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2020年11月27日
No.10002026

スペシャル対談
大木啓幹 × 鶴田一「これからのホール建築を語ろう」

大木啓幹氏(オオキ建築事務所 代表) 鶴田 一氏(NRC 一 級建築士事務所 代表)

新型コロナウイルスがもたらした社会の変化はパチンコホールにも影響を与えている。これからのホールづくりにはどんな視点が必要なのか。ホール建築の王道を示し続けてきた大木啓幹氏と、進取のデザインで変革を提案し続けてきた鶴田一氏。ともに一級建築士の資格を持つふたりが、これからのホール建築について語り合った。


──今日はコロナ禍を受けたニューノーマルのなかで、今後のホール建築がどんな方向に向かうのかを、お互いにシンパシーを感じ合っているおふたりに語り合っていただきたいと思います。

鶴田 3月初旬に大木先生が「パチンコホールは密閉空間に当たらない」と発信されたのはインパクトが大きかったですね。先日も換気映像実証実験の映像が公開され、マスコミでも報道されていました。

大木 スイスの設計事務所で働いている息子から1月に連絡があって、ヨーロッパでは古い建物をリノベーションして使っているので換気があまりよくないということだった。教会などの集会所も多く、それでいてマスクを付ける習慣もない。だから飛沫感染の危険性が指摘される前に、あっという間に感染が拡大してしまった。そこで、改めてパチンコホールの換気能力を調べたところ、たばこの煙の処理のために建築基準法の換気量よりも設定を多くしていて、1時間に6回程度換気されていることを改めて確認しました。一方で、テレビで建築の専門家ではない人がホールは3密だと話をしている。そこで、自分が言わないといけないと思ったわけです。

鶴田 今回、コロナ禍の初期からホールが密閉空間ではないというエビデンスを先生から発信していただいて、ホールが3密に当たらないということが少しずつ世の中に浸透していった。強い発信力を持つことの重要性を感じました。

大木 密閉空間と誤解されてしまう理由は、お店の中で何をやっているかわからない店づくりになってしまったことにも原因がある。外に閉鎖的で中は開放的というのは、一面では良いんだけど、社会の中で異質なものになってしまった気がする。あの閉じられた空間で何をやっているんだろうと。

鶴田 自分はこれまで、かなり異質なホールを作ってきました(笑)。でも、いままでのホールの概念と異なるデザインを受け入れてくださるオーナー様はなかなかいません。建築物が地域とどうつながりをもっていくか、そのための店舗とはどういうものか。それはオーナー様にそういう視点に共感していただけなければ作れません。

大木 その場所にそぐわない建物は地域の人たちから共感を得られないということだよね。建築だけではなく、社会と共生していくという部分がパチンコ店にないと、今回のようにイメージ先行で誤解されることになってしまう。ホールでは災害時に駐車場を開放するなど、良いこともたくさんやっている。それなのに、そういうときのニュースでは「パチンコ店」ではなく「遊技場」が駐車場を開放と使い分けられてしまう。そうならないためにも、もっと地域に根差して、非常時だけでなく普段でもコミュニティの場として使われている入りやすい場所だという印象を与える必要がある。

鶴田 地域への貢献といった部分はこれまでマスコミにもあまり取り上げられてこなかった。知られていないからしょうがないではなく、やはり今後は発信していくということが重要で、そこを建築で何ができるか。私自身、時代の変化を感じています。私もそうですが、とくに若い人はYouTubeやSNSがメインでテレビは基本見ない。そうであればそういう要素を取り入れながら、建築も含めてパチンコ店の存在意義を発信していくことが大事なのかなと。

大木 コロナで変わった社会は、いずれまたもとに戻る。「新しい生活様式」は避難生活みたいなもの。そこの見極めが今後のホールづくりにとって大事だと思う。とくに一度ホールから離れた高齢者をどうやってお店に戻すかは一番大きな問題。パチンコホールの重要な要素であるコミュニティとしての要素が特に地方では大きい。若い人の雇用の受け皿にもなっている。そういうパチンコがもたらしている良い部分をもっと形にして表していかなくてはならないでしょう。

──ソーシャルディスタンスの意識が高まっている中で、限られたスペースに多くの遊技機を設置することについてはどう思われますか?

