No.10004804
新たなるチャレンジ『超甘LT』|豊丸流イノベーションがもたらす業界の未来
INTERVIEW
豊丸産業
角 日出夫 専務取締役COO
1960年の設立から今年で65年目の節目を迎える豊丸産業。100年企業を目指して推し進めるのは、社内改革と新たな企業文化の創造だ。そして、業界に一石を投じるために開発した、娯楽性を追求した遊技機『超甘LT』の市場導入。パチンコ・パチスロ業界の未来に向けて、豊丸産業が考えるホールへの貢献を同社の角日出夫専務取締役COO に聞いた。
──業界の現状について、角専務はどのように考えておられますでしょうか?
角 娯楽の多様化が進む中でこの30年間市場が縮小し続けています。1995年に約3000万人いた参加人口は、2022年に約800万人と約4分の1に減少。それに伴い約31兆円あった市場規模が約15兆円に半減しています。参加人口の減少は、余暇の過ごし方が多様化している影響も多分にあると思いますが、それだけではないと考えています。パチンコが「大衆娯楽の王様」と呼ばれた時代から、業界は貸玉料など射幸性に対して工夫をして、各遊技機メーカーも機械開発に思慮深く取り組んできました。ですが、その中で他産業に比べてイノベーションが遅れているのではないか。加えて、近年は射幸性が著しく高まり、投資金額が上昇し過ぎているところもユーザー離れの一因として危惧しています。
──業界が良くなるためにどのような対応をしていくべきだと思われますか?
角 まずはユーザーニーズが多様化しているということを真摯に受け止めるべきではないかと考えています。また、余暇市場は社会経済とも密接に関係していますから、物価高が続いていることも念頭に置く必要があるかもしれません。その中で、参加人口の増加を促すには門戸を広げるしかない。現在は、ある程度射幸性の高い遊技機を市場に投入できていると思うので、娯楽性に重点を置いた遊技機も必要ではないかと思うわけです。昨年で言えば、物価高の中でも、ライブ鑑賞やスポーツ観戦といった「推し活」がレジャー消費をけん引して、レジャー消費が回復しました。つまり好調な産業があるわけです。先ほどイノベーションの話をしましたが、メーカーの新規参入のハードルが高いのもこの業界の特筆すべきところで、他産業では新規参入に伴い斬新で、革新的なアイデアで大改革が起きています。遊技機の高騰も解決すべき問題ですが、今後は例えば業界内全体で部品の共有化を図るなど、業界ならではの対策も生き残っていくために必要ではないでしょうか。
──その中で豊丸産業に求められる役割とは何でしょうか?
角 当社の経営理念は、「我が社が創造するアミューズメントの力で、世界中の人々を笑顔にします」です。この理念を追い求めることが当社のミッションであり、長年お世話になった関係各位に対する感謝を表現することだと思っています。その上で、いかに”豊丸だからできる“イノベーションに積極的に取り組めるかが、業界再成長の一翼を担えるかの鍵になってくる。豊丸産業は、長年この業界に従事してきた企業ではありますが、現在のマーケットシェアから見ると脆弱さは否めません。ただ、業界再構築に向けた想いは、どのメーカーにも負けていません。会社の規模感ではなく、熱い想いを姿形に変える行動力で勝負に挑みたいと考えています。そこで5年前くらいから取り組んできたのが、大規模な組織改革です。そこから私も豊丸産業に携わることになりました。
──携わることになった経緯も含めて教えてください。
角 社長の永野とは30年来の付き合いで、名古屋青年会議所に有志のラグビーチームがあり、そこで出会いました。当時私は、家内が名古屋の老舗企業のオーナーの一人娘で、お義父さんに熱心に声をかけていただいて、その名古屋の老舗企業に入社することになりました。37歳で社長になり、20年間社長を務めた後、後進に譲りコンサルタントや講演のお仕事をしていました。その際、永野から、「今ちょうど若手社員を中心にしたプロジェクトを立ち上げようとしている。面倒を見てくれないか?」ということで、プロジェクトをサポートするカタチで豊丸産業に関わることになりました。当社が社内改革を起こすために動き始めた時期でした。それが2019年くらいからのことです。3カ月のお約束で参画して、その後「中に入ってやってくれないか?」ということで入社することになりました。
──具体的には何に取り組んだのでしょうか?
角 私はもともとメーカーにいたとは言え、工学部を出ているわけでもなく、大雑把なことは分かるにしても細かいことは分からない。私の得意分野は、組織論や人事なのでそこから改革を始めました。ちょうど、コロナの時期とも重なり、この会社規模では固定費も含めてどうにもならないので、大きくジャンプするためにも一度身を屈めましょうと話をしました。イノベーションは業界に限ったことではなく、新卒で入った鉄鋼業界も同じでした。1984年頃は未曾有の鉄鋼不況と言われて、経営多角化政策とその見直しが行われて大合理化が進められました。コスト削減のために、古い製鉄所における高炉の操業停止だけでなく、本社など管理部門の大量出向あるいは転籍・退職で約10万人いた社員が15年で2万人くらいまで減ったんです。大手企業も血を流して大改革をして、再生して新たな分野に進出して成功している。だから、豊丸産業も真剣に目指すところを定めて、役割を決めていかなければなりませんでした。
──改革を進めていく中で豊丸産業の現状をどのように感じておられますか?
