No.10002876
企業力を向上させるソリューション①
あの会社はなぜ採用できるのか?
欲しい人材の要件定義、採用担当者の熱量・決定権がポイント
コロナ禍では人材採用を抑制した企業が多かったため採用しやすい環境にあった。だがすでに人材が動き出しホール企業の採用意欲も高まっている。ホール業界に特化して総合人材サービスを提供するパック・エックスの中村祐希営業部長に、採用のヒントを聞いた。[文中敬称略]
新卒採用 インターンシップが欠かせない
──新卒採用の状況について教えてください。
中村 22年卒に関しては、他のサービス業、レジャー業が採用を抑制していたため、新卒採用をしていたホール企業は例年よりも採用しやすかったはずです。さらに言えば、説明会のオンライン化で採用コストも下がった。23年卒の採用人数は増えます。新卒採用を中断したホール企業が再開し、10数年ぶりに新卒採用を復活させようという企業も見受けられるからです。もうひとつ、業界特有の事情と言えそうなのが、後継者の年代です。いま専務や事業部長などのポジションにいる若手の後継者が、世代交代の準備として将来の幹部候補の採用に着手するケースがあります。ただし、学生数が毎年1万人ずつ減っているという流れに変わりはなく、他業界も採用を復活させますから、23卒の採用は当然ながら難しくなります。
──採用する学生の質を求める傾向を強めた企業もあると聞きます。質とは何を指すことが多いのでしょう?
中村 何をもって人材の「質が高い」としているのか、定義されていない企業がほとんどです。採用担当者が、「ポテンシャル高そう」「コミュ力高そう」「見た目がいい」という印象を重視して採用することを否定はしませんが、それとは別に求める要件があるなら、それを明確化する必要があります。なぜならば、「そのような学生は何を求めているのか?」に基づき、逆算して採用プロセスのコンテンツを用意し、トークのストーリーを組み立てるのが採用の定石だからです。求める人材の要件が定まっていないということは、採用するための戦略が立てられていないということなので、採用の質が高まるとは考えにくいのです。
──ホール業界でもインターンシップ開催が広まっています。採用には欠かせませんか?
中村 新卒者を4人~5人以上採用したい、学生を選びたい、ということであればインターンシップを実施しなければならない状況です。インターンシップをやらないと、学生に自社を認知してもらう大きなキッカケをひとつ失うことになります。
──インターンシップのコツはありますか?
中村 23卒、24卒の学生と接していて感じるのは、反応の薄さです。丁寧にレールを敷いて、彼らが腹落ちする意味合いを添えてあげないとインターンシップ募集に反応してくれないでしょう。そして、参加してもらった学生に対して、どのような魅力を作るか、選考中にその魅力をどうやって高めていくかを計画しておくことが重要です。すぐに店舗見学をさせたり遊技させたりするケースを見受けますが、「いま学生がそれを求めているフェーズにいるのか」ということを考えなければなりません。学生は就職先を検討するときに、まず「どういう業界がいいだろうか」「どういう職種がいいだろうか」と大きな枠から入り模索します。絞り込むフェーズに進むと「一緒に働く人はどんな人だろう」「実際の労働条件や福利厚生は」といった部分へと、関心がマクロからミクロへと変化していきます。内定出しにつなげるためには、フェーズごとに何をするのかを整理しておくことが重要で、学生がいるフェーズに応じて効果的なコンテンツや会話を挿し込むのです。学生が企業を選ぶフェーズになったら、「なぜ自社に決めてくれないのか」という阻害要因を読み解き、その不安払しょくに時間をかけなければなりません。
中途採用 必要な能力を持つ人材を求める
──中途採用の状況は?
中村 キャリアの中途採用についても、いまは明確に採用意欲が戻っていますし、人も動いています。要するにコロナ禍に少なかった離職が、再び増え始めているということです。動き出した人の中には、コロナ禍に自社の従業員やお客様への対応を見て見切りをつけていたという人が少なくありません。同時に、「ぜひあの企業に転職したい」と明確な希望をもって登録してくる方も増えました。感覚値ですが、企業側は「ポストに空きがでたから」ではなく、「必要な能力をもつ人材が社内にいないから」という採用へのシフトの兆しを感じます。旧規則機の撤去やコロナ禍が重なり、既存の店長や副店長が持つスキル、従来の営業スタイルでは、稼働をつけるのがますます難しくなっています。これまで経験したことがない環境変化が起こっている中で、企業は「この状況に対応できる人材が社内にいないなら外部から登用しよう」と考えはじめたのです。企業のご相談に乗っている中で、課題が整理されていき、「業績回復の打開策がないということは、社内に何かが足りない。足りないものを洗い出し、それを満たせる人材を探そう」という流れになるケースが増えてきました。このように求めるスキルが明確になっているケースほど、求人広告を使った募集ではなく、人材紹介で探すことが多くなっています。
人事に決定権がないと人材を惹きつけられない
──必要な人材を採用できる会社とそうでない会社には違いはありますか?
中村 採用予算の話はいったん置くとして、採用したい人材像が明確になっていることと、採用担当者が熱量と責任感と決定権を持っているホール企業は採用できています。採用担当者自身が、何のために採用するのかを理解していて、「会社をこういうふうに良くしていきたい、だからあなたに来てほしい」という思いを持っていると、新卒採用でもキャリア採用でも、内定を出した人材から辞退されるケースが非常に少ない。逆に、採用担当者の方が上(経営者や役員)から言われたことをやっているという感覚では、人材を惹きつけられません。採用担当者に決定権がないと、なぜこの人材を採用するのかという背景理解も浅く、数の確保が目的になりがちです。決定権と責任感があると選考のフローも変わるし面接の質も変わります。一例を挙げれば決定権のない担当者は、自分が決定できないため無駄に多くの面接を設定したりします。
──採用したい人材像が明確になっていないと決定できませんね。
中村 はい。「当社はこういう課題があるからそれを解決するためにこういう人材が必要」という要件が定まっていなければ、採用担当者は決定できないし、採用後の活躍にも責任を持てません。数合わせではなく、会社にとって必要な人材を採用できている会社では、採用したい人材について、経営者とはもちろんのこと営業部門ともしっかり擦り合わせをしています。「なぜ当社は必要な人材をなかなか採用できないのか」と思っている経営者の方には、採用の体制を見直していただきたい。熱量を持っている方に採用を任せているでしょうか。極論すれば、「採用はどうやるのかではなく、誰がやるのか」です。そして採用の権限を委譲するのです。そのような体制になれば、必要な人材をいま以上に採用できるはずです。
※『月刊アミューズメントジャパン』2022年6月号に掲載した記事を転載しました。