鶴田 設置台数を押し出して集客する時代ではなくなっていくのではないか。対人ではなく非接触でという流れの中で、景品カウンターもセルフ化が広がっている。スタッフもお客様に声をかけづらくなっている。そうした環境変化に対応するためには、着眼点を変えていく必要がある。従来のように、遊技機の魅力や広告で情報を発信していく組織的なものから、たとえばSNSでフォロワーが多い店長やスタッフのいる店に行くなど、「個」の重要性に流れが変化しています。

大木 1年後ぐらいには管理遊技機やメダルレスパチスロが出てくると言われていて、将来的には「島」という概念がなくなることも考えなくてはいけない。そういう意味では、コロナと共存している「いまのこの状況だけ」のための店づくりをすると間違ってしまいます。コロナが収束し、管理遊技機のような、1つの台で完結する遊技機が出てきたときにどういう姿になるのか。玉やメダルの補給機が登場してから、呼出しランプや椅子の高さは数十年変わっていないんです。設備ありきでそれに当てはめるようにさまざまなものが設計されてはいないか。例えば、カジノのような立ち椅子のほうが身体に楽なのかもしれない。台間も広ければいいというものではない。いま生活様式が変わった中で、昔の距離感がいいのか、もっと効率的な距離感がいいのか。これから成功する店づくりはそこがポイントになると思います。

鶴田 さまざまな店舗を設計してきた中で、「ここにもう1台入る」と言われた経験が何度かあります。その1台に何の意味があるのだろうとよく疑問に思った。もっと空間的に面白くなる作り方というのがあるし、広いということが面白さを生む場合もあるでしょう。島自体も、「台間が150ミリ、島間が2500ミリ」という話ではなくなってくるでしょう。海外のゲーミング施設に行くと、ゲーミングテーブルの配置、スロットマシンの配置など、一定の法則はあるのでしょうが、バラエティに富んでいて、その中を歩いているだけで楽しいなと思える。一方でいまのパチンコホールは、中央通路があり、こちらはパチンコ、こちらはパチスロと決まりすぎているところがある。島の概念や通路、台間の概念を一旦白紙に戻して、今の時代に合った要素を混ぜ合わせ、その中で最適な店づくりをしていくことが必要になるでしょう。

大木 将来的にはキャッシュレスということも考えられる。パチンコはもう、過去を引きずらなくてもいいんじゃないかな。

豊かさの価値観は絶対に変わる。
新しい遊び方とか時間の使い方を
いち早く提案してあげた方がいい
(大木氏)


──これからのホールづくりにおいて、高齢者と若年層のどちらをターゲットにするべきでしょうか?

大木 両方大事ですよね。スティーブ・ウィンがラスベガスに、革新的なカジノホテルと称賛された「ミラージュ」を作ったとき、それまで”カジノの街“だったラスベガスを、若者からお年寄りまでが遊べる街へと劇的に変えた。パチンコホールも、これまでの流れの中で何かしようと思っても無理だと思う。鶴田さんの言う、新しい世代の取り込み、それから、孤立化していっている老人のコミュニティとしての場。その両方があればいい。そうなっていかないと客数は増えないから。「あの店は若い子から年寄りまですごくうまく集客している」という店舗がつくれればいいし、それはやれると思う。

鶴田 いまは50代の人より20代の人のほうが遊びに使えるお金が多いという現実もあります。ただ、若年層の割合はまだまだ少ないので、今後この層は増やしていけると思う。

大木 かつてはどこの駅にも駅前にパチンコ店があって、パチンコが生活の中にあった。それがずっとうまい具合に続いていたのに、あるときから非常にコアな人たちの遊びになり、ホールは超売上至上主義になっていってしまった。いまでもその一時期のバブルな感覚が抜けずに、成功体験から離れられなくなっているお店が苦戦している。もちろん、成功するなと言っているわけではなくて、成功するためのやり方、物事の捉え方を変えていく必要があるということ。

