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2019年05月15日
No.10001175

木曽 崇(国際カジノ研究所 所長)
IR開発競争で後れを取る日本
[コラム]カジノ研究者の視点

[プロフィール]日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

シンガポールで統合型リゾート(以下IR)を運営するカジノ事業者2社が、共に施設の拡張計画を発表した。ラスベガスサンズ社は「マリーナベイ・サンズ」に併設する形で1万5千席を有する最先端アリーナや新たなMICE施設を増設する。ゲンティン社は「リゾートワールド・セントーサ」テーマパークを増設する形で、日本のゲームキャラクターをテーマとした「スーパー・ニンテンドー・ワールド」などを新設する。

両社ともに追加の施設投資予定額は3700億円。これはシンガポール政府が両社に求めた追加の設備投資であり、両社がその求めに応じた投資を行えばカジノ施設の増設許可と、税制上の優遇措置を受けることができる。

一方、マカオでも新たなIR施設の開発計画が持ち上がっている。マカオではカジノ運営を行う全6社の保持する運営ライセンスが2022年に失効するにあたり、現在、各社とマカオ政府との間でライセンス延長の条件交渉が進められている。その中で発表されたのがラスベガスサンズ社による「ザ・ロンドナー・マカオ」の開発計画である。これは3万4000平方メートルのMICE施設、6000席を有するエンターテイメント施設、200以上の店舗を有するショッピングセンターなどを含む英国の街並みをテーマとしたものだ。各施設は2020年から2031年にかけて段階的にオープンする予定となっており、2022年に失効するライセンスの延長が前提となった計画だ。

ラスベガスサンズ社がこのような新規の開発計画を発表したことで、ライバル各社はその後を追う形でライセンス更新に向けた新規の開発計画を順次発表してゆくと予想される。

このようにアジア圏では、IR開発競争が再び加熱し始めている。その影響を真正面から受けるのが我が国だ。昨年カジノ合法化を決定した日本では、目下、IR導入準備の真っただ中だが未だ入札要件が確定していない。順調に進んだとしても実際の施設開業は2025年前後になる予定だ。

シンガポールやマカオで新規開発を発表したIR事業者は、日本でのIR開発権入札への参加が期待されている事業者だ。しかし彼らが先行して日本以外の地での大型開発にコミットしたことで、日本に大きな開発資金を廻せなくなる可能性がある。各IR事業者の資金調達能力は有限であり、その獲得は国際競争なのだ。

我が国のIR導入計画は、周辺競合国から一歩出遅れてしまっている。その開発は常に国際競争に晒されているということを忘れることなく、緊張感をもって慎重かつ迅速に進めて頂きたいものである。


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