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2026年10月05日
No.10005435

「顧客」を「ファン」に変えるには?|推し活に学ぶ、選ばれ続ける企業のつくり方

「顧客」を「ファン」に変えるには?|推し活に学ぶ、選ばれ続ける企業のつくり方

好きな人物やキャラクター、作品などを応援する「推し活」が、幅広い世代に広がっている。市場調査会社のクロス・マーケティングが2026年6月、全国18~79歳の男女3000人を対象に実施した調査では、推し活をしている人は全体の48%。18~29歳では64%、30代では60%に達した。

推し活というと、グッズ購入やイベント参加などの消費額が注目されやすい。しかし企業にとって考えるべきなのは、ファンが「好き」という感情を起点に商品を買い、体験し、ときには周囲へ発信しながら、その対象との関係を続けていることだ。

商品を一度買ってくれた人を、どうすれば繰り返し選んでくれる人に変えられるのか。新規客を獲得するだけでなく、長く支持してくれるファンを増やすことは、店舗やメーカーを含む多くの企業に共通する課題だ。推し活で見られる消費行動から、顧客がファンに変わる過程を考えてみたい。


「推し」が知らなかった企業との接点をつくる

ファンの強い関心は、これまで接点のなかった商品や企業に目を向けるきっかけにもなる。マーケティングリサーチを手掛けるエクスクリエが2026年、全国の15~69歳を対象に実施した推し活調査では、好きな人物やキャラクターなどと企業が組んだ商品やサービスを購入・利用した経験がある人は、VTuberのファンで62.1%、アイドルで59.3%、ゲームキャラクターで59.2%、漫画・アニメキャラクターで58.9%だった。好きな対象とのコラボレーションをきっかけに、商品や企業との接点が生まれている。

さらに興味深いのは、コラボ商品を購入した後の行動だ。同じ調査では、その後にコラボ先の企業やブランドの商品を再び購入した経験がある人が、ほとんどのジャンルで約7割に達した。VTuberのファンでは83.3%だった。商品を飾ったり保管したりするだけでなく、購入したことや商品の写真をSNSに投稿するといった行動も確認されている。

この結果だけで、コラボレーションが再購入の原因になったと断定することはできない。もともとその企業を利用していた人が含まれている可能性もある。それでも、好きな対象をきっかけに商品を買い、その後も企業との接点が続いている人が一定数いることは確認できる。

企業側から見れば、重要なのはコラボ商品の売上だけではない。「推しをきっかけに初めて商品を買った人が、その後も企業を選んでくれるか」まで見て初めて、ファンとの接点が企業自身の顧客づくりにつながったかを判断できる。



人はなぜファンになるのか

では、人はどのような過程を経て企業や商品を好きになり、繰り返し選ぶようになるのか。広告会社の電通は2026年4月、SNSや通販サイト、インターネット上のコミュニティなどに投稿された消費者の声を人工知能(AI)で分析し、企業や商品ブランドのファンが生まれる過程を調べる仕組みを社内で本格運用し始めた。企業に対する評価だけを見るのではなく、ファンが「なぜ好きになったのか」をたどることを目的としたものだ。

電通が分析しているのは、大きく分けると四つの要素だ。最初に、その企業や商品に引きつけられた理由を見る。次に、実際にファンになるきっかけとなった体験を探す。そのときにどのような感情が動いたのかを確認し、最後に本人が企業や商品についてどのように人へ語るようになったかを見る。

この考え方から分かるのは、購入回数が多い人をそのまま「ファン」と考えるだけでは不十分だということだ。例えば、価格が安いから繰り返し利用している人と、「この会社の商品が好きだから」と積極的に選んでいる人では、同じリピーターでも企業との関係は異なる。後者では、商品やサービスを利用した体験に何らかの感情が結び付き、それが次の購入や人への紹介につながっている可能性がある。



ファンづくりは「何をやるか」から始めない

企業がファンを増やそうとすると、SNSを強化する、イベントを開く、会員制度をつくるといった施策に目が向きやすい。しかし、それだけでは「なぜその施策でファンが増えるのか」という説明が抜け落ちる。

先ほどの電通の考え方に沿えば、順番は逆になる。最初に確認すべきなのは、すでに自社を繰り返し選んでいる人が、何を評価しているのかだ。商品の品質なのか、接客なのか、店の雰囲気なのか、企業の考え方なのか。次に、その人が自社を好きになるきっかけになった具体的な体験を探す。初めて商品を使った瞬間かもしれないし、従業員とのやり取りやイベントへの参加だった可能性もある。

