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2020年06月24日
No.10001795

オオキ建築事務所 大木啓幹代表
「新常態への対応をいち早く」
ホール建築 コロナ後の指針

大木啓幹代表

昨年から今年にかけて2つの国際的な建築賞を受賞したオオキ建築事務所の代表で一級建築士の大木啓幹氏。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、建築の専門家としての知見をいち早く発信して注目を集めた。その大木代表にコロナ後のホールづくりの指針を聞いた。

──新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、遊技産業全体が大きなダメージを受けました。いまの状況をどう見ていますか?

この先2年ぐらいは様々な業種で新型コロナの影響を受け続けることは避けられません。当然、2年経って3年目から元に戻るかと言えば、完全に元には戻らないでしょう。とくにパチンコ関連では、休業要請が出た地域で休業しない店舗が連日メディアに取り上げられたことで、国民の業界に対するイメージが非常にネガティブになってしまいました。今後は業界全体でこのネガティブイメージを払拭するための努力が求められます。とはいえコロナ以前とはステージが変わったことを認識しなければなりません。新型コロナを契機とした人々の行動変容は、これからの新常態(=ニューノーマル)となります。コロナ前の「普通」の状態に戻すのではなく、「新常態」に対応した店舗をいち早く創り上げる必要があると思っています。

──コロナをめぐる報道では、パチンコホールが密閉空間であるというイメージが強調された面があります。

そもそも30年ほど前まで、日本のパチンコホールは開放的な店づくりをしていました。まだ覚えている方も多いと思いますが、店舗の入口の上に看板があって、ガラス張りの入口のドアはいつも開いていて、島の様子を外からうかがい知れるような設計でした。例えると、焼き鳥屋さんが店頭で焼き鳥を焼いて、美味しそうな香りにお客さんが寄ってくる、そんな感じで会社帰りにちょっと寄っていこうというお客さんを呼び込めた。当時はそれでよかったのです。店内が閉鎖的で、中で何やっているかわからないお店では通用しなかったと思います。

──それが閉鎖的になっていった理由は?

私は1978年から1981年まで、アメリカ・ロサンゼルスの大学で建築を学んでいて、よくラスベカスのカジノを見に行っていました。当時のラスベガスのカジノは開放的だった。室内は閉鎖的な部分もありましたが、『シーザーズパレス』や『ハラス』など当時有名だったカジノは、外観は完全に内部の雰囲気を表に出していたのでわかりやすかった。そんなカジノを従来とはまったく違う形にしたのが、スティーブ・ウインが手掛けたカジノホテルでした。1988年にオープンした『ミラージュ』にはじまり『トレジャー・アイランド』、『ベラージオ』などが大成功を収めました。1990年代に起こったこの変革は、世界中のゲーミング産業に大きな影響を与えました。

──その流れが日本にも及んできた?

私がラスベガスのカジノのトレンドを参考にして、外に対しては閉鎖的で内部は開放的なパチンコホールづくりにすべて変えていったのです。それがその後のパチンコホールのスタンダードになっていきました。店舗を大型化して、長い時間同じ環境で遊ぶスタイルです。長時間同じ環境にいることでプレイヤーは遊技に集中できる。結果として売上げも伸びていきました。一方で、それがいつしか外の世界との乖離を招いてしまい、パチンコをやらない人にとっては店内で何をしているのかわからない非常に密閉されたイメージになっていったのだと思います。


換気回数多いパチンコホール
密閉空間とは言えない


──そんななか、今回のコロナウイルス感染拡大を受けて大木代表が発信した「パチンコホールは密閉空間とは言えない」というメッセージが大きな反響を呼びました。

私は建築の専門家としてエビデンスを示しただけなのですが、各方面からの反響は大きかったですね。パチンコホールは圧倒的に喫煙率が高い空間なので、普通の施設よりかなり多めの換気回数を取らざるを得なかった。でもそれは一般の人にはなかなか理解してもらえないようでした。

──具体的にはどの程度換気をしているのですか?

