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2025年07月28日
No.10004922

世界基準でNEXUSを高みへ|星野万里社長インタビュー

世界基準でNEXUSを高みへ|星野万里社長インタビュー

INTERVIEW
NEXUSホールディングス
星野万里 代表取締役社長


7月7日に創業30周年を迎えたNEXUS(ネクサス:群馬県高崎市)。『Dʼステーション』ブランドのホール店舗数は現在全国で68を数え、売上規模でもホール業界3位にまで上りつめた。その同社が30年の節目にグループのトップ交代人事を発表した。新社長の星野万里氏は現在33歳。世界基準のビジネス感覚でグループの更なる成長に向けてアクセルを踏む。

英国留学で社会科学を学ぶ

星野万里新社長は1991(平成3)年生まれ。群馬県沼田市でNEXUSの創業者であり現代表の星野敏氏の長男として生を受けた。『Dʼステーション』の1号店が沼田市にオープンしたのは星野社長が4歳のときだった。

「当時は創業して間もなく、家族で店舗の2階に住んでいました。お客様が開店前に列をなして並んでいる状況を2階の窓から見ていた記憶があります。いまでは考えられませんが、当時は家に帰るまでにお店の中を通らなくてはなりませんでした(笑)。よく事務所で従業員の方に遊んでいただきました。いまでも沼田店に行くと懐かしく思いますね」

高校までは地元の学校で学び、その後イギリスに留学した。

「中学、高校時代は、自分の思っていることを話せなかったり、人と違った考えを持っていると否定されたりすることが多く、日本の学校が好きになれませんでした。であれば思い切って海外の大学で新しいことを学びたいと思ったんです。アカデミックで学問的な素養があった母方の伯父の影響で、社会科学的な学問を勉強してみたいと思っていました」

イギリスで門を叩いたのは名門ブリストル大学。同校の政治・国際関係学部を首席卒業後は社会科学系の研究で名高いロンドン・スクール・オブ・エコノミクスの大学院に進学した。

「経営や経済を学ぶというよりも、経済思想や政治哲学に関心があったので西洋思想史などを研究していました」

大学院の卒業を間近に控えて考えなくてはならなかったのが、その後の進路だった。第一希望は大学に残って博士課程に進む道。大学院の教授の何人かに相談すると、みなが「学問の世界は面白いからいいじゃないか」と背中を押してくれた。ところが、一番尊敬していた恩師に「君はビジネスをやったほうがいいよ」と言われて方針を転換。実業の世界に進むことを決めた。父親である星野敏代表は、それまでも含めて進路を決める際に一切口を挟まなかったという。

「父が何かを強要するようなことは一切ありませんでした。何を勉強しているのかを聞かれたこともなく、好きなことをやれと。そうして好きなことをやらせてもらえたことに感謝の気持ちがあったので、NEXUSで仕事をすることを決めました」

帰国後は大手遊技機メーカーに入社した。

「NEXUSで働くなら、まず業界のことを知ることが必要です。であればホール経営をする上でメーカーの視点から勉強させていただいたほうがいいのではないかと思ったからです。2年間在籍してこの業界の基本的な知識を身に着けさせていただきました」

メーカーを退社した2022年にNEXUSに入社。その後はNEXUSグループのさまざまな事業展開をつぶさに見てきた。2023年からは海外事業もスタートさせた。

そしてこの7月、星野敏氏の指名を受けてNEXUSホールディングス株式会社とNEXUS株式会社の代表取締役社長に就任した。

以下は星野新社長への一問一答。



リミナルな産業が発展していく可能性がある

──NEXUSグループの代表に就任したいまの心境を聞かせてください。

星野 これだけの売上高があり、社員数も多いグループのトップですから、とても身の引き締まる思いです。

──パチンコ・パチスロ産業についてはどんな印象を持っていますか?

星野 とてもリミナル(Liminal)な産業で、日本社会の周辺部に位置する面白い事業分野だと思っています。「リミナル」とは「境界的な」「曖昧な」といった意味で使われて、どちらともつかない状態を指すことが多い言葉です。パチンコ業界は酒造業界やたばこ業界、一部のエンターテインメント業界などと同様に、「汚れ」と「神聖さ」の二重構造の中に位置しています。例えばお酒は、神聖な儀式に使われることもあれば社会的に問題を引き起こす悪いものだという扱われ方もします。賭け事も同じで、例えば神聖な儀式での運試しという目的で使うこともあれば、賭け事は悪だとして扱われることもある。汚れと神聖さのどちらにも属していないにもかかわらず、どちらにも触れている、そういう産業だという認識です。

──パチンコ・パチスロがリミナルな産業であることは何を意味しますか?