その体験の中で、何が本人の感情を動かしたのかまで見ていく。「楽しかった」「自分のことを分かってくれていると感じた」「この会社を応援したいと思った」といった気持ちが生まれていれば、その理由を別の顧客にも提供できないかを考えることができる。ファンづくりとは、ファン向けの施策を増やすことではなく、自社を好きになる理由と、その理由が生まれる体験を見つけることから始まる。


「来てもらう理由」と「また選ぶ理由」は違う

この違いは、店舗を運営する企業にも当てはまる。広告やキャンペーン、新商品は、まだ利用したことがない人に店を知ってもらうきっかけになる。値引きや特典も来店理由になり得る。しかし、それによって一度来店した人が、次も同じ店を選ぶとは限らない。

新規客を集めるために必要なのは「来てもらう理由」であり、ファンを増やすために必要なのは「また選びたい理由」だ。この二つを同じものとして考えると、広告やキャンペーンによって来店者数は増えても、その施策をやめた途端に客が戻らなくなる可能性がある。



パチンコホールを例にすれば、新台導入や広告を見て初めて来店する人はいる。その後、その店を繰り返し利用するかどうかは、新台の有無だけでは決まらない。設置している機種、遊技する環境、従業員との接点、店舗から発信される情報など、来店後のさまざまな体験を通じて「またこの店を選びたい」と思える理由が生まれるかが重要になる。

遊技機メーカーにも同じことが言える。アニメやゲームなどの作品やキャラクターを使った遊技機は、その作品が好きな人に遊技機を知ってもらう入口になる。しかし、その一台を遊技してもらうことと、メーカーそのものを好きになってもらうことは別の段階だ。作品への関心をきっかけに接点を持った人が、次にそのメーカーが出す機種にも関心を持つようになれば、初めて一つの接点が継続した関係へ変わっていく。


ファン同士の行動が、新しい顧客との接点になる

推し活には、もう一つ企業が参考にできる特徴がある。ファンが自ら情報を発信することだ。エクスクリエの調査では、推しとのコラボ商品を購入した後に、商品の写真や購入したことをSNSへ投稿する行動が確認されている。企業が広告を出したわけではなく、商品を購入したファン自身が情報の発信者になっている。

企業のファンでも同じことが起きる可能性がある。利用した店舗について人に話す、商品をSNSで紹介する、知人に薦める。そうした行動が起きれば、一人の顧客との関係が、その人の周囲にいる新しい顧客との接点にもなる。



ここで重要なのは、企業側が「SNSに投稿してもらおう」と考えることではない。なぜ本人が誰かに話したくなったのかを見ることだ。印象に残る体験や、人と共有したくなる理由があったからこそ、発信という行動につながったと考えられる。ファンづくりでは、購入や来店を最終地点とせず、その後に「誰かに話したくなる体験」があったかまで見る必要がある。


「売れた」「集まった」の先を見る

推し活から企業が学べるのは、熱心なファンほど多くのお金を使うという単純な話ではない。好きな対象をきっかけに商品を知り、購入し、その体験を人に話し、再び商品を買う。企業から見れば、ファンの存在によって一回の取引で終わらない関係が生まれている点に意味がある。そのため、企業がファンづくりを考える際には、見る数字も変える必要がある。

キャンペーンで何人集めたか、商品がいくつ売れたかは重要な数字だ。しかし、その後に何人がもう一度利用したのか、どれだけ継続して商品を買ったのか、人に薦めたり情報を発信したりした人がいたのかまで見ることで、施策が一時的な集客だったのか、継続的な関係づくりにつながったのかを判断しやすくなる。

推しとの企業コラボを経験した人の多くが、その後も企業やブランドの商品を購入していたという調査結果は、その構造を考える一つの材料になる。顧客をファンに変えるための決まった方法があるわけではない。企業によって、支持される理由も、感情が動く瞬間も違う。

だからこそ、最初に見るべきなのは他社の成功事例ではなく、自社をすでに選び続けている顧客だ。その人は、なぜ自社を選び続けているのか。最初に気持ちが動いたのはどの体験だったのか。人に話したくなる理由は何だったのか。

そこを理解できれば、新しい販促施策を考える前に、自社が持っている「ファンが生まれる理由」を見つける手掛かりになる。推し活で見られる消費行動は、商品を繰り返し選ぶ背景に、好きになる理由や体験の積み重ねがあることを考える材料の一つになる。


文=アミューズメントジャパン編集部

【参考資料】
・クロス・マーケティング「推し活など余暇行動に関する実態・意識調査(2026年6月定点ココロスタイルリサーチ)」(2026年6月25日)
・エクスクリエ「推し活実態に関する調査(2026年)」(2026年6月30日)
・電通「企業やブランドのファンが生まれるまでの過程をAIで可視化する『ファンAIリサーチ ブランド』の本格運用を開始」(2026年4月9日)


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