パチンコ店の空調換気設備に関しては、建築基準法の換気設備の技術的基準で、遊技場床面積、遊技機設置台数、天井高の3点から法律上の換気量が定められていて、一人当たりの専有面積÷遊技場面積から算出されます。それを踏まえて、設計事務所がパチンコホールを設計する場合、来店客すべてを喫煙者とみなして、換気回数は1時間あたり6回から7回で計算して設備機器を設定しています。

──具体的な事例を教えてください。

私が最近設計したホールの事例では、遊技台数427台のA店(天井隠蔽型空調機と換気設備あり)は、新鮮な空気を取り込み、汚れた空気を排出するシンプルなタイプですが、必要法定換気量(約8550㎥/h)に対して設計換気量は2万8800㎥/hをとり、換気回数にすると1時間に6・29回の換気をしています。遊技台数560台のB店では、パッケージ型大型空調機と電気集塵機、全熱交換器、換気設備という高度な設備を備えて、外部の新鮮な空気を50%、全熱交換器を通して店舗内の空気を50%取り入れ、ともに電気集塵機で集塵を約90%取り除き店内に戻しています。このケースでは換気回数にすると1時間に5・35回ですが、高度な設備を施しているので実質的な換気回数は1時間に8回から10回に相当します。

──改正健康増進法施行でホールも原則屋内禁煙となりましたが、その場合はどうなりますか?

昨年末にオープンした遊技台数103 9台のC店は、天井カセット型空調機と外調型空調機、換気設備を備えました。全館禁煙でオープンすることを考慮して設計しましたが、それでも換気回数にすると1時間あたり4・39回になります。換気回数で言えばパチンコホールは密閉空間とは言えないレベル。例えば、ダイヤモンド・プリンセス号のようなクルーズ船では、室内換気回数は1時間あたり0・3回程度で、密室空間と言えるレベルに該当します。


台数設定は感染防止対策が前提
開放的で健康的なイメージへ


──パチンコ・パチスロ産業21世紀会が制作した新型コロナウイルス感染症の拡大予防ガイドラインでは、「遊技客の間隔を確保するため台間ボードの活用、または遊技台1台おきに電源を落とした間引き営業を実施する」などの指針が示されました。

もちろん、これらは緊急措置としては必要ですが、コロナ収束後を見据えれば早急にコロナ後の営業スタイルを見越して抜本的な対策を取る必要があると考えています。

──どんな手を打てばいいでしょうか?

応急措置はしょせん応急措置です。隣の遊技者との間隔を空けるために、1台おきに電源を落としたり、ベニヤを貼ったりという間引き対応は見るからにチープですし、日常的ではないですよね。したがって、まずは遊技台数削減も含めて島のレイアウトなどで閉鎖的だったところを大がかりに作り替えること。感染防止の観点からだけでなく、見るからに開放的な空間にして、店内が陰湿な感じではないことをもっと外にアピールできるようにする必要があります。台間はもちろん、通路の幅も今のままでは狭い。そうした思い切った対策にいち早く取り組むことが、ホールが、そして業界が存続していけるかどうかの大きなポイントだと思っています。人々の衛生に関する意識は大きく変わりました。何年か経てばコロナ以前に戻るという幻想は抱かない方がいいでしょう。既存のパチンコファンとパチンコをやらない人に対して、安心して遊んでもらえることのアピールが絶対に欠かせません。例えば、自店の換気方式を理解してきちんと説明できればすごく説得力がありますよね。さらに、そうした店舗の設備関係での対策や安全性を、店内で大きく掲示したりアナウンスしたりするなどしてアピールしていく必要があると思います。

──台間や島間が広がると、いままでのような賑わい感が犠牲になりませんか?

飛沫感染防止用の台間ボードを設置すれば、1台分の台間は必要ないと思います。2メートルのソーシャルディスタンスというのは、オープンな場所での距離ですから、飛沫感染防止対策をしっかりできれば、もう少し狭くてもいいでしょう。パチンコホールが休業要請を受けたのは飛沫感染の可能性があるからというだけ。しかもパチンコホールでクラスターは発生していません。理論的に詰めれば3密にはあたらないからです。とはいえ営業をしていくためには飛沫感染のリスクを少なくすることは重要です。パチンコ・パチスロは台に向かう遊び。対人の遊技ではないから、他の屋内レジャーと比べれば圧倒的に有利なはず。そういう意味では、賑わいをなくさずに、ある程度の距離で対応できると思います。

──新店の場合、設置台数を多くするためにはより大きなスペースが必要になりますか?