星野 都市構造的にすごく重要な産業であると言えます。パチンコホールは都市空間にあるノイズです。そこが社会の中心と周辺を結ぶ役割を担っている。職場と家庭とは異なる第三の空間で、匿名でレジャーに没頭できる。そこで遊んでいる間だけは嫌なことや不安を忘れて、気持ちをリフレッシュできる。そういう空間であることは、社会的意義があるインフラだということです。パチンコは法的にはギャンブルではありませんが、お酒やたばこなどを含めたリミナルな産業は、負の経済圏というイメージを持たれがちです。でもその境界線上にあるものが新しい価値を生み出すこともあるんです。古い例で言えば啓蒙時代の奴隷解放運動。最近で言えば性的マイノリティの権利保障など。その結果、それまではリミナルな立場だった人たちが、いまでは社会の中心で活躍しています。日本でも今後、リミナルな産業に対する価値観や秩序が再構築されて、パチンコが社会から認められるようになり、正の経済圏として発展していく可能性がある。そんなふうに考えています。

──リミナルな産業は、社会に欠かせない存在ということですか?

星野 はい。結局、リミナルな産業は人間社会と切っても切れないのです。そうした中間領域に存在するものに対して、人間は嫌悪感を抱いたり、もしくは憧れを抱いたりするんですね。例えばアウトサイダーやアバンギャルド芸術の神聖化といった事象が当てはまります。その意味では、パチンコ産業も社会の中心と周縁をつなぐ駆け橋となり、さまざまな人を受け入れる素地のある社会的インフラといえるのではないでしょうか。


事業のポートフォリオの多様化を進める

──パチンコが生まれてもうすぐ100年、パチスロも50年を迎えます。ファン人口は年々減少していますが、今後も産業自体がなくなることはないのでしょうか。

星野 社会も変わっていきますし、娯楽の形態もどんどん変わっていくものです。ただ、本質的なところで人間は変わらないので、絶対にリミナルな産業は残ると思います。当然、人口減少とともに市場は縮小していくでしょう。でも、過去の他産業の例で共通しているのですが、業界内でトップ5に残っている企業であれば、その業界で生き残ることができているんです。この先も業界が縮小していくのであれば、トップ5に残って確固たる地位を築くことができる。それはすごく大きなチャンスだと思っています。ですから私は、現在の業界を取り巻く状況をまったく悲観的に捉えていません。むしろチャンスだと思っています。今後、当社はこれまで通りM&Aを繰り返して事業拡大を図っていきます。当然、競争環境は今後も間違いなく厳しくなるでしょう。そこで生き残っていくためには従前のやり方では通用しないところもあります。だからこそ、社会の変化に対応して、革新を積み重ねて、競争力を強化していく必要がある。パチンコホールは今後も絶対に地域に必要な社会インフラであり続けます。そこでしっかり安心して遊べる環境作りをしていくことは、施設を運営する側として必要な、当然持たなければならない責任だと思っています。

──NEXUSグループの今後の事業展開についてはどういう考えですか?

星野 まずは日本においては引き続きパチンコ事業を軸に温浴施設やフィットネス、飲食事業などで成長を続けること。それに加えて事業のポートフォリオの多様化を進めていきます。そのために私のスキルや強みを生かせるのが海外事業だと思っていますので、今後の多角化は海外での事業を中心に進めていきたい。海外といっても、エリアに関して地域を限定しているわけではありません。これまでにやってきた事業はむしろ欧米諸国が多いのです。例えばロンドンでの不動産投資及び不動産開発事業、スコットランドのホテル2件に対する事業への投資、アメリカでの不動産向けの短期融資事業などです。

──多岐に渡っていますね。

星野 海外事業の今後の展望として考えているのが知的財産、いわゆる産業技術や情報技術に関するIPへの投資です。ここを中心に考えようと思っています。世界各国の研究機関が開発しているテクノロジー系の知的財産への投資によって、短期間で事業を世界レベルまでスケールアップすることができる可能性があります。スケールアップのしやすさという意味で、IPはすごく面白い分野ですね。

──パチンコ事業を見ながら、海外事業もやっていく?

星野 もちろんです。事業の多様化に関しては海外での事業を中心にして、国内に関しては既存のパチンコホール事業をより強くしていく。当然、そのためには組織改革が必要です。今までの出店戦略は売上高重視でしたが、今後は必ず利益を出す出店をしていきます。そのためには会社の利益体質を改善しなければなりません。絶対に利益を出せるしっかりしたお店を少数精鋭で作っていく方針です。人材の適材適所の配置も今後は進めていきます。


新しい価値観や発想をどんどん取り入れていく

──社内的な改革も進めていく考えですか?

