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【特集】萌芽するポーカー人気
勝負の世界で勝つことが楽しい
INTERVIEW
プロポーカープレイヤー
堀内正人
堀内正人さんは、カジノで日々行われるテキサスホールデムで生計を立てるプロのポーカープレイヤーだ。コロナ禍でカジノが閉鎖される2020年初頭まで、ウィン・マカオを拠点に活動。日本プロ麻雀連盟の第27期十段位を獲得した元・麻雀プロとしても知られている。【文中敬称略】文・写真=石川 桂(本誌)
──これまでの略歴を教えてください。
堀内 僕は警察官になろうと思って専門学校を卒業したんですけど、新卒で入社したのは雀荘でした。麻雀との出会いは家族麻雀。小学2年生のころからルールを覚え始めて、高校生になってもだいたい月に1回くらいのペースで遊んでいました。雀荘に勤めてからはもっと強くなりたいとプロを志し、20歳のときに試験に合格。小島武夫プロで有名な、最も大所帯の日本プロ麻雀連盟に所属しました。その後は麻雀プロを9年間続けて、30歳を機にテキサスホールデムを始めるようになりました。マカオにいたのは2016年から20年初頭まで。カジノの近くに部屋を借りて滞在していました。コロナ禍でカジノが閉じてしまったので、いまは一時帰国中です。現在はYouTuberとしても活動しています。
──なぜ麻雀からポーカーに転向したのですか。
堀内 ひと言で表すなら収入の不安ですね。麻雀プロの団体は企業ではないので、所属しているだけで給料がもらえるわけではありません。むしろプロたちが団体に会費を納めている。麻雀で稼ぐ方法は大会で優勝することですが、その賞金も一番大きなタイトル戦で100万円前後。1勝したところで、生活できる金額ではありません。その1勝を手にする確率も、仮に1000人が参加したら1000分の1。収入の当てにはできません。麻雀プロは2000人くらいいますが、大会の賞金や各種イベントのゲスト出演料、雀荘での就業で生活できている麻雀専業プロはおよそ半数。残りは兼業プロとして麻雀とは関係のない一般企業に勤めています。僕は20代のころ、麻雀が本当に大好きでもっと強くなりたい、もっと普及させたいと情熱をもっていましたが、30代を前にして、専業プロとして優勝を目指すことに不安を覚えるようになりました。
──ポーカーのほうが稼げますか。
堀内 テキサスホールデムは麻雀と同じ不完全情報ゲームで、ゲーム性が近いということを知っていました。そして勝ったときの見返りが非常に大きいということも。麻雀プロの中にはポーカーに関心をもつ人も多く、特に日本プロ麻雀協会に所属する小倉孝さんの活躍は非常に有名です。小倉さんがテキサスホールデムのトーナメントで得た生涯獲得賞金は、日本国内3位の1億8000万円。麻雀の世界では3回優勝すれば大ベテランといわれますが、それでも賞金総額は300万円程度なのでケタがまるで違います。Webサイトで賞金ランキングを調べると、現在1位の方の獲得賞金は5600万ドルで60億円以上。大会の参加費用や渡航費、滞在費などの差し引きはありますが、強くなればとんでもなく大きな夢があります。東大卒のポーカープレイヤー・木原直哉さんの活躍も有名ですよね。
──テキサスホールデムの魅力をどのように感じていますか。
堀内 ルールが世界共通なのでカジノがある国であれば、世界中のどこへでも旅ができるところですね。僕は外国語が得意ではありませんが、テーブルに着けば誰とでも平等にプレイできる。国籍も社会的な地位もまったく関係ありません。ゲームとしては、相手によって戦略を変えなければいけないところ。そしてそれを乗り越えて勝つことが楽しいです。相手の仕草や賭け方から心理戦を制する駆け引きは醍醐味ですね。
悪戦苦闘のポーカーライフ
──テキサスホールデムを始めた当初は、どのような感じでしたか。
堀内 最初は麻雀関係の仲間内で、遊びながらゲームに慣れていきました。全員が不完全情報ゲームを得意としていたので、飲み込みや強くなるスピードは、比較的早かったと思います。仲間の中から、海外のカジノでプレイするようになった人が何人もいます。僕が初めてカジノでプレイしたのは、覚えて1カ月が経ったころ。マカオで開催された世界麻雀大会に出場したときに、せっかく来たのでやってみようと入場ゲートをくぐりました。でも結果は7万円くらいの負け。プロみたいな中国人たちを相手に全然チップを奪えず、じわじわ取られていきました。やはり初心者だったので、相手には僕がパッシブ(消極的)なプレイヤーだとすぐに見抜かれてしまった。一番低いレートのテーブルだったんですけど、違いを早々に見せつけられました。