鶴田 大木先生がおっしゃる成功体験については、ぼくもいろいろなオーナー様とお話している中で感じることがあります。ではどうするかというと、例えば若者のほうが50代の人よりもお小遣いを持っていますよといったエビデンスやデータをお見せしてプレゼンするようにしています。ぼく自身のやり方を変えて、オーナーさんの視野が広がる提案をする。それが業界全体に広まれば、いろんなところが変わる。建築だけでやれることは限られています。さまざまな業種から良いところを吸収して取り入れていかなければならない時期にきている。

大木 面白い例が寿司屋です。寿司屋では長年、対面で握った寿司をカウンターで提供してきたけど、あるときから突然、寿司をレーンに流すお店が出てきた。すごい発想の転換だよね。今では子どもからお年寄りまでが回転寿司店に押し寄せている。異業種でどんなイノベーションが起きているかを考えれば、自分たちが何をしなければならないのかに気付ける。建築も営業方法も含めてね。

──最近では郊外に1000台クラスの大型店を出店することが成功パターンになっています。一方で駅前の中小店舗は撤退してます。異業種とのコラボなどで提案はありますか?

大木 いまの駅前店は数十年前とまったく同じ。すごいと言えばすごいんですが、本来もっとドラマチックでストーリー性のある店づくりでもいい。例えば、人の流れをそのままお店に入れ込めるように通り抜けできるフリースペースにしてもいい。都市計画をする際にもまず道を作る。パチンコ店もそれくらいのことをして、人が集まる仕組みを作ればいい。思い切ってやればまだまだ駅前型はいけますよ。

鶴田 駅前型の発想として都市再開発というのはいいですね。街自体を変えていく。その中で呼び水となる旗艦店があってもいい。そこで利益をとるというよりは、他店のための呼び水として、その店のつくり方を考える。新しいパチンコ店というと陳腐に聞こえますが、今までにないようなパチンコ店に変える。そこでは台数を何台入れられるということに価値を求めず、パチンコってこういう面白いものなんだという情報発信の場にする。そういう業界全体に貢献できるお店づくりができればいいですね。

大木 以前にあるオーナーさんから、「大木さん、10億円までなら失敗してもいい。会社への影響は最小限で済む。それより新しい経験を残すことのほうが大事だから」と言われたことがあります。結局トントンになって、今は利益がとれるようになっていますが、それぐらいの気持ちがあれば思い切ったことができるよね。

鶴田 都市計画を作るという視点で言えば、設計者や建築家がいて、デザイナー、クリエイターがいて、グラフィックデザイナーがいてというような構成で、業態が複合化するだけではなく、作り手側もいろんな才能を持った人たちを集めて、チームで新しいものを作っていくべきだと思う。大木先生が言われたように、最初に寿司を回した人は「こんなにコストをかけて、できるわけがない」と笑われたかもしれません。でも、そういうことを今後この業界においてもやっていく時期かもしれません。


業態が複合化するだけではなく
作り手側もいろんな才能を持った人たちを集めて
チームで新しいものを作っていくべき。
(鶴田氏)


──ブランディングという視点で業界のあり方についてどう思われますか?

大木 ブランディングは時間がかかるし、無駄なことをやり続けなくてはいけない。お金を使わないとできないことです。当然、批判があったりもする。でもそれが後から印象として残っていく。大事なのはソフトで、ハードにしか価値を見出していないとブランディングになりません。そこが業界に足りない部分じゃないかな。台風の際に九州で駐車場を開放するなら、事前にチラシでお知らせするなどもっと自分たちからPRしてもいい。そういうことにお金や時間を使うのはもったいないと思うかもしないけど、数年後の業界のイメージを変えるつもりで取り組んでほしい。

鶴田 ブランディングは目に見えないもの。例えば、グッチを知らない人に「この(グッチの)カバンは100万円です」と言っても買う人はいない。それを100万円の価値にするためには、目に見えない価値を積み上げていくという作業が必要です。これは業界全体でも企業体のブランディングでも同じ。その企業体がブランディングしていくことによって、業界全体のブランド価値も上がります。

──おふたりとも国際的な建築賞を受賞されています。受賞作品はパチンコホールとは思えない建物ですが、それもブランディングですか?