星野 考えているのは従業員のスキルの底上げです。これまではパチンコホールで通用する人材を中心にイメージしていました。でも今後は実業界のビジネスパーソンとして、よりスキルを底上げしてもらいたい。当然、外部から優秀な人材を迎えることも考えていて、すでに海外事業では優秀なメンバーを外部人材で揃えています。国内事業に関しても今後はパチンコ事業以外の異業種で業績を上げている人をしっかり採用して、会社としての経営基盤を固めていきたいと考えています。

──国内のパチンコ事業で利益を出して、海外事業でも利益を出せれば盤石になりますね。

星野 はい。そういうイメージです。事業ポートフォリオの多様化によって、リソースを補い合えるのでリスクヘッジにもつながる。そういう体制にしたいと思っています。海外事業に関しては誰かに任せるのではなく、とにかく私が最前線に立って営業もやります。パチンコ事業に関しては、これまでの30年間で培ったノウハウと経験が、貴重な資産として社内にありますから、盤石の組織体制は構築できていて、実務は信頼できる役員や現場社員に仕事を任せられると思っています。

──入社してからこれまで現場を見てきて、今後はどんな改革が必要だと考えていますか?

星野 これまで私が必要性を感じた部分は、社内の風土を含めて今後改革していきます。国内事業に関してはしっかり筋肉質の組織作りを行っていきたい。これまでは年功序列や体育会系の縦割り風土でしたが、私が入社してからは組織改革を推し進めてきて、ようやくフラットな組織になってきました。言いたいことがあれば、しっかり意見を言えて、年齢ではなくてスキルや本人の意欲と実績だけ見てしっかり評価する。頑張って成果を出している社員を正当に評価できる仕組み。こうした公平な組織作りを進めていきます。なおかつ、自分にはこんなスキルがあるとか、こんな事業に挑戦したいという思いがあれば、登用できる人材はどんどん登用していきたい。今後は本社機能をしっかり強化する必要があるので、本人の意欲と能力に応じていろんなキャリアパスを用意したいと考えています。

──お話を聞いていると、パチンコを軸とした「新しい企業」が生まれたのかなと思ってしまいます。

星野 まさにその通りです。パチンコは当然、今後も会社の軸として存在するんですが、よりその幅を広げて、やりたいことができる、すごく面白い会社になります。いまはまだその途中ですが、本当に意欲がある社員には、成長できる環境をしっかり整えてあげたい。実際に今、会社がだんだんとそういう方向に向かいつつあると実感しています。

──星野敏代表はこうした改革に対してどういう考えをお持ちでしたか?

星野 当然、いろんな考えがあると思います。経営者は自分がやってきたことが正しいと思っているでしょう。ただ、そこに固執していても社会の変化には対応しきれないと思うので、変革が必要だということは多分に感じていたと思います。その変革を担う人間として、私が次の代表として認めてもらったというところはすごく感謝してますし、責任を感じると同時にやりがいも感じています。私自身、自分で大丈夫なんだろうかという葛藤もありました。ただ、会社としても変わらなくてはならない時期です。私が変革を担う人間として、今後は先陣を切っていく。その覚悟は持っています。緊張や不安も当然あるんですが、それ以上にワクワクするところが大きいですね。

──事業を継承するというより、敏腕ビジネスパーソンがホール企業の社長に就いたという印象です。

星野 私はこれまで会社に蓄積されてきたものすべてを否定するつもりはありません。それでも年齢的にも若く、海外での経験も人よりもあると思うので、新しい価値観や新しい発想をどんどん取り入れていくことで、会社のためになるのではないかと思っています。


理想のリーダーに求められる3つの要素

──尊敬するビジネスパーソンがいれば、名前を挙げていただけますか。

星野 真っ先に思い浮かぶのは、JPモルガンチェースの会長兼CEOのジェームス・ダイモンです。マックス・ウェーバーというドイツの社会学者が100年以上前に書いた名著『職業としての政治』という本の中で、理想のリーダーに求められる資質として挙げている3つの要素が、情熱、責任感、そして判断力なんです。その3つの全てを兼ね備えた理想的なリーダーが、私の中ではジェームス・ダイモンです。彼は2008年の金融危機を乗り切って、むしろその危機をチャンスに変えてJPモルガンチェースを一気に成長させた優れた経営者です。危機の時代にあってもリーダーシップを発揮して、情熱を持ちつつも冷静な判断力を兼ね備えて、社員に対する責任、会社に対する責任をしっかり果たす。私の中では理想的なリーダーです。いつかお会いできたら嬉しいですね。

──最後にNEXUSグループの各取引先をはじめ、遊技業界の関係者にメッセージをお願いします。

星野 ジェームス・ダイモンがよく言う言葉に「フェアネス」があります。いわゆる公平さですね。社員も含めて取引先様やステークホルダーの方々に対して、私はこのフェアネスを持って接したいと思っています。当然、現実的にはいろいろな関係性があると思うのですが、基本的にはイコールであり、対等な関係だと思っていますので、そこはしっかりお互いにとって利益になるようなところを見つけていきたい。同じ業界に関わる人間として、今後の業界をしっかり盛り上げたいという思いはあるので、手を取りあって業界の更なる発展のために、一緒に頑張っていけたらと思っています。


聞き手・文=野崎太祐(アミューズメントジャパン)
※月刊アミューズメントジャパン2025年8月号に掲載した記事を転載しました。


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