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2018年05月07日
No.10000610

カジノ研究者の視点
カジノ入場料6千円の非合理性
国際カジノ研究所 所長 木曽 崇

4月3日、自民・公明の両党は我が国で合法化の検討が行われているカジノに関して、日本国民の施設利用に6千円の入場料を課すことなどを合意し、カジノ運営の具体的な施策内容を定めるIR実施法案を27日に国会へ提出した。

カジノ入場に対して入場料を賦課する施策は、2005年にカジノ合法化を決めたシンガポールで導入されている。シンガポールでは自国民のカジノ入場に際し、1日あたり100シンガポールドル(約8千円)、年間入場パスに2千シンガポールドル(約16万円)の支払いを求めている。我が国では、カジノ合法化検討当初から同国の制度を参考にしており、16年に成立したIR推進法の審議時にも法案提出議員から「我が国もシンガポールと同様の方向を目指して7千円から8千円程度の入場料を取るべき」とする答弁がなされていた。

一方、実は入場料をカジノ利用者に課す制度は世界的にみると稀な施策であり、特に消費者の入場を抑制するような「高額」入場料を課す施策は、シンガポール以外ではほぼ採用例がない。専門家の間では「施策効果に科学的根拠がない」という指摘はもとより「依存対策としてむしろ逆効果」とする意見も多い。

我が国においても政府に設置された有識者会合において同様の意見が主張され、その取りまとめでは「安易な入場抑止を図りつつ、日本人利用客等に過剰な負担とならない金額」が適当であるとの結論が出された。結果、政府は当初論議された8千円からその価額を大きく減じ、入場料を2千円とする方針を固めていた。

ところがこの政府案が与党、自民党・公明党に持ち込まれ政策審議にかけられた後に混迷が生ずることとなる。自民党は当初、政府案の2千円入場料を「了」としたものの、公明党が「IR推進法審議時の国会答弁を重視すべき」として8千円の維持にこだわった。早期法案提出を実現したい自民党はこの公明党の強硬姿勢に妥協せざるを得ず、いったんは5千円案を提示。しかし、それでも公明党が了承しないため、最終的にさらに価額を引き上げ6千円で両党合意に至った。

現在、与党両党は衆参両院において過半の議席を占めており、今回の合意によって日本のカジノに6千円の入場料が課されることがほぼ確実になったと言える。しかし、先述のとおり依存対策としての入場料の効果は未だ国際的に見ても科学的な論証がなされておらず、我が国においても有識者会合においていったんは否定された策である。それが政治的な駆け引きの中で再びズルズルと引き上げられる結果になったのは、まさに「科学が政治に負けた」ともいえる残念な結果である。


きそ・たかし
日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所入社。2011年、(株)国際カジノ研究所設立。


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