大木 もちろんです。でもそれは施主さんの理解があるからできること。それが集客につながるかどうかの前に、自分たちの個性を出せるように作らせてもらえた。芸術家の場合はパトロンという形で芸術家を育ててくれる人がいる。でも建築家の自己満足の世界を少しでも体現させてくれるオーナーさんと出会えることは、大変なことなんです。

鶴田 ぼくの場合はコンペが多いんですが、記憶に残っているのは四国の店舗のコンペで、自分が2組目で、提案書を見せたら「あ、これでいい」と採用していただき、後のコンペティターのプレゼンをキャンセルしてしまった。旗艦店としてブランド構築のためにはコストがかかってもかまわないと会社の未来を一緒に共有していただけた瞬間でした。自社のブランドを作っていく体験をその店舗で実現したいという思いがあったのでしょう。

大木 ブランディングというのはそういう部分が大きいと思うよ。

鶴田 地域の人たちを大事にしているホールさんにとって、地域の方にどんな印象が残るのかも大事ですね。

大木 従業員さんが「こんなお店で働ける」と誇りを持ってもらえることにもつながるからね。

──コロナ後を見据えて建築家としてこうしたいという思いはありますか?

大木 コロナで人々は多様な生き方を求められた。多くの人が、朝起きて満員電車に乗って会社に行って、定時になったら帰ってという決まったパターンの生活が全部崩れた。お前たち好きなように働いてみろと言われたわけです。これはこの後の生活パターンの中では大きい。GO TOトラベルキャンペーンでは、ぼくの知っている旅館も全部満室。多分、いままで行ったことがないけど得だから行ったという人が多くて、そういう人はこういう世界もあるんだなという新しい発見をしたはず。生きていくうえでの豊かさの価値観は絶対に変わると思う。ホールも以前の日常とは違う新しい遊び方や時間の使い方をいち早く提案してあげた方がいい。

鶴田 結局今考えると、自分自身も既存の枠組内でしか設計・デザインができていなかったのではないか。昨今はネットで検索したデザインを施主様から渡されて「このイメージにしてほしい」と言われることが多くある。いままでのように施主様のイメージを言葉で聞いて、自分の頭で想像して、スケッチを描いて、パースを作成して提案するという一連の流れが意味を持たなくなっている。建築家としての存在価値自体もイノベーションしていかなくてはいけない時代になったと認識しています。

大木 鶴田さんもぼくも、根底にあるのは一級建築士というプライド。変わった提案をするんだけど、その根底には古典的で基礎的な建築の知識がある。

鶴田 建築士としての深い経験や実績があるなかで、そこに何を足して新しい別のものを作っていくかですね。

大木 鶴田さんの頭の中にある未来のパチンコのデザインとぼくのとは全然違う。どっちが正しいということはまったくなく、これはもう仕方がない。ようは、こういう変わろうとして頑張る人がたくさんいて、みんながそれぞれ違うということが業界の裾野を広げる大きな力になる。「こんなのあり?」みたいなデザインが欲しいよね。世の中が変わっていく状況のときだからこそ、オーナーさんも含めて、ちょっと変わっちゃおうよと(笑)。



おおき・ひろもと
株式会社オオキ建築事務所 代表取締役 一級建築士。国内外400カ所を超える大型複合施設、パチンコホール、ホテル、スパリゾート、住宅等の建築設計の実績を持つ。海外ではカジノ・ゲーミング施設等の建築デザインも手がけている。
2019年The Architecture Masterprize(アメリカ)商業建築部門賞受賞。
2020年A’Design Award & Competition(イタリア)BRONZE賞受賞。

つるた・はじめ
株式会社NRC一級建築士事務所 代表取締役 一級建築士。米国オレゴン大学建築学部卒業。2008年にNRC一級建築士事務所設立。2016年東京工業大学 環境・社会理工学院建築学系都市・環境博士課程で都市計画学、IR(統合型リゾート)研究に従事。
<受賞歴>
全国優秀住宅デザイン賞(日本)
JCDデザインアワード(日本)
American Architecture Prize(アメリカ)
JERCOリフォームデザイン全国優秀賞(日本)
K-Design Finalist(韓国)
The Architecture Masterprize(アメリカ)
The Outstanding Property Award Lomdon(イギリス)
A’Design Award & Competition BRONZE賞(イタリア)
ほか。


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