──それからどうやって強くなりましたか。
堀内 最初はSNSやWebを活用して、上手な人が発信する情報を取捨選択しながら集めました。成長に占める割合が大きいかどうかも重要ですから、まずはゲーム中によく出くわすシチュエーションを重点的に学びました。具体的にはプリフロップ(最初に2枚の手札が配られた段階)や、フロップ(共通カードが3枚出た段階)といった序盤のアクションですね。他方でテキサスホールデムには、三つの戦略があることを知りました。一つ目はGTO(ゲーム・セオリー・オプティマル。ゲーム理論最適)。自分の利益が搾取されないように、相手に合わせてこちらの戦略を最適化することを指します。二つ目はエクスプロイト。これは相手のミスプレイに付け込んで、相手の利益を搾取しにいくことです。三つ目が相手のエクイティ(期待される利益)を奪うこと。こうした戦略を効率よく学ぶために、今の若い人たちがみんな使っている計算ソフトやAIツールを活用しました。僕は1年以内にマカオでプロになることを目標としていましたし、麻雀時代からデータを中心としたデジタル系の打ち手だったので、データから学ぶことには慣れていました。
──なぜマカオを主戦場に選んだのですか。
堀内 マカオは世界のカジノの中でも、ミニマムレートが高いんです。ハンド(ゲーム)に1回参加するときの最低チップは50香港ドル/100香港ドル。日本円でだいたい700円/1400円です。ラスベガスは1ドル/2ドルですからざっくり100円/200円。7倍違います。レートが安いと勝っても低額なので効率が悪いんですよ。僕は基本的に50/100と100/200のレートを打ち分けていました。1日のプレイ時間はだいたい8時間から10時間。月に200時間の稼働を最低限のラインにしていました。懐に余裕がある人が“お遊び”で来ているときなど、テーブルの状況が良いときは、20時間打ち続けることもありました。日が変わればいつもどおり、10人席のうち7~8人がプロというシビアな状況に戻りますからね。集中力が続く限り、期待値が高い今の状況を優先していました。
──1日にどのくらいのお金が動きますか。
堀内 僕は100/200のテーブルで、1日に110万円くらい負けたことがあります。テキサスホールデムはBB(ビッグブラインド)という単位でチップを賭け、着席するときに100BBを用意します。100/200のテーブルでは1BBが200香港ドルなので、2万香港ドル(28万円)分のチップをテーブルに置く。100BBを失ったときは、かばんにしまっている別の100BBを取り出します。僕はいちいち両替するのが面倒なので、かばんに300BBとか500BBとか入れています。ウィン・マカオには50/100や100/200のほかに、300/600と1000/2000の計4レートがあります。レートが高いほど強い人が増えるので、僕は300/600に5回しか座ったことがありません。でもそこで100BB勝てば一晩で84万円。フィッシュ(弱くてお金がある人。いわゆるカモ)次第で挑戦しました。3年間ルームメイトだった小倉さんは300/600をメインにしていましたが、僕にはそんなの高いし怖すぎて打てない。でもさすがの小倉さんも1000万円負けたときは、5日間くらい部屋に閉じこもっていましたね。
──堀内さんはご自身の強さをどう分析していますか。
堀内 僕はプロの中では中級程度の腕前だと自覚しています。僕よりも強いプロはたくさんいて、弱いプロ相手になら勝てるくらいですね。ただ僕はマカオに4年間滞在していた間、プロを目指してやってきては帰っていく多くの人を見てきました。平日のカジノには基本的にプロしかいません。顔ぶれが毎日同じですから、3日もいれば分かります。そこに新顔が定期的に現れる。旅行で来た感じではありません。彼らの多くは、実力が足りないケースがほとんどでした。プレイングスキルがあっても長く続けられない理由は、メンタルの弱さや不慣れな外国暮らしのせいでしょうね。でも僕は彼らよりもタフだった。キャッシュプロである以上、安定したプレイングを積み重ねる能力が必要なんです。マネープレッシャーを常に背負いながら、毎日テーブルに座り続ける気力、体力、集中力。これらは短期間で瞬間的に勝つ能力とは違います。テーブルの状況にも気を配らないといけない。キャッシュプロとして生活することと、ポーカースキルが高いことはイコールではないんです。