角 まず大前提として、私は豊丸産業という会社は素晴らしいと感じているからここにいるということを理解してください。少しでも批判的に感じることがあれば、コンサルタントをしても中に入って改革をしたいとはならない。改革という言葉を聞くと、何かが悪いと捉えがちですが、これだけマーケットがシュリンクしてくると従来のやり方が通用しなくなってしまう。だからこそのイノベーションなわけで、批判的なところからの改革ではないわけです。その中でやっぱり時間をかけながら行っているのは、「新しい企業文化の創造」なんですよ。組織内での共通の価値観や認識、ルール、考え方など組織風土を変えるのはそんなに簡単なことではないですが、そこからしか企業は好転していかないですから、鋭意取り組んでいます。
──新しい企業文化の創造を図る上で大切にしたことは何でしたか?
角 まずは社是をどうやって体現するかを会社全体で根付かせたいと。どこの会社も理念はあると思いますが、今の時代それをどうやって体現するのか、それがすごく難しい。例えば、稚拙な話ですが、毎朝しっかり笑顔で挨拶しましょうよとか、自分の仕事の責任をそれぞれが果たしましょうということですよね。もともと私も社長もラグビーをしていましたけど、チームワークって一人ひとりが与えられた責務を果たすことなんです。目標を達成するために各々が自分の役割を理解するだけでなく、達成してこそ成立するわけです。また、リーダーシップもリーダーという役職に就いている人間が備える能力ではなく、仕事する全員が発揮すべきことだったりもします。定義が曖昧になっていたので、会社として言葉についても再度定義付けをして、意思決定プロセスなどのガバナンスも、もう一度見直すなどしました。
──イノベーションはカタチになりつつあるのでしょうか?
角 カタチになりつつあります。社内では定期的に商品協議会を行っていて、さまざまな提案が出てくるんですが、そこで若手社員から出てきたのが今度発表する、これまでに無かった新しいカテゴリー『超甘LT』という遊技機です。低投資・短時間遊技に加えて適度な射幸性が売りの機械で、大当たり確率は約1/33。以前「ちょいパチ」というカテゴリーがありましたが、当時は遊びやすくなった分射幸性が低く浸透しませんでした。『超甘LT』では当たりやすさと、現実的に約1万発の出玉に期待できる点で、ユーザーにもホール様にも価値を感じていただけると自負しています。世の中では”タイパ“という言葉がキーワードになっていますが、『超甘LT』は時代の流れにとてもマッチする遊技機だと考えています。また、豊丸産業がハイミドル機ではなく、これまでにないカテゴリーに挑戦することに価値があると。自社の強みを考えたときに、ホール様が豊丸に期待するのは、『餃子の王将』や『高須クリニック』のような特殊タイプだったりするわけですよね。そこで当社では当面、この『超甘LT』を一つの戦略として業界に浸透させられるよう、継続的に市場投入していくことになりました。
──年数をかけて豊丸産業の色にしていくということでしょうか?
角 色ということではなくてですね、また当社が独占できるコーナーを作りたいということでもないんですよ。業界が良くなるために、豊丸産業が起こせるイノベーションの一つが、この『超甘LT』だった場合に、とにかくユーザーにきちっと認めてもらえるようにそこは責任を持ってそのカテゴリーをリードしていきたいとは思っています。豊丸産業として、中長期な視点で取り組むべきものだと確信もしています。コーナー化を目指すのであれば、当社1社ではどうにもならないわけで、店舗内でシェアを取るには全メーカーの参入が必須なわけです。業界の再構築を図る上で新たな遊技性を持った遊技機が必要なことは変わりません。新たなカテゴリーの創造に企業としてチャレンジしていくことは重要だと考えています。社内で「スリースマイルチャレンジ」というプロジェクトをやっているのですが、ホールとユーザー、メーカーの3つのスマイルを作るためにチャレンジ精神を持って取り組んでいこうよと。物事ってやってみないと分からないわけで、チャレンジすることが組織としては良い体験になる。どんな優秀な企業でもすべて成功している会社なんてありませんから。だた、それでも成功させるために自分たちが決めたことは努力していきましょうと。そこが一番大事ではないでしょうか。
──最後に今後の抱負を教えてもらえますでしょうか?
角 この3、4年の間にさまざま実務的なところで改革という名のもとに進んできました。随分なリストラクチャリングもして、拠点も減らし、それから従業員数も大幅に減少させてしまった。ただ、これはこれからまた再成長していこうという中で、一旦V字回復するために縮小しましょうと。実際に規模を縮小したりだとか、仕事の手順を改めたりだとか、第1フェーズが終わって、これから第2フェーズとして、新しい企業文化をどう作っていくかというところ。そういう意味で当面は『超甘LT』に専念する予定です。豊丸産業は今年が設立から65年目。やはり企業としては、100年企業を目指して飛躍したい。老舗という自負は強く持ってます。

1961年4月29日生まれ。東京都出身。
目黒高校、明治大学、新日鐵釜石で11年間ラグビーに打ち込み、すべてのチームで「日本一」を経験。1983~1986年にかけて日本代表に選出される。1990年、チタカ・インターナショナル・フーズ株式会社に入社。1998年、同社の赤字経営からの脱却を使命に社長に就任。自ら現場に出向き社員と直接対話、ミーティングを重ねるなど、徹底したコミュニケーションをベースに組織風土の改革を行い業績の回復を実現する。後に、大きな構造転換を図るなど、ラグビーから学んだチーム創りを応用したユニークな経営で同社を牽引し続けた。2018年、社長職20年を節目として後任に継承。同年より自らの経験やノウハウをもとに、企業の組織改革や人財育成などのコンサルタント業務に従事していたが、2021年、豊丸産業株式会社に入社。同社専務取締役最高執行責任者COOに就任する
文=アミューズメントジャパン編集部
※月刊アミューズメントジャパン2025年4月号に掲載した記事を転載しました