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2020年07月03日
No.10001810

[インタビュー]
外出自粛要請時に来店した遊技客は依存症か? ~業界は検証し次に備えるべき
西村直之 氏(リカバリーサポート・ネットワーク 代表理事・精神科医)

西村直之 氏(リカバリーサポート・ネットワーク 代表理事・精神科医)

政府が国民に不要不急の外出を自粛するよう要請し、ホールを含む商業施設には休業を要請した。その中で営業を続けた一部のホールがメディアに批判的に取り上げられた。同時に、ネット上では感染の不安が広がっている状況下でホールに通う人を「依存症」と表現する投稿も見られた。専門家はこれをどう見たのか。リカバリーサポート・ネットワークの西村直之代表に話を聞いた。〔文中敬称略〕

──不要不急の外出の自粛が求められている時期に来店していたプレイヤーを『ギャンブル依存症』と評した識者の見解を報じたメディアをどう思いましたか?

西村 休業要請に応じなかったホールに朝から列を作った人たちを、あたかも遊技参加者の一般的な姿のように報道し、さらには”ギャンブル依存症という病気“だと根拠なく語った専門家を自称する人や報道機関の情報流布は次元が低く、ひどいものだと感じています。あの人たちが、医学的な意味での『ギャンブリング障害』である可能性が高いかどうかは、調査が行われていないため「わからない」としか言いようがありません。どの程度の人たちが、やめられないから来店したのか、やめる気がなくて来店したのか、その詳細がわかりません。医学的評価は、実際に調査、そして診察がなされていない事柄について軽々に行うことは許されません。ほとんどのホールが休業要請に応じ、ほとんどの遊技者は自粛要請に従っていました。例外的な環境に登場した、全遊技者の中ではごくわずかな例外的な人たちを分析するには、それ相応の慎重さと注意が必要です。

ストレス対処行動かもしれない

──しかし報道を見た人たちは、「正常な行動ではない」という印象を受けたと思います。

西村 人には、社会的な不安が高くなると、非常時以前からの行動や習慣を継続することで安心を得ようとするストレス対処行動をとる習性があります。社会的なサポートが少ない人たちや不安に対して対処が上手でない人たちでは、その傾向が強く認められます。あの時、ホールに行っていた人たちの行動は、「依存症」や「障害」という精神の障害という視点よりも、現在や先行きへの不安に対する心理的な自己防衛反応や心のもがきの一部として理解したほうが良いと思います。また、家族での同居時間が長くなり、そのストレスからの逃避先(DVや虐待などの暴力が存在している場合や家庭内でストレスが多い場合)として、それまでパチンコホールを利用してきた人たちの中には、心のバランスを保つために以前通りにパチンコを続けようとした人がいたかもしれません。

──社会から自粛を要請されている状況でそれを守らず、守れず、ホールに行く人の行動は、「問題ギャンブリング」の状態と言えますか?

西村 もしも、同居家族からパチンコホールに行くことを止められて口論になったとか、嘘をついてパチンコホールに行ったとしたら、問題ギャンブリングの疑いがあると言えるかもしれません。しかし今回の状況で、「不要不急の外出を控えてほしい」という社会からの要請に従わないことは、医学的な診断基準の範疇には入らない問題です。社会的な要請や同調圧力に従うかどうかということと、精神医学的な判断は全く異なる次元の問題です。また、パチンコホールが新型コロナウイルスに感染するリスクが高い危険な場所と明確になっていたわけでもありません。メディアや識者が、外出自粛を要請されていた状況でホールに行った人たちを、根拠なしに「ギャンブル依存症」と表現したとしたら、それはその人たちを異常者扱いしているも同然で、偏見を助長する無神経な言動だと思います。

──あの状況で来店し続けた顧客に対して、ホールは、「過度ののめり込み」を疑って注意を払う必要はないのですか?

西村 多くの人が外出を控えている時期に来店しているお客さんを、「過度ののめり込み」の状態と疑うべきなのかというと、先に説明した通り、それだけで過度ののめり込みを疑うことはできません。ただし、パチンコホールのスタッフは、このお客さんの遊び方に注意を払う必要があります。「感染の心配がある現実に戻りたくない」という心理でパチンコホールに通っている人の中には、普段よりも遊技時間が長くなったり、予算の上限を超えていたり、要するにブレーキが効きにくくなっている状態の人がいる可能性があるからです。そして、新型コロナ禍が去っても、その危険な遊び方が修正できなくなっているお客さんがいるかもしれません。今こそ、「以前の遊び方と違うな」と感じたら、「気を付けてください」と声をかけるべきタイミングだと思います。



いま業界は「検証」に取り組むべき

──業界や遊技客への批判は今後も起こると思います。いま業界がすべきことは何だと思いますか?

西村 パチンコホールはクラスター発生の場所になっていないにもかかわらず危険な場所と名指しされたり、休業要請に応じない店舗名が公開されたりなど、風当たりが強かった。業界はこれをうやむやにせず、何が課題だったのか、なぜクラスターは発生しなかったのか等を検証するべきだと思います。パチンコ・パチスロプレイヤーの意識や行動も追跡調査すべきです。冒頭で、「休業要請に従わずに営業していたパチンコホールに並んでいるからといってギャンブル依存症とは言えない」と説明しましたが、それは根拠がないからです。実際は、問題がある人たちが多かったかもしれません。ですから、新型コロナウイルス感染の不安が高まった状態で、来店を控えたプレイヤーと、従来通り来店していたプレイヤーそれぞれに対して、現在の遊技頻度や遊技時間、予算といった遊び方の変化をきちんと調べて検証するべきです。これはプレイヤーを守るためにも、業界として批判に反論するためにも必要なことです。世間には、「パチンコ・パチスロ客は、特別給付金の10万円が振り込まれたら、すぐにパチンコ・パチスロに使ってしまう」と言う人もいました。きちんとした調査データがなければ、そういった批判に反論できないのです。

──プレイヤーの行動がどう変わったかの把握は業界としても必要だと思います。

西村 個人的には営業再開からしばらくたっても、客足はすぐには戻らないだろうと思っています。それまでさまざまな原因によって過度にパチンコ・パチスロにのめり込んでいた人たちの中には、別のストレス対処方法を見つけた人が相当数いるはずです。医学的な見地から言えば、ストレス対処方法が多様化することは当人にとって良いこと、健全なことです。ただ、それによってパチンコ・パチスロの頻度が減るのと、やめてしまうのは、業界にとっては大きな違いになります。ほどほどの頻度で長く付き合ってもらえることが、これからの業界にとっては大切だと思います。どうしたら低頻度でも継続的に来てもらえるかを真剣に考える必要があります。今後は、ヘビーユーザーへの訴求よりも、ライトユーザーに向けて「ライトユーザーがどう楽しんでいるか」を発信していくことがより重要になると思います。


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