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2024年01月26日
No.10004089

木曽 崇(国際カジノ研究所 所長)
ポーカー業界から波及する混乱
[コラム]カジノ研究者の視点

ポーカー業界から波及する混乱
Kiso Takashi [プロフィール]日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所入社。2011年、(株)国際カジノ研究所設立。

昨年12月、「日本のポーカー史が動いた」とも言われる大きなできごとがあった。バハマで行われていた世界最大のポーカー・トーナメントシリーズのひとつである「WSOP Paradise」のウルトラハイローラーと呼ばれる部門において、12月12日に日本人プレイヤーのオオヤマサシ氏が見事優勝し294万ドル(約4億3千万円)の賞金を獲得した。同氏が優勝したウルトラハイローラーは世界中の強豪ポーカープレイヤーが集結する、同大会における最高賞金額が設定される部門であり、エントリー料は破格の1500万円(!)。トーナメントの最終テーブルに残ったのは生涯獲得賞金77億円で世界4位のジェイソン・クーン(アメリカ)を含む世界のトッププレイヤー達であった。オオヤマサシ氏はそれら「レジェンド」達と堂々と渡り合い、優勝のゴールドブレスレットを勝ち取った。


このように日本のポーカー界が大きく沸き立つ一方で、深く影を落とす事案も発生している。11月8日に、衆議院内閣委員会において立憲民主党の中谷一馬議員は「国内ポーカー業界に関する質疑」を国家公安委員会および警察庁に向けて行った。質疑において中谷議員は、国内で行われている大規模ポーカー大会の多くが、日本から金を賭けて遊ぶと違法となる海外オンラインカジノ業者等による協賛を受けていると指摘し、これに関する政府の見解を求めた。

警察庁の桧垣生活安全局長は「(協賛金の)額と支払い方、また大会の運営の中でどのように使われるかによって具体的に違法かどうかを判断されるものであり、一概に回答することは困難」としつつも、刑事事件として取り上げるべきものに関しては法と証拠に基づいて捜査していきたいとの姿勢を示した。また松村国家公安委員長は「オンライン上で行われる賭博に関する様々な問題についてはしっかりと受け止めており、違反行為が認められれば厳正な取り締まりを行うよう警察を指導して参りたい」とのコメントを付した。

この委員会質疑においてはオンラインカジノ等からの協賛金に対する違法性の「基準」は示されないまま警察および国家公安員会の「覚悟」のみが示された格好となったが、民間の一部は敏感に反応した。11月の後半に新宿区内で開催が予定されていた大型ポーカー大会「WPTジャパン」は、その会場を急遽大田区の別施設に変更することを発表した。理由に関して公式には明示されていないものの、当初予定していたイベント会場から「貸し出し拒否」をされたとのことである。

実は、オンラインカジノ業者等からの協賛を受けている国内イベントはポーカー大会だけではない。格闘技を中心に多くのスポーツ競技においても同様のことが行われている。この種のスポーツ競技はポーカー大会と異なり、マスメディアや大手オンライン配信メディアなどで放映されることも多いため、一部メディアでは内部での論議が始まった。ただし、違法とは明示されていないオンランカジノ業者等による「協賛」に関して、メディア側として主催者に「差し止め」を迫る訳にもいかずその対応に苦慮をしているようだ。

先に行われた委員会質疑において、中谷一馬議員自身はあくまで「ポーカー大会」に限定してその問題を指摘したつもりであろうが、その影響範囲は想像以上に広く、混乱の波紋が広がっているのだ。


*本コラムは月刊アミューズメントジャパン2月号からの転載です。


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