No.10002888
企業力を向上させるソリューション④
すべての企業や人にSDGsに取り組んでほしい
オフィス佐藤 佐藤聖子 代表
佐藤聖子さんは、日遊協の広報調査委員会の副委員長としてSDGsに関わり、組織や企業に向けたセミナーなどを行っている。ホール企業がこれからSDGsに取り組む際の手順や、そのメリットについて伺った。
企業価値を高めることが
新たな収益創出の機会に
――佐藤さんは、かつて広告代理店で投資家向けのIR広報のお仕事をされていたと伺っています。企業にとってSDGsに取り組む意義は何ですか。
佐藤 企業の長期的成長には、ESG(Environment=環境/Social=社会/Governance=ガバナンス)の3つが必要だと言われています。企業の新たな収益創出のオポチュニティ(機会)を評価するベンチマークとして、従来の財務情報に加えて重視されるようになりました。社会と対話しながら共有価値を創り出し、連携・共同した結果生まれてくる企業価値向上には欠かせない指標です。SDGsは、これらの指標を達成するための有効な手がかりであり、世界共通のものさしを持つことだと理解すると、取り組む意義が非常にわかりやすくなると思います。
――最近は、SDGsに取り組むホール企業が増えました。これから始める企業は、どんなことに気をつければいいのでしょうか。
佐藤 まず、トップダウンが大事です。トップが号令をかけて「やろう」と言わないと何も始まりません。かなり早くからSDGsに取り組んでいるあるホール企業のトップは、それ以前に開かれた日遊協の理事会で、私がSDGsの取り組みを提案したら次回の理事会にはもうSDGsのバッヂを付けてきました。「まだよくわからないけれど、とにかく始めようと思って」とおっしゃいました。その決断力には本当に驚きました。
推進のリーダーを決め
5つのステップを実行する
――社員が具体的に動き出すためにはどうすればいいですか?
佐藤 「SDG Compass」というガイダンスを、オフィシャルサイトからダウンロードすることができます。まず、これを入手してください。次に推進のリーダーとなる人を決め、「①SDGsを理解する ②優先課題を決定する ③目標を設定する ④経営へ統合する ⑤報告とコミュニケーションを行う」という5つのステップを順に実行していきます。
SDGsの期限である2030年に、自社はどんな社会の中でどんな会社になっているのか、という未来像を描き、それを実現するための道のりを現在にまで遡って考える「バックキャスティング」という方法もよく使われています。未来へのシナリオを作るのです。また、17の目標を達成するための道のりを知るためのカードゲーム「2030 SDGsゲーム」のような体験型のゲーム形式セミナーもありますので、社内の勉強会の際に活用すれば、自分に身近なこととして受け入れられるようになると思います。
――会社を挙げて取り組んでも、社員の中には興味が湧かず、勉強会にもイヤイヤ出席する人もいるのではないでしょうか。
佐藤 「誰一人取り残さない」のがSDGsとはいえ、誰もが積極的に活動に参加してくれるわけではありません。最初はリーダーのほかに、共感してくれる仲間が数人いるだけでもいいんです。社内にいなければ、外部にSDGs担当者の交流会やコミュニティもあるので、参加してみるといいですよ。オーナーの方は、SDGsの担当者と対話し、変化の大きな「今」を注視しながら、自社の目標とのブレをこまめに確認していくことなどで支援していただければと思います。
――4番目の「経営へ統合する」とはどういうことですか?
佐藤 SDGsを理解し、優先課題や目標を決定すると、自分の会社の事業に直結してくるものだということが見えてきます。SDGsは、お題目でもなんでもなく、持続可能な目標を定着させて企業価値を高めるツールだからです。取り組んだことと、その達成度について報告をし、社内・社外の人とコミュニケーションを図ります。
企業に社会的倫理を求め
就活をする学生が増えている
――SDGsへの取り組みは企業にとって、ほかにどんなメリットがありますか?
佐藤 先日、電車の中で、就活中の大学生とおぼしき若者2人が会話をしていました。話題は、マイクロプラスチックによる海洋汚染のことでした。また、1人が面接の際に、「御社のSDGsへの取り組みを教えてください」と試験官に質問したのだそうです。期待していたような答えは得られず、内定はもらったけど行くのをやめたと言っていました。いまや、SDGsは企業価値をはかるものさしにもなっているのです。小学生の頃から地球環境保護やジェンダー平等に関する教育を受けているため、社会的倫理を遵守する企業への就職を望む学生も多くなってきています。良い人材を取るつもりならば、企業がSDGsに取り組まない理由が見当たらないと言ってもいいのではないでしょうか。
市場規模に見合った
SDGsの取組みを
――義務でもないのに、SDGsに取り組んでもあまり意味がないという考え方もあります。
佐藤 市場規模が14兆円で、売上200億円の企業が多い業界ってそうはありません。200億円企業がもつエネルギーを、SDGsに注ぎ込まないのはもったいない。社会に対する影響力を再認識して、自分たちはどんなことができるかを考えることが大切ではないかと感じています。事業にプラスになることが、必ずそこから生まれてくるはずです。
新しいことを始めにくい現在の社会情勢の中で、世間から、「だからパチンコはダメなんだよ」と思われるのは悔しくありませんか? 持続可能性を追求しているホール企業は、いざという時にさまざまな支援があるでしょうし、生き残りの可能性が高くなると思います。2030年を目指して、自分たちの会社はどうなっていたいのか。その目標に向かって各部門がどんな活動するか落とし込んでいく。そのためにSDGsというツールをどんどん活用してほしいと思うのです。
さとう・せいこ
1983年業界誌に入社。編集部、営業部を経て99年には経営にも参画。2001年業界特化型広告会社に転職し、03年からIPOに向けたIR広報と企業広報を担当。広告会社在職中から日遊協広報調査委員会に参加し、活動の一環として広報誌編集のバックアップを行う。13年からは会員企業の女性社員にインタビューする「女性社員訪問」を企画し誌面で展開。20年オフィス佐藤設立。広報関連の仕組み構築、アドバイスなどを事業とする。
※『月刊アミューズメントジャパン』2022年6月号に掲載した記事を転載しました