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2018年08月30日
No.10000790

YouTubeで訪日外国人をパチンコに

YouTubeで訪日外国人をパチンコに

YouTubeのユーザーは10億人。この世界最大の動画共有サイトを活用し、訪日外国人にパチンコやパチスロを打ってもらおうというチャンネルをアガルタが開設する。登録者数70万人以上をもつ海外の人気YouTuberを起用した画期的な試みに注目が集まっている。


ユーザー数10億人の
巨大動画共有サイト


YouTubeは、世界最大の動画共有サービス。Youは「あなた」、Tubeは「ブラウン管(テレビ)」に由来する。ビデオカメラと編集ソフトをインストールしたPCがあれば、誰もが番組を配信できるテレビのような存在だ。2005年スタートアップ企業として設立されたYouTubeは、翌年Googleが買収。現在世界で毎日1億人が視聴、総ユーザー数は10億人。年間40億ドルの潜在利益を上げる巨大なビジネスに成長した。

YouTubeはここ数年でホール業界でも、すっかりなじみ深い存在になった。人気があるライターや演者が出演する動画は、一つの番組で50万視聴を記録するものもあり、機種や店舗を紹介する媒体として欠かせないものになっている。

アガルタは今年、YouTubeを使い、訪日外国人をホールに誘引する事業を開始した。従来のパチンコ紹介番組と異なるのは、海外の人気YouTuberと契約し、日本でホールなどを取材してもらう点だ。

「彼らのチャンネルは、50万人~100万人という外国人視聴者を抱えています。さらに、この視聴者たちがSNSで情報を拡散。パチンコに関する情報を多くの国々で確実に伝えていくことができます」(アガルタ・服部実副社長)。協力先は、ホール企業や遊技機メーカー、組合・団体などを見込む。

長い間パチンコのインバウンド需要拡大に取り組んできたアガルタの服部副社長


怖いギャンブルという
イメージをまず変える


Webサイトや映画、アニメなどを通し、パチンコやパチスロの存在を知っている外国人は少なくない。アガルタも2010年に外国人向けパチンコポータルサイト「Pachinko-play.com」を開設している。しかし、ホールに足を運び実際に遊技する訪日外国人はそれほど増えてはいない。

「旅行代理店に依頼したアンケート調査によれば、パチンコをギャンブルと捉え、”怖い、入りにくい“というイメージをもつ外国人が多いんです」

訪日外国人に遊技してもらうための最初のハードルが予想以上に高いと服部副社長は話す。
「そこで、パチンコやパチスロの本当の面白さ、実際のホールが怖いギャンブル場ではなく、明るく快適な場所であることを伝えるために立ち上げたのが、海外人気YouTuberを起用した番組です」

ホール業界では数年前から、増え続ける訪日外国人をパチンコ・パチスロユーザーとして取り込もうという動きが活発になっている。いわゆるインバウンド需要の掘り起こしで、数か国語の遊び方ガイドを置いたり、英語や中国語を話せるスタッフ雇用したりする店舗も珍しくなくなってきたが、売上げの何%かを彼らが占めるようになったという話はまだ聞かない。

「昨年1年間で日本を訪れた外国人は2869万人で、2011年の5倍近くです。このうち、10人に1人とか20人に1人でもホールに立ち寄ってくれれば、業界にとってはかなりプラスになるはずなんです」(服部副社長)


SNSや動画に費やす
時間が長い海外のユーザー


アガルタは、遊び方を紹介する小冊子「Pachinko-Guide Book」を発行。12年には、韓国旅行関係者による「初めてのパチンコ体験ツアー」を実施した。インバウンド需要が高まる中、パチンコ・パチスロ業界と訪日外国人の橋渡し役を務めるために日本遊技関連事業協会(日遊協)にも加盟している。

アガルタは、こうした流れの中で、YouTubeの事業を推進するために、中国や東南アジアでIP(知的財産)ビジネスを展開、多くの実績をもつIT企業・AKATSUKIと業務提携している。同社は、日本の出版社やテレビ局の有名な作品を海外で映像化する際などの翻案に取り組んでいる企業で、最近では、「ヒカルの碁」を中国で実写ドラマ化(2019年公開予定)する仲介役を務めたことでも知られている。

「動画やSNSに費やす時間をイギリスのコンサルティング会社We Are Socialが調査したところ、韓国が1・1時間、中国が1・5時間、アメリカが1・7時間なのに対し、日本はわずか0・3時間です。東南アジアの国々でもベトナムが2・3時間、タイが2・9時間、フィリピンは突出していて3・7時間です。訪日客が増えているこれらの国々の人にパチンコの面白さを伝える上で、YouTubeがいかに有効な拡散ツールかお分かりいただけると思います」(AKATSUKI・熊谷拓也社長)

