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仮想空間に飛び込め!②
バーチャル空間にようこそ
無限に広がるクリエイターの発想
VRゴーグルを持っていないが、一度は仮想空間を試してみたい──。そんな人にはHIKKY(東京都渋谷区)が運営する「バーチャルマーケット」がお勧めだ。ここはアバターなどの3Dアイテムやリアル商品を売買できる世界最大のVRイベント会場。VR初心者でもスマホやPCから参加できる。来場者数は全世界から100万人以上。映画やライブ、来場者同士のコミュニケーションも可能だ。
2018年8月に初めて開催されたバーチャルマーケット(Vket)は、以降年2回のペースで定期的に開催されている。今夏には8回目を数える「バーチャルマーケット2022 SUMMER」を予定。8月13日から28日までの16日間の会期で行われる。
「3Dモデルを制作するクリエイターが、作品を自由に販売できるコミュニティをつくる」。PRマーケティングチーフの大河原あゆみさんは、Vketの起こりをこのように振り返る。
「日本のクリエイターがつくる3Dモデルは、世界的に見ても非常に高品質です。見た目がかわいいですし、ディティールまで丁寧。その技術にお金を支払う価値があると評価されています。例えばアバターは、一つだいたい5000円程度で取り引きされています」
自分の分身であるアバターが、バーチャル空間で他人からどのように認識されるか。これはVRとの関わりが長く深い人ほど、重要なポイントになるという。例えるならばTwitterのアイコン。利用当初は適当に選んだ画像も、コミュニティ仲間が増えるにつれて、より”自分らしさ“が表れるものに変えたくなる。そんな心理を満たせるVketでは、アバター本体から衣装・装身具までラインナップが豊富だ。
「自身のリアルな容姿をアバター化する動きも一部では盛んですが、自分の好きを詰め込められるのがアバターの良さ。理想的な自分でいられるからこそ、リアルを超えた能力を発揮できることもあります。身体や精神に障がいがあろうと、誰とでもフラットにつながれることが、バーチャル空間の一番素敵な部分だと思います」
B/昨年末に開催されたVket2021の「パラリアル秋葉原」 C/Vket6(昨夏開催)の「縁日会場」 D/同「Core会場」エントランス
生み出される経済効果
目を見張るのは出展ブース数の多さだ。回を重ねるごとに規模が拡大し、過去には一般サークルと企業を合わせて1100以上を記録した。このうちの大半は、自作したアバターなどを出品する個人クリエイター。企業出展は100社に迫りつつある。
出展企業の主たる目的は、プロモーション活動、リアル商品の販売、3Dモデルの販売が三本柱。出展費用を物販でまかなえる企業は限定的なため、大半の企業が販促活動の場と捉えている。前回開催時(2021年末)には、次のような企業ブースが注目された。
SMBC日興証券は、株価チャートをコースに見立てた「株価連動型ジェットコースター」を展開した。リーマンショック時の暴落ぶりからバブル後の最高値更新まで、VRゴーグルを通して感覚的に体験できるアトラクションだ。株価への関心を喚起した。
百貨店の大丸は、2700点以上のリアル商品を販売した。食べごろの目玉商品15点は、3Dモデルで制作。カタログの掲載商品もすべて、VR空間の店内からECサイトを経由して購入できる仕組みにした。アバター同士が”VR飲み会“できる座席も用意。リアル店舗では接触機会が少ない顧客層の受注につなげた。
ゲーム会社のマーベラスは、人気IP『閃乱カグラ』に登場するキャラクターの3Dモデルを販売。自身(アバター)がそのキャラになるもよし、キャラの衣装に着替えるもよし。装飾アイテムがもらえる簡単なゲームや、映える自撮りスポットも用意した。
「過去にはリアルの新商品を告知したことで、1億円分の予約を受注した海外企業がありました。単価が5万円程度のヘッドセットです。来場者の属性や嗜好とマッチした好例でしょう」
Vketを訪れる来場者のボリュームゾーンは20代から30代の男性。企業ブースにまで足を伸ばす人は、高機能なHMD(ヘッドマウントディスプレイ)やハイスペックなゲーミングPCを所有している。ある程度の消費行動に期待できるため、出展企業にとっては将来顧客を開拓できる場だ。先行者利益が望めるため、各業界の先駆者が意欲を見せている。
出展費用は、大規模なリアルイベントに比べれば割安だ。バーチャルであればブースデータの保存がきくため、次回出展時の初期費用も抑えられる。サステナブルな観点から出展を決める企業もあるという。万全な体制で出展するには、4カ月程度の準備期間が望ましい。
「期間はあるほどいい。内容を詰められるしチェックを繰り返して事故を防げる。1社だけの展開だけでなく、同時に出展される他企業との連携もご提案できるので、まずはお声がけいただければ幸いです」(大河原さん)
※『月刊アミューズメントジャパン』2022年6月号に掲載した記事を転載しました。