設置台数の選定基準は完全に変わるでしょう。これまでのように営業面積が決まっていて、そこにどれだけの台数を入れられるかという考え方を変えなくてはいけません。これからはまず感染リスクの少ない島づくりを前提として、その条件を満たす設置台数を考えていかなければならないでしょう。新規則機に入れ替える経過措置期間が延期されたようですが、であれば、かえって早めに島構成を変えるような方策をとって、この機会にできるだけホールを健康的なイメージに変えていくことが重要だと思います。

──これまでのイメージとは正反対にしなくてはいけないわけですね。

新型コロナが沈静化しても、パチンコをやらない人たちにとっては行く必要のない施設です。これまでパチンコで遊んでいた人もコロナ禍で離れてしまっています。ワクチンができて新型コロナの感染が収束するまではまだ相当時間がかかると思いますが、その間に今回の一連の報道で充満してしまったパチンコホールに対する密室というイメージを、開放的で健康的なイメージに変えなければいけない。そういうことをやっていけば、今後同じようなことがあってもパチンコがやり玉にあがることは少なくなると思います。


手洗所の多さは大きなポイント
景品交換はセルフ化の流れに


──衛生面では、大木代表は以前からホールのトイレや手洗所について警鐘を鳴らしてきました。

以前調査したときに、ホールの利用者のうち男性でトイレに行った後で手を洗う人は3割程度だったのです。トイレに行った後に手を洗わずにハンドル握って、そのハンドルを次の人が握るというのは、女性客などからしてみれば嫌なこと。問題は、便器の数に比べて手洗所の数が圧倒的に少なかったことにもありました。トイレに行ったときに並んでまで手を洗うのは嫌だという人もいるんです。そこで私は、トイレをアミューズメント化しましょうと言ってきました。手洗所を増やしたり、キレイにしたり、トイレを出たところにも手洗所を作ったり、手洗いするシーンをできるだけ多くしてきたのです。多分、コロナ後の新常態では、手洗所を多くすることがすごく大きなポイントになってくると思います。動線のなかにうまく手洗所を置いたりすることも有効です。当然、今回のコロナ禍で指摘されたハンドドライヤーは、飛散を招くので今後は使わない方向になるでしょう。

──他にも新常態で必要とされることはありますか?

景品カウンターのあり方も変えていく必要があるでしょう。最近一部で見られるようになった景品交換のセルフ化がスタンダードになっていくのではないでしょうか。私は数年前にセルフ化を前提としたカウンターを備えた店舗を作りました。それはお客様だけでなく従業員の感染リスク低減にもつながるものです。当面は飛沫感染防止のシートを設置したり、シールドを着用したりするのも一つの手ですが、早いうちにセルフ化の流れが加速すると思います。

──新店をつくる際にはそういうシーンを想定しなければなりませんね。

小手先のやり方だけでは追いついてこれなくなる店が出てくるでしょう。コロナ後は以前より圧倒的に客数が減ることが予想されます。自店の稼働率を上げようと考えるなら、ある程度抜本的な手を打っていかないといけない。飲食店なども同様ですが、新常態でいまのままの店舗をそのまま使っていくのは無理がある。いまあるものを改造して営業すると、賑わいがなくなるなどいろんな問題が出てくる。以前のものを新しい習慣に合わせようとしても限界があるのです。


安全性をしっかり伝えて
来店客と従業員に安心を


──新型コロナの陰に隠れてしまいましたが、4月からホールも原則屋内禁煙になりました。

コロナがなければ新規顧客を取り込む絶好のチャンスでした。それが、いまのままでは怖くて高齢者が入れないという状況になってしまった。60歳以上の高齢者やその家族は心理的に人が集まる場所に対して恐怖心を持っています。家族から「パチンコなら行っていいよ」と言われるような方向に、いち早く持っていかなければなりません。そのためにも分煙化をしっかりやって、新常態にいち早く対応することが急務です。一人住まいの高齢者が多い地方では、パチンコホールが多くの高齢者が集う地域のコミュニティーとして大事な役割を担っていることが、今回のコロナ禍で改めてわかったと思います。そういう意味では、パチンコホールの役割がもっと評価されてもいいはず。環境面の安全性をしっかり伝えることで、来店客も従業員も安心できるホールをぜひつくっていただきたいと思います。


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