No.10000871
INTERVIEW
人材を育成しなければ時代に取り残される
HILLTOP株式会社 山本昌作 代表取締役副社長

自動車メーカーの孫請けだった会社が、ウォルト・ディズニー・カンパニーやNASA(アメリカ航空宇宙局)、国内で一部上場するゼネコンなどの大手企業が信頼を寄せる日本屈指の鉄工所に変貌を遂げた。現在は宇宙・ロボットや医療・バイオ部品、精密機器部品などを手がけ、売上高、社員数、取引業者数のすべてが右肩上がりに。成功の秘訣は、山本昌作副社長が行った生産性の追求と監視・管理型の指導を徹底排除した人材育成だという。
取材=高袖佑基(本誌)
HILLTOPは、京都府宇治市にあるアルミ加工メーカー。1961年に自動車メーカーの孫請け会社として設立された。創業者は山本副社長の父。
山本副社長が入社した70年代の鉄工所は、“儲かる”と言われながら、重労働のわりに利益が残らなかった。その上、日々繰り返される単調な作業は、苦痛で楽しくないものだった。
ものづくりの魅力は単純労働ではなく「いかにつくるか」である。図面を見てどの機械を使うのか、どのように加工するのか、どのような刃物が良いのか、どのような材料が良いのか、どのような向きに取り付けるのか。つまり、人が頭を使って考えることにこそやりがいがあり、能力も発揮される。
だが、当時請け負っていた自動車部品の製造は、言われたとおりに量産するだけの決まり切った単純作業だけ。そこに楽しみはなかった。
「単純作業やルーティン作業には人間的な喜びがない。楽しくなければ仕事じゃない」
山本副社長は、売上の8割を占めていた自動車部品の受注をやめることを決断。知的作業の多品種少量・単品生産主体の経営に切り替えた。
職人技を数値化して作業をプログラム化。ルーティン作業になり得るリピート注文はすべて自動化し、24時間無人の加工工場をつくった。これにより、社員は知的作業のみに従事できる環境になった。この生産システムにより、収益構造は大幅に改善。利益率が20%を超える鉄工所に生まれ変わった。
──ウォルト・ディズニー・カンパニーやNASAから信頼される会社に成長した要因を教えてください。
山本 凝り固まった業界の思い込みを捨て、従来の工場のあり方を変えたことでしょう。私が変えたのは、「人」「本社」「つくるもの」「作り方」「取引先」の5つです。「人」については、命令でしか動かない社員を、圧倒的な行動力と主体性を持つ人間に変えました。「本社」は、地味で暗い、油まみれで汚いという町工場のイメージを払拭することにしました。例えば、本社ビルの東側を全面ガラス張りにし、社員全員が集まれる社員食堂と、筋トレルーム、浴室を完備したのです。「つくるもの」は、大量生産品(量産部品)の扱いをやめ、単品製品に特化しました。その代わり、アルミ加工製品ならどんなものでも加工します。「作り方」は、ルーティン作業をシステム化しました。受注から部品製作、納品までの全工程をITを使ってデジタル化しました。いまでは、日中に作業データを機械に送信すれば夜のうちに工作機械が稼働して、朝には製品が完成しています。「取引先」は大口顧客の受注に依存しないビジネスモデルに変更しました。鉄工所の多くが、大口顧客次第で受注がゼロになるような不安定な経営を強いられています。しかし当社では、1社依存率を30%以下にとどめています。これは、単品製品に特化しているからで、現在では取引先が毎年約100社入れ替わっています。
──変えた5つの中で最も重視したことを教えてください。
山本 間違いなく「人」の教育です。どんなに優れた経営者でも、仕事を一人で完遂させることはできません。私の考える教育とは、仕事やスキルを覚えてもらうことではありません。社員を、経営者と同じ想いで自発的かつ能動的に動ける人材に育てることです。
──どうすれば自発的に動ける社員が育つのですか?
山本 簡単に言えば若手社員にも権限を委譲することです。多くの人がそうだと思いますが、人は頭ごなしに命令されても動きません。仮に動いたとしても、言われたことをしているだけで能力を最大限発揮できる状況にはならない。ですから、社員がやりたいことに経営者や管理職の人間が口出しをしないことです。チャレンジする機会を与え、そこで失敗を経験させる。人はどうしたら成功できるのかを考えますから、試行錯誤した経験が社員の血となり肉となるのです。チャレンジさせることが、会社にとって本当に必要な人材を育てるのです。
──なぜ、そのような考え方になったのですか?
山本 昔ながらの鉄工業界の教育は、現場に3年ぐらい放り込んでおけば一人前になるという無責任な考え方でした。確かに見様見真似で技術は覚えるかもしれませんが、それでは会社に愛着も湧かないし、モチベーションも上がらない。そういう社員は、命令されないと動けませんし、自分で考える仕事ができない。これはその社員が悪いのではなく、そういう環境をつくった会社や経営者の責任です。
──これまでのチャレンジで印象的なものを教えてください。
山本 当社ではAGV(無人搬送車)を開発しています。開発を始めたのは、受注があったからではなく、楽しそうだし、社員のスキルアップにつながりそうだったからです。開発にかかった費用は約1億円。すべて自費でした。このAGVを設計・製造ソリューション展で披露したところ、東証一部上場のゼネコンから力を貸してほしいと依頼がきました。楽しいことをやろうというチャレンジ精神があったからこそ、新規の仕事を受注できたのです。直接、売上につながらないことも評価します。2003年に阪神タイガースがリーグ優勝をした際、ある社員が勝手に阪神タイガース球団からライセンス契約を取ってきてアルミ削り出しの優勝記念モニュメントをつくりました。「これは売れます」と言うので任せましたが1個も売れませんでした(笑)。確かにビジネスとしては失敗しましたが、私は彼の行動力を評価しました。自発的に動いて阪神タイガース球団からライセンスを取得してきたわけですから。この行動力がいずれ新しいビジネスにつながると考えました。