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2018年10月26日
No.10000871

INTERVIEW 
人材を育成しなければ時代に取り残される
HILLTOP株式会社 山本昌作 代表取締役副社長

人材を育成しなければ時代に取り残される
HILLTOP 株式会社 本社 : 京都府宇治市大久保町成手1-30 1968年創業。取引先はディズニーやNASA、一部上場のゼネコンまで3000社超。2008年「京都中小企業優良企業表彰」、2016年日本設備管理学会「ものづくり大賞」などを受賞。2017年には経済産業省による「地域未来牽引企業」に選定される。資本金3600万円、売上高17億3000万円、従業員120人。

自動車メーカーの孫請けだった会社が、ウォルト・ディズニー・カンパニーやNASA(アメリカ航空宇宙局)、国内で一部上場するゼネコンなどの大手企業が信頼を寄せる日本屈指の鉄工所に変貌を遂げた。現在は宇宙・ロボットや医療・バイオ部品、精密機器部品などを手がけ、売上高、社員数、取引業者数のすべてが右肩上がりに。成功の秘訣は、山本昌作副社長が行った生産性の追求と監視・管理型の指導を徹底排除した人材育成だという。

取材=高袖佑基(本誌)


HILLTOPは、京都府宇治市にあるアルミ加工メーカー。1961年に自動車メーカーの孫請け会社として設立された。創業者は山本副社長の父。

山本副社長が入社した70年代の鉄工所は、“儲かる”と言われながら、重労働のわりに利益が残らなかった。その上、日々繰り返される単調な作業は、苦痛で楽しくないものだった。

ものづくりの魅力は単純労働ではなく「いかにつくるか」である。図面を見てどの機械を使うのか、どのように加工するのか、どのような刃物が良いのか、どのような材料が良いのか、どのような向きに取り付けるのか。つまり、人が頭を使って考えることにこそやりがいがあり、能力も発揮される。

だが、当時請け負っていた自動車部品の製造は、言われたとおりに量産するだけの決まり切った単純作業だけ。そこに楽しみはなかった。

「単純作業やルーティン作業には人間的な喜びがない。楽しくなければ仕事じゃない」
山本副社長は、売上の8割を占めていた自動車部品の受注をやめることを決断。知的作業の多品種少量・単品生産主体の経営に切り替えた。

職人技を数値化して作業をプログラム化。ルーティン作業になり得るリピート注文はすべて自動化し、24時間無人の加工工場をつくった。これにより、社員は知的作業のみに従事できる環境になった。この生産システムにより、収益構造は大幅に改善。利益率が20%を超える鉄工所に生まれ変わった。


京都府宇治市にあるHILLTOP本社


──ウォルト・ディズニー・カンパニーやNASAから信頼される会社に成長した要因を教えてください。
山本 凝り固まった業界の思い込みを捨て、従来の工場のあり方を変えたことでしょう。私が変えたのは、「人」「本社」「つくるもの」「作り方」「取引先」の5つです。「人」については、命令でしか動かない社員を、圧倒的な行動力と主体性を持つ人間に変えました。「本社」は、地味で暗い、油まみれで汚いという町工場のイメージを払拭することにしました。例えば、本社ビルの東側を全面ガラス張りにし、社員全員が集まれる社員食堂と、筋トレルーム、浴室を完備したのです。「つくるもの」は、大量生産品(量産部品)の扱いをやめ、単品製品に特化しました。その代わり、アルミ加工製品ならどんなものでも加工します。「作り方」は、ルーティン作業をシステム化しました。受注から部品製作、納品までの全工程をITを使ってデジタル化しました。いまでは、日中に作業データを機械に送信すれば夜のうちに工作機械が稼働して、朝には製品が完成しています。「取引先」は大口顧客の受注に依存しないビジネスモデルに変更しました。鉄工所の多くが、大口顧客次第で受注がゼロになるような不安定な経営を強いられています。しかし当社では、1社依存率を30%以下にとどめています。これは、単品製品に特化しているからで、現在では取引先が毎年約100社入れ替わっています。

──変えた5つの中で最も重視したことを教えてください。
山本 間違いなく「人」の教育です。どんなに優れた経営者でも、仕事を一人で完遂させることはできません。私の考える教育とは、仕事やスキルを覚えてもらうことではありません。社員を、経営者と同じ想いで自発的かつ能動的に動ける人材に育てることです。

──どうすれば自発的に動ける社員が育つのですか?
山本 簡単に言えば若手社員にも権限を委譲することです。多くの人がそうだと思いますが、人は頭ごなしに命令されても動きません。仮に動いたとしても、言われたことをしているだけで能力を最大限発揮できる状況にはならない。ですから、社員がやりたいことに経営者や管理職の人間が口出しをしないことです。チャレンジする機会を与え、そこで失敗を経験させる。人はどうしたら成功できるのかを考えますから、試行錯誤した経験が社員の血となり肉となるのです。チャレンジさせることが、会社にとって本当に必要な人材を育てるのです。

──なぜ、そのような考え方になったのですか?
山本 昔ながらの鉄工業界の教育は、現場に3年ぐらい放り込んでおけば一人前になるという無責任な考え方でした。確かに見様見真似で技術は覚えるかもしれませんが、それでは会社に愛着も湧かないし、モチベーションも上がらない。そういう社員は、命令されないと動けませんし、自分で考える仕事ができない。これはその社員が悪いのではなく、そういう環境をつくった会社や経営者の責任です。

