No.10001413
ドミニク・カーター(The Carter Group代表取締役社長)
日本IR 成功のためのレシピ
マーケティングリサーチャーはどう見るか?
日本の統合型リゾートは海外から多くの訪問者を惹きつけることが期待されているが、それ以前に、国内の観光・レジャー需要を喚起する施設である必要がある。日本の消費者動向に詳しいドミニク・カーター氏は「若者世代の共感を得ることが重要」と説く。by Tsuyoshi Tanaka (Amusement Japan)
市場調査と戦略コンサルティング会社カーター・グループ(東京都)を率いる消費者分析の専門家であるドミニク・カーター氏は、現在の日本を取り巻くマクロトレンドとして「深刻な労働不足に直面」「女性の活躍がいまだ阻まれている」「世代間に利害の一致も対立もある」「国際化が進みつつある」の4つを挙げ、若者の大多数のマインドを「他のアジア諸国の人々と比べ保守的」と捉えている。
「しかし、多くの人が、『日本は活性化への道が必要』と感じている」とカーター氏は言う。
同社の調査によると、消費者の4人に1人は日本に誕生する統合型リゾート(IR)がもたらすエンターテインメントや経済効果に対して好意的で、楽しみにしている。関西地区居住者に限るとその割合は3人に1人に高まる。
全年代では、IR導入を支持している人が期待している効果は、「地域社会に恩恵をもたらす税収増」が最も多く、次いで「観光拡大による経済効果」「日本のエンタメ・レジャーの質的向上」「日本ではそこにしかない新しい体験と施設を楽しむ」「建設にともなう雇用増、経済活性」だった。
だが重要なのは、特に若い世代が共感できるIRであることだ。それが持続可能なIRを創る成功の鍵となる。令和時代の若い世代は保守的で、所有欲求が弱い。だが特別なレジャーには支出を惜しまない。その代表が「テーマパーク」で、レジャーに充てる予算の中で重視されていることが調査からわかっている。その点、IRという大型商業施設は、「レジャーのデスティネーションとしては若い世代に馴染みのある形」というのが、カーター氏の見解だ。
「いまの20代、30代を象徴するレジャー活動には、テーマパーク、スポーツ観戦、デジタルといった共通点がある。ただし今から6年~8年先に開業するIRは、若い世代の想像をはるかに上回る巨大なスケールでないと”最先端“ではない。そこでは、いまだ誰も考えつかなかったような、そこに行かなければ体験できないデジタル・エンターテインメント体験が大きな魅力になるはずです」(カーター氏)
もうひとつ忘れてはならないのが、女性の消費力と意思決定力の高まりだという。同社の調査では、日本IRの理解度は男性より女性のほうが高く、女性IR支持者は今後、IRに関する話題の先導役を担う可能性が高い。
カーター氏は、「デジタル」「女性の支持」のほかに、日本IRの成功に必要な要素として、「カルチヤー(食、アート、ファッション、ビジュアルやサウンドなど)」「グローバル(国内の利用者が日本を出ることなく世界とつながりを持てる日常からの脱出体験)」を挙げた。
ただし、現状では多くの人がIR導入を支持しておらず、特に、ギャンブル依存問題やマネーロンダリング、地域が騒々しくなってしまうといった社会的な負の影響を懸念している。これをふまえ、カーター氏は「誘致を表明している自治体および市場参入を目指すオペレーターは、市民の理解を得るために、この問題について詳細な説明をする必要がある」と指摘した。