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2019年04月26日
No.10001159

マカオ大学 工商管理学院 国際統合型リゾート管理学
INTERVIEW グレン・マッカートニー教授
IR/カジノの学術研究は産・官に何をもたらすのか?

マカオ特別行政区では2001年にカジノライセンスが開放されることが決定した。1社独占体制が終わった後のカジノ産業はどのような姿に向かうべきなのか、大学の研究者たちによるカジノ産業の学術研究が本格化した。そして今、マカオ大学の知見はアジアをリードする存在になっている。
マカオ大学 工商管理学院で「国際統合型リゾート管理学」を教えるグレン・マッカートニー教授(Prof. GLENN McCARTNEY)に大学の役割を聞いた。
(聞き手=田中剛・編集部)

──マカオ大学は2013年からアジア太平洋地域の上級ビジネスエグゼクティブを対象として短期集中講座(GLDP)を開催していて、マッカートニー教授は昨年7月に来日し、佐世保市で講義を行っていますね。
G.M. 長崎のことはよく覚えています。マカオ大学の特別プログラムは海外ではシンガポール、ソウルなどで開催されていましたが、日本での開催は昨年が初めてでした。日本でのIRの関心の高まりを感じました。今年7月はいよいよ東京での開催になります。日本に誕生するIR産業について理解を深めたいビジネスパーソンの参加をお待ちしています。

Tourism & Hospitality Professional, Consultant & Executive Trainer
Associate Professor in International Integrated Resort Management,
University of Macau


──今年、マカオ大学の工商管理学院(経営マネジメント学部)には、国際統合型リゾート管理学という学科が設けられました。これは何を意味しているのでしょうか?
G.M. 当初マカオ大学に設置されたゲーミングに関連した課程(Program)は「ゲーミング管理学」でした。その後、課程の名称は「ホスピタリティ&ゲーミング管理学」になり、「国際統合型リゾート管理学」になりました。そして今年3月に政府はこの課程を学科(Department)に格上げすることを認可しました。現在、「国際統合型リゾート管理学」という専門課程と独立した学科を有する大学は世界でも本学だけでしょう。これを取ってみても、政府がマカオのコタイ地区にいかなる学術サービスの提供を期待しているかがよくわかると思います。

──もはや「ゲーミング産業」という捉え方ではないわけですね。
G.M. IR事業者は、膨大な数の宿泊設備、商業店舗、レストラン、イベントエリア、展示会議センター、劇場、カジノをひとつの施設内に有しています。さらにそれは一般客用とプレミア客に分けて管理されています。学術面からも、それらすべてを網羅し、広い視野を持って理解しなければなりません。従来のホスピタリティ&ゲーミング教科群に、IR産業に沿って観光学を再配置したのは、IR産業は、観光学の文脈で理解しなければならないと考えたからです。IR管理学には、カジノ管理学以外に、イベント、エンタテインメント、会議展示などの管理学が存在します。それらがいかに補完的機能を果たすか、さらにこれら複合要素がIR施設全体のブランディングをどう実現していくかといったことを継続して調査分析していかねばなりません。

──マカオで本格的な学術研究が始まったのはいつ頃なのですか?
G.M. STDM社によるカジノ事業の1社独占体制を終えることを政府が決めたのが1999年です(カジノライセンスの入札が行われたのは2002年)。それと同時に、政府は若手の研究者たちを海外に派遣しました。研究分析対象はアメリカや韓国に限らず世界全体で、カジノ施設・企業はもちろんのこと、各国の行政です。カジノ税制、カジノ入室制限制(自国民、外国人の扱いの違いも含め)、入場料の設定、ギャンブル依存症対策、社会経済への影響分析等々。そして2003年にはマカオ大学内に「カジノ研究所(博彩研究所)」が設立されました。しかしその頃はまだカジノ産業としての研究であり、観光学としての研究は始まっていなかったように思います。



IR企業で働く社員に高度な教育を提供

──そういったことは大学に託されたのですね?
G.M. 大学には調査研究機関としての役割があります。IR業界向けには、業界内外におけるサーベイ統計収集や処理、検証ベースの分析などを行い、IR業界の戦略決定に寄与しています。そして、観光行政における政府への提言機能もあります。我々はちょうど公的部門と私的部門の間にあって、架け橋的役割を担っています。第二の役割がもちろん、教育・人材育成機関です。マカオ大学工商管理学院では大学の学部と大学院の両方のレベルにおいて、IR産業の管理職となる人材を育成しています。IRとカジノについての、学科、教科、コースを持ち、学生のIR産業の理解をサポートしています。さらにIR業界で働いている社会人を対象にしたコースにまで教育プログラムを高度化し、教育の領域を拡大してきました。

マカオの5つ星カジノホテルで営業マーケティング、広報宣伝の部長を務めた後、大学の専任教員に。
カレッジで教える傍ら、ラスベガス、韓国、アトランティックシティなどのゲーミング法治体制について研究しマカオ政府に提言。2010年よりマカオ大学で教鞭をとっている。


──私が参加したマカオ大学の集中講座(GLDP)の参加者の大半は、IR事業者で働く30代の社員でした。中にはF&B部門で働きながら修士コースに通っている方もいました。IR産業を俯瞰して理解し、仕事の領域を広げたいと言ってました。
G.M. そういう学生は昇進していきます。もう1点、我々の課題はアジア全体のIR産業の発展に沿って研究しそれを学生に教えています。マカオのIR産業を目指す学生ばかりではありません。学生は7~8カ国から集まってきています。

──日本では、大学がIR産業の高度な専門人材の育成を担うことになるかわかりません。
G.M. 日本を訪問して私が感じたのは、日本のホスピタリティ産業の、ホスピタリティの表現が極めて伝統的ということでした。これは日本の、「おもてなし」や「細部にこだわる気配り」、という、独自性の体現という点では非常に重要なことです。一方で、IR産業にはある特徴があります。それはホテルの規模が数百室から1000室超へ拡大するといった、「規模的上昇」です。IRに内包される施設や機能は非常に多くなります。かつそれらが相互に連携して24時間稼働しています。宿泊特化型のホテルや旅館単体のマネジメントとは大きな違いがありますので、産業界は大きなマインド・シフトが必要になると思います。大学などの研究・教育機関では、既存の観光学の研究領域を広げる必要があるでしょう。

   ◇   ◇   ◇

[NOTE] イギリスの高等教育専門誌「THE(Times Higher Education)」が昨年発表した「THE世界大学ランキング」では、81カ国1102校の順位を公表している。マカオ大学は「351-400位」に位置で、これは日本の九州大学と同位。ホスピタリティ&レジャー・マネジメント領域に限ると、マカオ大学のランキングは世界46位にランクする。

[NOTE] ビジネスパーソンを対象としたマカオ大学の「国際統合型リゾート管理学」の特別講座(GLDP)」は今年7月に東京で開催予定。詳細は5月13日に公表される。

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