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2023年05月24日
No.10003512

特集 生産性向上のためのデジタル活用
成果を上げるデジタル利活用【後編】
マーケティング視点のデータ利活用のスキル

「AIやクラウドの仕組みを知って業績が上がるのか?」と思うホール関係者もいるだろう。より現実味を感じられるのは、営業にどうつながるのかということ。つまり、マーケティング視点からのデータ利活用だ。

前章で、日本ではDX人材育成への投資が足りないことがDXの成果がでない大きな要因だと説明した。同様のことはいくつもの調査が結論付けており、総務省の『デジタルデータの経済的価値の計測と活用の現状に関する調査研究』(2020)の中でも、「ビッグデータ活用は製造業、サービス業ともにイノベーション創出にプラスに有意であり、従業員の学歴、ITスキルへの投資によって企業を『高・低』グループに分けた場合、ITスキルへの投資が『低』の企業では、ビッグデータ活用の効果が出ていない」と先行調査の結果が紹介されている。

総務省が国内企業を対象におこなったこの調査研究(大企業886社、中小企業1117社から回収)では、「マーケティング領域でデータを活用している」とした企業を、効果があった企業と効果がなかった企業に分け、その取り組みの差異をさまざまな角度から探っている。注目したいのは、分析手法、活用しているデータの入手元、データの組み合わせ方の3つだ。

ひとくちに「データを分析している」と言っても、そのレベルには差異がある。データを閲覧している企業、データを集計している企業の割合は、データ活用の効果があった企業もなかった企業も同水準だ。しかし、「統計的な分析」をしている企業の割合は24ポイントも差があった(図⑥)。効果があった企業の69%は統計的な分析をおこなっているが、効果がなかった企業では45%にとどまった。これがリテラシーの差異だ。


活用しているデータはどこから入手したものか。社内のデータを活用するのは当然として、「外部データを購入している」企業の割合に差異があり、データ活用の効果があった企業ほど社外のデータを購入している。適切な判断材料が多い方がマーケティング上の意思決定の精度が高いのは当然のことだ。

リテラシーがなければデータを利活用できない

これを裏付けるように、データ活用の効果があった企業ほど複数のデータを組み合わせて分析している。表現を変えれば、効果が出ていない企業の多くは、1種類のデータを単独で分析しているということ。これもリテラシーの差異によるものだ。


マーケティング領域でのデータ活用で犯しがちな間違いが、「データがあるからそれを分析してみる」というスタンスだ。正しい姿勢は、「○○○というマーケティング課題を解決するためには、どのようなデータが必要だろうか」を検討したうえで、その一部が社内にあれば、「これだけでは十分でないが」と認識しつつ分析に活用することだ。不足しているデータは、産業データを購入したり、独自に市場調査をおこなうなどして入手する必要がある。〔PPDACサイクルを参照〕

たとえばパチンコホールなら、日々入手している遊技機稼働データは、全体・部門別・機種別とさまざまなブレイクダウンで分析しているはずだ。だが、解決しようとしているマーケティング課題によっては、顧客について遊技履歴(行動データ)以外の情報、すなわち満足度、推奨意向度、選好理由などの意識データを入手しなければ、有効な施策を立てられず効果も測定できない。それゆえ、必要なデータの入手の仕方、分析の仕方、判断の仕方の知識も必要になる。

では、人材育成は何から着手するべきか。経済産業省が2022年3月に定めた「DXリテラシー基準」が目安になる。DXリテラシーを身に着けるために学ぶべき学習項目は、社会変化の中で新たな価値を生み出すために必要な「マインド・スタンス」のほか、「DXの背景」、「DX推進で活用されるデータ・デジタル技術」、「データ・技術の活用」に大別されている。この「DX推進で活用されるデータ・デジタル技術」に関する知識として例示されている内容が左の図だ。

実際にはマーケティング領域でのデータ活用は、多くの社員にとって、システムを「作る」ためよりも、「意思決定支援」のためだ。よって、ビジネスを推進するビジネス基礎力とデータ分析力こそが身に着けるべきスキルセットになる。DXリテラシー標準に照らし合わせると、「データを読む・説明する」「データを扱う」「データによって判断する」の項目の習得が優先事項になる。


現在の小学校の学習指導要領では、グラフ化したデータを読み取る学習は第5学年の算数から始まり、第6学年では資料の代表値(平均値)、度数分布やそれを視覚化したヒストグラムを学んでいる。度数分布を学ぶなかで「散らばり」を学ぶことになっているが、これが中学校で「分散」や「標準偏差」を学ぶ際の土台になる。下図は、パチンコ遊技者の1日あたりの平均投入金額を、「棒グラフ」と「ヒストグラム」にしたものだ。印象はかなり異なるはずだ。

いまから小学校の算数の教科書を読み返しても冗長すぎるので、ビジネスパーソンは、データ利活用について中学〜高校の学習範囲までが整理された『統計検定4級・3級』のテキストを研修教材に使うのが効率的だろう。

これらデータに関する知識をPPDACサイクルの中で使ってマーケティング上の課題の解決に取り組むなら、必然的に、顧客を起点に考えるマーケティング思考法、ロジカル・シンキング、仮説思考法、問題解決プロセスなどの習得も必要だと気付くはずだ。


※『月刊アミューズメントジャパン』2023年5月号に掲載した記事を転載しました。


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