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2018年06月20日
No.10000677

木曽 崇(国際カジノ研究所 所長)
IR整備法案 強行採決の被害者
[コラム]カジノ研究者の視点 

[プロフィール]日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

6月15日、衆議院内閣委員会において、我が国のカジノ合法化と統合型リゾート導入を実現するIR整備法案が賛成多数で採択された。本法案の採択を巡っては、野党サイドからは法案に関する論議時間が短すぎるとして継続審議を求める声が挙がっていたが、山際大志郎委員長(自民党)が職権で強行した。委員会の開始と共に委員会室に飛び込んできた山際委員長はすぐさま採択を開始し、ものの3分で終了。足早に委員会室から立ち去った。残された野党系議員からは「採択は無効だ」と怒号が飛び飛び交う大混乱となった。

我が国のカジノ合法化は、どうもこの様な国民の理解を得がたい採択方法が採られる運命のようだ。思い起こせば2016年12月に成立したIR推進法の時も同じような状況だった。当時の衆議院内閣委員会の秋元司委員長(自民)は、延べ審議時間が6時間という異例の短期採択でIR推進法の本会議送致を決定し、野党から大きな批判を浴びた。

当時の与党サイドの説明では「IR推進法は政府にIR整備の推進を求める法律であり、詳細な審議はより具体的な内容が示される整備法案で行なう」とのことであった筈だ。ところが今回のIR整備法案の衆議院における委員会審議も、総計18時間程で打ち切られた。2016年のIR推進法審議の6時間と比べればはるかにマシではあるものの、一般的に30時間程度が慎重審議の目安と言われている法案の審議時間を前提とすると「十分な論議を経た」とは到底言えない。

このようなIR整備法案の強行採決の背景に、与野党それぞれの思惑が交錯する。来年4月に予定されている全国統一地方選挙、および7月に予定されている参議院議員選挙を念頭に置くと、与党サイドは国民に圧倒的不人気なIR整備法の審議を次期国会まで引き摺りたくない。逆に来年の選挙を有利に迎えたい野党サイドとしては、本法案の審議をなるべく長く引っ張りたい。そのため、野党は与党サイドに対して慎重審議を求めている側面もあるわけだが、維新の会を除く野党は、森友問題で紛糾した今年4月から5月にかけて審議拒否によって18日間も国会を空転させている。いまさら「論議時間が短すぎる」と言える立場でもない。

そして、このような与野党による党利党略の結果、被害を受けるのはこれから誕生するカジノ産業の当事者だ。必要な審議もおざなりなまま強行採決され成立する日本のカジノ産業は、圧倒的なマイナスの国民感情からスタートすることとなる。カジノ推進側の研究者の立場としても、このような形で法律が成立することに対しては忸怩たる思いをもって見守っているのが本音である。


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