──これまでのチャレンジで印象的なものを教えてください。
山本 当社ではAGV(無人搬送車)を開発しています。開発を始めたのは、受注があったからではなく、楽しそうだし、社員のスキルアップにつながりそうだったからです。開発にかかった費用は約1億円。すべて自費でした。このAGVを設計・製造ソリューション展で披露したところ、東証一部上場のゼネコンから力を貸してほしいと依頼がきました。楽しいことをやろうというチャレンジ精神があったからこそ、新規の仕事を受注できたのです。直接、売上につながらないことも評価します。2003年に阪神タイガースがリーグ優勝をした際、ある社員が勝手に阪神タイガース球団からライセンス契約を取ってきてアルミ削り出しの優勝記念モニュメントをつくりました。「これは売れます」と言うので任せましたが1個も売れませんでした(笑)。確かにビジネスとしては失敗しましたが、私は彼の行動力を評価しました。自発的に動いて阪神タイガース球団からライセンスを取得してきたわけですから。この行動力がいずれ新しいビジネスにつながると考えました。

油まみれの鉄工所が、カラフルで華やかな24時間無人加工の工場に。
今では宇宙やロボット、医療、バイオの部品を手がけている


──社員に自由を与えすぎると統制をとるのが難しいのでは?
山本 難しくはありません。そこは会社として目標や理念がしっかりとしていれば良いわけです。私が言う権限委譲は、会社が定めるゴールに対して会社の価値観に反しなければどのようなプロセスを選んでも良いということ。多少の逸脱はOKという権限委譲です。ゴールまでは走って行こうが、車で行こうが問題ありません。経営者が会社のビジョンをしっかり語れていれば、会社は自ずと統制がとれてくるものなのではないでしょうか。あとは社員のことを理解してあげることが大切です。経営者は、いかに社員に協力を求められるかが重要になる。社員を監視管理するのではなく、経営者の考えを理解してもらうことに務めるべきです。中小企業の製造業の経営者の多くが、監視管理して命令をすることで利益があがると考えていますが、それでは社員は会社の枠を超えて頑張る意識にはなれない。また、経営者の能力以上のアイデアは出てこない。監視管理されていると、やらされている感しか残らない。社員が自発的に動けない会社は、社会の変化に対応できなくなり時代遅れになってしまいます。

──管理職者が部下にすべきことはなんでしょう?
山本 管理職者がやるべきことは、仕事のマネジメントではありません。人のマネジメントです。具体的にはモチベーションの管理ですね。モチベーションは、人間の行動に大きく関わってきます。もともと当社がルーティン作業をやめた理由は、モチベーションが下がることを防ぐためです。人のモチベーションは、仕事が面倒になってきたときに下がります。例えば仕事が単純作業になり、マンネリ化したときですね。当社の管理職者は、日ごろから社員とコミュニケーションを図りながら、社員のモチベーションが高いのか低いのかを把握しています。

──モチベーションをマネジメントする工夫はありますか?
山本 ジョブローテーションを積極的に採用しています。当社のジョブローテーションは一定の期間を設けていません。管理職者が部下を見ながら、モチベーションが下がってきたと感じたタイミングで部署の異動を指示します。仕事においてのマンネリ化は、実は仕事の習熟度が最大値になったことを意味します。何も考えなくてもこなせるレベルに達したというサインです。ですが、社員のモチベーションが下がると意欲がなくなりアイデアが出なくなりますから、会社にとってはマイナス。であれば、部署を変えて心機一転、新たなことにチャレンジした方が会社のためであり、社員のためになります。

社員36人時代に100人以上が収容できる社員食堂を創設。
食堂ではカラオケ大会が行われるなど社員の交流の場となっている

──一方でジョブローテーションは作業効率の低下を招く恐れがあります。
山本 中小企業は一人ひとりが優秀な戦士であることが重要で、たくさんの能力を持っている方がいい。確かに異動直後は一時的に作業効率が落ちますが、社員一人ひとりのポテンシャルは高くなる。ジョブローテーションは、社員のモチベーションを高めると同時にスキルアップにも欠かせない方法なのです。利益をあげるためにプロフェッショナルを育てるという考え方もあるでしょうが、そうすると単機能で引き出しのない社員になる。引き出しが増えれば、いろんな案件に対してさまざまな対応ができるので会社は強くなります。

──新卒社員の教育はどうしていますか?
山本 当社の特徴は、入社2年目の社員が指導係を務めていること。そんな若手の指導では不安だと思う方も多いようですが、新卒社員の気持ちに一番近いのが2年目社員です。新卒教育において何が必要か一番肌で感じて分かっているわけですから、一番の適任者だと思います。教育カリキュラムについても、たぶん必要なプログラム、絶対必要なプログラムを盛り込むわけです。足りなかったものは増やせば良いだけです。

──今後の課題を教えてください。
山本 当社は国内売上のうち、加工の仕事が約7割を占めています。ですが、私たちの目標は加工業を極めることではありません。脱部品加工、脱製造業を目指し、知的サービス業に転進することです。ロボットやバイオ、IoTデバイス、AGVなど新たな分野にチャレンジしながら、この世にないものを生み出せる企業にしたいですね。そのためにも、社員教育にさらに力を入れていきたいです。



やまもと・しょうさく
1954年生まれ。立命館大学経営学部卒業後、母に懇願され全聾の兄(HILLTOP代表取締役社長)のためにつくった有限会社山本精工(現HILLTOP)に入社。自動車メーカーの孫請けだった鉄工所を、多品種単品のアルミ加工メーカーに。現在は経営のかたわら、名古屋工業大学非常勤講師、大阪大学非常勤講師などを務める。モットーは「楽しくなければ仕事じゃない」。


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