月に1回は仕事で訪中するというAKATSUKIの熊谷社長



情報操作をしないことが
信頼性の高さに繋がる


「ただし、インフルエンサー(視聴者に影響を与える人)であるYouTuberが感じたこと、思っていることをスポンサーサイトが都合の良いようにコントロールしないことが大切です」と熊谷社長は注意を促す。

「YouTubeの視聴者はウソや誤った情報に非常に敏感です。パチンコの場合、いつもたくさんの景品がもらえて楽しいと伝えるよりも、たまには負けて何ももらえないこともあると伝えた方が情報の信頼度が高まります。また、訪日外国人が入りやすく快適に遊べるような遊技環境を整えることが必要ですが、この点でもウソや誇張は絶対いけません」

例えば、店舗によってはタバコのニオイがきつかったり、通路幅が狭く遊技する際、窮屈だったりすることがある。こうした情報を隠したり、「遊技空間が快適だ」とミスリードするのではなく、ありのまま伝えることが大切だ。「その代わりスタッフが親切で、いろいろなアニメの機種が揃っている」といったポジティブな情報を伝えれば、逆に興味をもってもらえることもある。




インフルエンサーの情報に
正確さが求められる理由


Webサイトやブログなどのオウンドメディア(Owned Media゠自社所有メディア)は、誰でも簡単に公開できて、自由な意見が言える。新聞やテレビなど権威づけられた報道機関の対局にあるメディアだ。

YouTubeは動画を公開・共有するサイトであって、オウンドメディアではないが、登録者を募り、規約に反しない限り自由に映像表現ができる個々のチャンネルは、オウンドメディア的な性格をもつと言って良いだろう。しかし、ブログもYouTubeも広告手法の一つであるインフルエンサー・マーケティングとして活用するのであれば、信頼性を高めるために求められる責任や情報の正確さは、既存のマス・メディアと何ら変わりがない。

インフルエンサー・マーケティングが広告手法として盛んに使われるようになったのはブログが一般的になった2007年頃からと言われる。タレントや著名人(゠インフルエンサー)などが、ブログに「街でたまたま見つけたこの製品をとても気に入っている」といった書き込みをすると、製品の売れ行きが良くなることに企業が着目。ブロガーに広告費を支払って製品やサービスをさりげなく取り上げてもらうようになった。

しかし、こうした手法が使われるようになって10年以上たち、ネットユーザーの目もシビアになっている。その情報が本当かどうかは、検索エンジンを使えばある程度判断がつくし、ステマ(ステルス・マーケティング)という言葉も知られるようになった。企業が巧みに”宣伝くささ“を消しても、広告であることを察知するネットユーザーが増え、単純なインフルエンサー・マーケティングは、効果が薄れてきたと言われる。

では、インフルエンサー・マーケティングが下火になっているかというと、そうではなく、逆にニーズは一段と高まっている。YouTubeの場合、最初から演者が「企業案件(ある企業から宣伝のために依頼された動画)」と断っていたり、その製品やサービスに対しポジティブな意見ばかりでなく、公平な立場でネガティブな意見も言って、その改善策も提案していれば、その動画は信頼され、確かな宣伝効果が得られる。

マス・メディアの宣伝効果が低下したのは、新聞やテレビの権威が薄れてきたからばかりではない。情報の受け手が成熟し、本当に役に立つ情報を自ら見極めたい、何に価値があるかを自らの意思で選択したい、こんな風に思う人が増えてきたからにほかならない。YouTubeでパチンコ・パチスロを海外の人に訴求していく際も、実はここが最も重要なポイントになるのだ。


版権ビジネスが急成長する
中国の国産アニメーション


「パチンコやパチスロを訪日外国人に紹介する際、さまざまなアニメコンテンツとのタイアップ機の存在は大きなアピールポイントになる」とアガルタの服部副社長は言う。確かに、彼らが子供の時から慣れ親しんだアニメの世界観を遊技機で楽しめることは、それだけで大きな来店動機になるはずだ。

「ところがここ数年、中国では日本のアニメ文化にふれる機会が減る傾向にあります。このことは、近い将来アニメコンテンツとのタイアップ機が訪日中国人にとって来店動機にならなくなる可能性があるということです」(服部副社長)

中国で日本アニメに接する機会が減っている理由は、版権ビジネスの隆盛と、国産アニメの質の向上だ。かつて中国では、版権に対する意識が非常に薄く、日本のコミックやアニメの海賊版が堂々と売られていた。比較的安価に手に入るため、多くの若者・壮年層が「ドラゴンボール」や「NARUTO─ナルト─」といった日本の漫画を見ながら育った。

