No.10002726
特集 新規則時代の営業戦略①
新規則時代に開かれる成功の扉
覆される常識の中に何を見るか
変化の時代こそチャンスがある。ただし、そのチャンスをつかむためには
変化にうまく適応しなくてはならない。新規則機への移行というパチンコ業界の
大きな変化は、今後の営業戦略にどのような影響をおよぼすのだろうか。
文=齊藤晃一 ノンブル・マーケティング代表
パチンコ前年対比120%成長。オミクロン株が猛威を振るう中で稀代の名機『CR北斗無双』が徐々に撤去され、次世代機として期待を担ったパチンコシリーズ機が事前期待値を超えられない中でも4円パチンコは成長を果たしたことになります。
そして迎えた完全新規則時代。さまざまな場所で繰り広げられた論評とは全く異なる形で成長をしていく様は「新しい時代」を体感するに十分であり、「変化を拒むものを淘汰する」といった、少々刺激的なメッセージを含んでいるように私の目には映ります。
新しい時代の主役の座を掴んだのは15年ぶりに表舞台に戻ってきた『エヴァンゲリオン』、初の主力機種の座を掴む『ガンダムユニコーン』、そして最新スペックを纏い一気にスターダムへ駆けあがった『Re:ゼロ鬼がかりVer.』です。
出玉性能は魅力的でも、スタートと顧客反応(稼働)がリンクしにくい1個賞球機は花形機種に推奨し難い、という仮説も見事に覆りました。覆るどころか低ベースの効力で「顧客反応が得られるスタート帯域でも利益確保が可能」というありがたい付加価値までもつきました。
もちろん、これらはすべての機械に該当するのではなく、「ある特定条件」を満たした特別な機械に限ります。
利益をとりながら稼働を上げるという傾向は低ベース機に限ったことではありません。昨年のMVP機種である『牙狼MAXX』、『ガンダムユニコーン』の年間想定粗利は220万を見込んでいます。「粗利」と「稼働」という二律背反する永遠のジレンマを新しい世代の新しい主力機種は軽々と超えていきます。まさにアンビリーバブルでアンビバレントな体験を私たちにプレゼントしてくれます。
真の看板候補機種とは⁉
「看板候補機種」を放出しながら稼働を上げるのは過去の話で、「真の看板機種」で粗利と稼働を同時に上げる時代です。では真の看板機種の条件とは何か?
それは決して数値や指標ではなく、【新鮮】で【刺激的】な体験と【底知れぬポテンシャル】を感じさせる機械です。その命題に挑戦した機械台が残り、無難なところを突いた機械がブレイクしないという図式ではないでしょうか。
この体験はエクスペリエンスと称され、顧客満足(CS=カスタマー・サティスファクション)を進化させた顧客体験(CX=カスタマー・エクスペリエンス)の追求こそが「粗利」と「稼働」という二律背反する永遠のジレンマから脱却する鍵となります。
「遊びやすさ」を差別化要因として集客をしていた時代から「顧客体験=CX」を差別化として増客をする時代に変化します。時速や連チャン、一撃性など、機械特性によって得られる顧客体験。スタート、利益率など、価格面に関連する顧客体験。接客、付帯設備、店舗コンセプトなど、売場を通じて得られる顧客体験。
時代の変わり目は、顧客体験の変わり目です。数値分析をスタートにしてPDCAサイクルを推進するだけでなく、顧客体験をスタートにMOTサイクルを回すことで未来は開かれます。
スペック分析は出玉性能の計算ではなく、顧客体験を想像するために行い、データ分析は数値を通して顧客が得られた体験を想像する手段です。顧客体験(CX)を疎かにして、新しい時代や新しい指標を語ることなど無意味であり、「オレの成功体験」という狭域な視野と価値観によって形成された古臭い概念は瞬く間に淘汰されていくでしょう。
変化するパワーバランスと事業戦略
4円パチンコの構造がドラスティックに変化した背景には、コロナ離反とパチスロ客からの流入という遊技客数構造の変化があります。
近年パチスロは不動の人気機種が長期間活躍する傾向が強かったと思います。その理由は、その当時の最高の顧客体験を有していたからです。『ミリオンゴッド』は、パチンコより圧倒的な顧客体験を提供していました。過去に逆の流入(パチスロからパチンコへ)が起こった時代を振り返ると、初代『牙狼』(2008年)は『エウレカセブン』(5号機)より圧倒的な顧客体験を提供し続けたことに起因します。
これはスペックの上昇余地の少ない現在のパチンコ主力機種の長期稼働を示唆するに十分な根拠であるとともに、成長市場である4円パチンコの中心を担う機械の有無は今後の戦略・予算構築をするうえで、大きな影響を与えることでしょう。
ひとつのきっかけでパワーバランスは崩れる
ある地方における新規則時代の中心機種の企業別の設置台数および設置比率をご覧ください。
特徴的なのが、低貸し中心の戦略展開を進めている「法人A」、全国展開するリーディングカンパニー「法人C」、集客に特化し話題の中心を担う「法人D」の買い方です。
時代の中心を担う主力機種の台数は低貸し中心の法人A=大手法人C>法人Dとなり、機械構成比は法人A>大手法人C=法人Dとなります。
この結果がどのような競争力変化を与えたのか? 客シェア推移で確認すると、新主力機種の設置状況に応じてシェア変動が起きていることが確認できます。
月粗利35億円の市場の4円パチンコの市場シェア2%の変動は約7000万円の粗利変動を意味するため、新主力機種の台数が全体経営に与える影響は軽視するわけにはいきません。
今までの成功が、これからの成功につながらない。一つのキッカケとチャレンジでパワーバランスは大きく崩れる不確実な新しい時代を生きる術は、新たな顧客エクスペリエンスと予期せぬ成功です。
ドラッカーは「予期せぬ成功というものは天からの贈り物である。無視すれば誰かが持ち去る」と言葉を残しています。さまざまな常識が崩れる今こそ、新たな成功への扉が開かれています。