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2020年07月31日
No.10001860

木曽 崇(国際カジノ研究所 所長)
IR基本方針の公表 「白紙化」
[コラム]カジノ研究者の視点

IR基本方針の公表 「白紙化」
[プロフィール]日本で数少ないカジノの専門研究者。ネバダ大学ラスベガス校ホテル経営学部首席卒業(カジノ経営学専攻)。米国大手カジノ事業者での会計監査職を経て、帰国。2004年、エンタテインメントビジネス総合研究所へ入社し、翌2005年には早稲田大学アミューズメント総合研究所へ一部出向。2011年に国際カジノ研究所を設立し、所長に就任。

7月20日付けの産経新聞が、政府が7月26日に発表すると目されていた統合型リゾート(IR)整備区域基本方針の公表が「白紙化された」と報じた。基本方針は、我が国で最大3カ所と定められるIR整備区域の選定要件や、その申込期間などを示す政府方針である。2018年に成立したIR整備法の付則が、当該基本計画の公表に関して定めた条文を含む「法第二章」全体の施行期限を、整備法そのものの施行から2年以内と定めていたことから、その期限となる7月26日に何らかの方針が公表されるものと考えられてきたのだ。

そもそもこの基本方針の公表は、今年1月に計画されていたものが遅れに遅れた結果、現在に至っているものだ。延期された理由は、昨年末から世間を騒がせることとなった自民党(現在は離党)の元・国交副大臣である秋元司議員を巡る中国オンラインゲーミング企業による汚職事件。秋元議員を含め、複数の与党議員に捜査が及んだこの事件は、年が明けた2月頃までメディアを賑わせることとなった。日本のIRへの参入を目指していた企業による汚職事件で世間が大騒ぎしている最中に基本方針を公表できるわけもなく、当初の計画は先送りとされることとなった。

その後、政府が基本方針の公表を改めて再設定したのが「3月~4月」というスケジュールだった。しかし、その予定も2月から深刻化したCOVID-19の拡大によって再びご破算となる。さらに、世界を覆ったCOVID-19禍は日本IR市場への参入を目論んできた海外カジノ事業者の経営状況にも深刻なダメージを与えた。5月には米国カジノ事業者大手、ラスベガスサンズが日本市場からの撤退を発表。今のところ同社以外の事業者から日本市場に関する確たる発表はないが、業界内では「もう実質的に撤退ではないか」と囁かれる事業者もある。このような環境下で日本政府は早期に基本方針発表を断念し、数カ月前から水面下で「公表時期の白紙化」に向けて各自治体との調整を進めていたという。

今回、基本方針の公表期限が白紙化されたことで、基本方針は完全に政府施策の中で宙に浮いた存在となる。来年10月に任期切れを迎える衆議院の解散と総選挙が近づいてくる中、政局ネタとなることが必至であるこの基本方針の公表は、それを所管する国交省ですらコントロールすることができない、高次の政治判断が必要なものとなっている。
これまでIR導入を強力に推進してきた安倍政権が支持率を下げ、その存続が危ぶまれる中で、まさに日本のIR導入計画は混沌の世界に突入したと言っていい。今後の展開には、引き続き注意深く注視してゆくことが必要だ。


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