No.10003060
パチンコホールのM&Aで成功するために 第1回
赤字物件の「のれん代」はどうつける?
文=奥野倫充(船井総合研究所 上席コンサルタント)
パチンコホールの廃業数が高止まりしているいま、M&Aで企業規模の拡大を図る企業がある。ではM&Aで成功するためにはどんなノウハウが必要なのか。船井総合研究所でホールに特化したM&Aを手掛ける奥野倫充氏が提言する。
M&Aブレイク案件は成約の布石
ホール経営企業の中には交渉の最終段階で破談してしまう「M&Aブレイク」のご経験がある法人様もいらっしゃると思います。しかし、そのブレイク案件が次の成約までの布石となっているケースもあります。最も多いのは、売主が経営方針を変更した際、声かけしてもらえる最優先企業になることです。
したがって、仮にブレイクしたとしても喧嘩別れのような状況には持ち込まないことが大事です。必ず「もし御社の方針が変わった際は自社を最優先に」とお声がけをして、定期的に連絡を取り合うことをお勧めします。
今回は、なるべくブレイクしない交渉に持ち込める進め方についてお話させていただきます。売主と買主の希望条件は格差があって当然です。短期間で成約に至らなくても、長期的に成約につながる布石となる交渉の進め方はいろいろあります。その交渉の進め方のヒントとなれば幸いです。
赤字物件ののれん代はどうつける?
売主のなかには「成約時にすべて精算したい」という方もいれば、「成約後も定期収入が入るようにしたい」と考える方もいます。買い手としては、初期の交渉段階でこの意向を確認することが重要です。
仮に「成約後も定期収入が入るようにしたい」とお考えの売主ならば、賃料収入や顧問料といった条件をつけて交渉を進めることで前に進むことがあります。もちろん、買い手としては成約時の費用を下げる交渉が可能になりますので初期の段階ではこの確認を進めるべきです。
その際に考えなければならないのが赤字店舗ののれん代です。売主は、立地条件に希少価値があると考えていますし、自社で再投資すれば業績回復を見込めるという算段もお持ちです。つまり他社に事業譲渡したほうが良いのか、自社で再投資すべきかで悩んでいるのです。社内でも「そんなに安い金額で売るくらいならば自社で再投資しましょう」という意見が出て当然ですから、なかなか話がまとまらないことになります。
買い手としては、どうしてもその物件が欲しければ、再投資で業績が上がる見込みを踏まえたのれん代を検討すべきです。赤字店舗にのれん代をつけるのは悔しいところですが、魅力的な物件であれば、売主には他社からも話が来ます。どちらかというと、売主に主導権があるのがM&A交渉です。なるべく安く買いたいのが買い手の心理ですが、のれん代はビジネスチャンスを獲得するための必要投資と考える必要もあるかと思います。
のれん代の考え方
パチンコホールののれん代は下記のような考え方で評価されるのが一般的です。
(1)EBITDA倍率0~1倍
地域三番店未満の物件。不動産評価程度しかつかないので、マンションディベロッパーなど他業種法人への譲渡と競合します。
(2)EBITDA倍率2~3倍
地域三番店までのお店の目安。スマート遊技機への再投資などに悩む法人におけるのれん代の目安です。
(3)EBITDA倍率4~5倍
希少立地の店舗、もしくは1000台クラスの大型店。営業を継続することを前提としながら現金化する選択肢をお持ちの法人様におけるのれん代の目安です。
(4)EBITDA倍率6~7倍
複数社が手を挙げる物件。1000台クラスの繁盛店や地域一番店クラスになります。利益も出ているので、売主としては売却の必要性がないため、満足のいく金額が出てきても成約しないことがあります。
もちろん、売主と買い手の双方の合意で決まるのがのれん代。最もデリケートな部分ですが、買い手としては「安くして」の一辺倒ではビジネスチャンスを逃してしまうリスクがあることも踏まえるべきです。とくに優良物件は、本気で取りに来る法人が複数出てくるからです。
結局のところ、“御縁”となるのかもしれませんが、その御縁を手繰り寄せる最善の努力を尽くすべきといえます。そして、良質な物件は売却しやすいという点も考慮すべきです。
買い手としてはなるべく安く買いたい。売主としては高く売りたいというのはもちろんですが、加えて売主は「適切な評価をしてもらえる法人に譲渡したい」と思うのも当然です。仮に交渉が難航してブレイクしたと思っていても、実は継続しています。御縁を紡ぐ作業も必要です。
おくの・のりみち
株式会社船井総合研究所 第三経営支援本部 レジャー&スポーツ支援部
上席コンサルタント
全国のパチンコホールの経営支援に実績を持ち、近年ではホールに特化したM&Aで多数の実績を持つ。現在、近年に新規出店やM&Aの実績があるホール経営企業約50社と密にコミュニケーションを取り、売却希望の企業とマッチングを図っている。