「最近は、版元と正規の契約を結び、版権に対し対価を払うことが中国でも当たり前になってきました。海賊版を放置していては、自らの版権ビジネスが成り立たないからです。こうした環境が急速に整い、質の高いオリジナルアニメの”開発“が盛んに行われるようになりました」(AKATUKI・熊谷社長)

バイドゥはGoogleに次ぐ世界第2位の検索エンジン。写真は北京にある本社ビル


中国のアニメ育成に投資をしているのは、配信サイトの大半を占めるテンセントやバイドゥ、EC最大手のアリババといった巨大IT企業だ。例えば、バイドゥが運営する「iQiyi」は昨年、中国の漫画家との契約や国産キャラクターの開発に2億元(32.5億円)を投じたという。政府もテレビのゴールデンタイム枠を国産アニメ用に確保しようと支援策を打ち出している。

 人気シリーズやキャラクターを開発すれば、テレビや映画、DVD、ゲーム、キャラクターグッズ、そしてテーマパークと版権ビジネスは大きく広がっていく。アニメに投資する中国企業のお手本は、ディズニーだ。中国では、2000年以降に生まれた若者は、消費に極めて意欲的だという。アニメ市場は20年には2160億元(約3.6兆円)規模に達すると予想される一大成長産業なのだ。




東南アジアの国々でも
日本アニメ離れが進む?


国産アニメで育った子供たちが成人して訪日しても、日本アニメのタイアップ機に関心を示さないのではないかという懸念は、他の東南アジアの国々に対して当てはまる。以前から日本のアニメ製作の多くを請け負っていた韓国をはじめ、タイ、マレーシア、台湾には、優秀なアニメスタジオが数多く存在し、ベトナムでもアニメ製作が始まりつつある。

技術的なレベルも非常に高く、国際的なアニメフェスティバルの短編部門で、東南アジアの国々の作品がグランプリや上位入賞を占めることも珍しくない。また、パチンコ・パチスロの演出映像の多くはタイで作られているが、このことを知っている人はホール業界関係者でも案外少ないのではないだろうか。

こうした国々で国産アニメの質が高まり、中国同様に版権ビジネスが盛んになれば、日本アニメを知らない層が拡大していくに違いない。クールジャパンの代名詞の一つとして、多くの外国人を魅了してきた日本のアニメだが、海外市場における立ち位置がいま大きく変わろうとしている。

訪日外国人の7割以上は、中国や東南アジアの国々の人たちが占める。アニメをはじめネットやアミューズメントといった市場が急速に成長している国々の人たちにパチンコ・パチスロの楽しさをアピールしていくのは、まさに今しかないとAKATSUKIの熊谷社長は言う。

「中国でも、日本のアニメ文化の洗礼を受けて育った層は、まだたくさんいます。彼らが、ホールに来て、日本アニメとのタイアップ機の楽しさを知り、国産アニメしか知らない世代に伝えていけば、将来にわたってインバウンド需要を確保することも可能です。アガルタのチャンネルもそうですが、YouTubeやSNSといった情報の伝達・拡散に優れた媒体を最大限に使いこなし、彼らが本当に欲しがっている情報を正確に伝えていくことが大切だと思います」


国内の遊技人口回復の
契機役としても期待


冒頭でアガルタの服部副社長が述べているように、インバウンド需要のパチンコ・パチスロへの取り込みは、まだ大きな実績を挙げているとは言い難い。それは、遊技機の楽しさを伝える以前に、訪日外国人にとっては「ホールに入りにくい」というイメージが強く、この根本的な阻害要因を排除する有効なノウハウが確立していないからだ。

「ホールの空きスペースに外国人専用の撮影スポットを設けたり、入店の動機付けをするための仕掛けづくりはいろいろと試してみる価値があるのではないでしょうか」(アガルタ・服部副社長)。

外国語の話せるスタッフを置いたり、携帯型の翻訳機を導入しても、店内の音がうるさくてうまく機能しないという話も聞く。一歩進んで遮音性の高い電話ボックスタイプのブースで、こうしたオペレーションを行えば訪日外国人の不安を解決することにもなるはずだ。

「業界に関わっている企業として、YouTubeを使ったインバウンド需要の掘り起こしはぜひ成功させたい。日本では、スポーツでも音楽や芸術でも海外で評価されることが国内での高評価に直結します。『パチンコは面白い』と思った海外の人たちのYouTubeの動画やTwitter、Facebookの投稿を見た日本人の間でパチンコがブームになって、減り続ける遊技人口が劇的に回復したらいいな、とも思います」(服部副社長)

「パチンコのインバウンド需要を拡大するならば今が絶好のタイミング」
と口を揃えるアガルタの服部副社長(右)とAKATSUKIの熊谷社長


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