──負けたときはどうしていましたか。
堀内 集中力を保つために、プレイ中には反省しないことを心がけていました。起きたミスはもう仕方がない。ミスは引きずるほど誘発されます。麻雀のときもそうでしたが、僕は姿勢を正して一定のリズムで動くことでエラーを減らしています。ミスの少なさは僕の強み。期待値で言えば難しい局面の判断に正解することよりも、ミスを減らすことのほうが大きいんです。1時間にこなせるハンド数はせいぜい26ハンドで、月に200時間稼働しても5200ハンド。この程度で確率が収束することはなく、分散することも多い。不遇なめぐり合わせや自分の不調が続くことは往々にして起こります。しかし長期的に見ればチャンスは必ず定期的に訪れる。テキサスホールデムにも心技体のすべてが求められるので、高レートのテーブルに座るトッププロたちは、身体を鍛えている屈強な人が多いですね。
──堀内さんはほかの賭け事も好きなんですか。
堀内 僕はバカラやブラックジャックはやりません。胴元を相手にしたゲームでは、長期的に見て絶対に勝ち越せないからです。麻雀やテキサスホールデムは極端な話、相手よりも僕のほうが強ければ勝てる。だからやるんです。競馬も競輪もしない。もともとお金が減ることって、好きじゃないんですよ。散財もしませんし。20代のころは麻雀一筋だったので、パチンコ・パチスロをやる機会もありませんでした。楽しむためにプレイしているのではなく、勝つことが楽しいからプレイしているという感じです。
日本のブームはこれから
──堀内さんはYouTuberとして、ポーカーの発信に努めています。
堀内 動画配信はマカオに渡ったころから始めました。麻雀の動画も多いんですけど、チャンネル登録者数は10万人。ポーカー動画のチャンネルとしては、「世界のヨコサワ」として活躍されている横澤真人プロのほうが圧倒的に人気ですよね。僕の動画の内容は新規プレイヤーが挫折する三つの理由や、オンラインポーカーとライブキャッシュの違い、収入や両替といったお金まわりの話など。だいたい10分前後でまとめています。
──これから始める人には有益ですね。
堀内 ポーカーをプレイする環境は、僕が始めたころよりもずっと整いました。僕は仙台市出身ですが、プレイハウスは東北の主要都市ですら当時はなかった。最近ではアプリが選べる程度に増えていますし、アミューズメントとして健全に遊べる店舗も都内を中心に増えている。ポーカー人気はどんどん広がると思います。雀荘やパチンコホールくらいにプレイハウスが増えるといいですね。カジノ開業によるブームの後押しにも期待しています。
──今後の目標を教えてください。
堀内 目の前のことで言うと、今年はWSOP(ワールドシリーズオブポーカー)という世界大会に初めて挑戦します(※)。これはラスベガスで毎年行われている有名なトーナメントで、世界中から強いポーカープレイヤーが何千人と集まってきます。参加費は1万ドル。8000人超が参加した2019年大会の優勝賞金は1000万ドル=11億円超でした。世界のヨコサワチャンネルのひろきさんはこのとき、日本人最高位の25位で3500万円を手にしました。上位10%に入れば賞金が出るので、そこを目指します。日常的なことで言えば、コロナ禍が落ち着いたら、またマカオでキャッシュゲームを続ける生活に戻ります。でも僕よりもずっと若い人が世界中からどんどん入ってくるので、どのくらい続けられるだろう。40代、50代になると難しいかもしれません。そうしたらまた麻雀かな。二本の柱です。あるいはYouTuberとして大成するかもしれませんね。
※2021年9月の取材時点。大会結果はday2まで進出した。すでに22年大会への出場を表明している。
ほりうち・まさと
1985年1月4日生まれ、仙台市出身。20歳で日本プロ麻雀連盟に所属。デジタル系の打ち筋で頭角を現し、第27期(2010年)の十段位で優勝。翌年と翌々年は2年連続で準優勝した。30歳を機にテキサスホールデムに転向。マカオに拠点を構え、キャッシュゲームを生業とする。運営するYouTubeチャンネル「堀内正人 horihori TV」の登録者数は10.9万人。理路整然とした語り口で分かりやすい動画が人気を集めている。
※『月刊アミューズメントジャパン』2022年1月号に掲載した記事を転載しました