年2月
▶調査対象 全国の男女18歳~79歳、サンプルサイズ4万1515
▶調査手法 市場調査会社のモニターを対象にしたインターネット調査
▶企画設計 シーズリサーチ、エンタテインメントビジネス総合研究所(EBI)、アミューズメントプレスジャパン(APJ)
▶ページ数 229頁
本書籍の概要および購入注文書はこちらをご参照ください。

たなかつよし/(株)アミューズメントプレスジャパン 執行役員専務/広告代理店、マーケティングリサーチファーム(消費者調査部門)を経て(株)アミューズメントプレスジャパン入社。シーズ、EBIとの共同企画調査『パチンコ・パチスロプレイヤー調査』に参画している。


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